バックトゥ1980 ーー 何もかもが別格だったトヨタ・ソアラ
トヨタ・ソアラ(1981)
トヨタのあらゆる技術が組み込まれたイメージ・リーダー
1970年代は国産車の輸出も大幅に増大し、その実力も欧米のメーカーに追いつてきたという時代だった。しかし、それはやはり国産車が得意とするコンパクトカー・クラスの話であり、さてそれ以上のプレミアム・セグメントになるとまったくといってお話にならない状態だった。そこで、トヨタ、日産という日本の2大巨頭は、新たなチャレンジを行う。つまり3ナンバー(といってもボディ・サイズではなくエンジン排気量がオーバー2ℓという意味)が主体のGTモデルの計画だ。
そして、その計画は日産に於いては1980年にデビューしたレパード、そしてトヨタでは1981年に登場したソアラとして実を結ぶ。特に、1年遅れての発売とはなったが、トヨタ・ソアラは折しもの好景気を受けて空前のヒット作となった。ちなみに、このソアラは第2回カー・オブ・ザ・イヤーを獲得することになる。
その伸びやかなスタリングから受けた衝撃は今でも覚えている。日本でもやっとこんなクルマが作れるのかと思った。ボディの幅こそ、下位グレードに2ℓモデルがあったため5ナンバー枠ではあったものの、美しいクーペ・スタイルは本当に格好よかった。
また、そのメカニズムも魅力が満載だった。エンジンは、上位グレードの2.8ℓには、それまでのシングルカムの5M-EUをベースにヘッドをツインカム化した5M-GEUが搭載された。パワーはグロスで170ps、トルクが24.0kg-m。これはライバルのレパートのL28エンジン搭載モデルよりの145psよりも25ps大きい数値だった。このエンジン・パワーの差異がセールス上では大きな要因となり、ソアラはレパードを遥かに凌ぐ販売数となるのだ。
サスペンションはフロントがマクファーソン、リアがセミ・トーレリング・アームというコンベンショナルな4輪独立懸架だったが、GTグレードには日本初の4輪ベンチレーテッド・ディスク・ブレーキが採用されたのも大きな話題だった。また、組み合わせられるタイヤも当初は195/70HR14だったが、デビューしてから2年後の1983年に60タイヤが認可されると、205/60R15サイズのピレリP6が装備されたのもニュースだった。
この他、世界初のデジタル・メーターであるエレクトロマルチビジョン、トヨタ初となる回転数感応型パワー・ステアリング、マイコン式オート・エアコン、ドライブ・コンピュータ、クルーズ・コントロールが上級グレードには標準で装備され、後のマイナーチェンジではこれも世界初だったマイコン制御の足まわりであるTEMSも装備された。
更に、エンジンは、モデル末期の1985年にはトップ・モデルが5M-GEUから190ps、26.5kg-mを発揮する3ℓの6M-GEUに変更された。
まさに当時のトヨタの考えらえる技術を詰め込んだクルマであり、トヨタのイメージ・リーダーだったのだ。
スポーツカーではなくグラン・ツーリスモ
グロスで170ps、今のネットでは恐らく140psぐらいのパワーだったが、2.8ℓツインカムという言葉に踊らされていたのかもしれないが、当時は異次元の速さだった。スカイラン200GT-R以来の国産乗用車の最高パワーを塗り替えるエンジンということに、駆け出しの自動車雑誌編集者であったボクはワクワクした。
今となっては、その足まわりとかコーナリング特性というものを詳しく思い出せないのだ。それは、あまり体験したことのないエンジン・パワーと、デジタル・インパネを始めとする満艦飾といった装備に気を取られていたせいもあるかもしれない。それでも驚くほどのスピードでコーナーに入っていっても、しっかりと足がついてくれたのは覚えている。また、4輪ベンチレーテッド・ディスクと当時としては最大サイズのタイヤも安心感を抱かせてくれた。
また、このソアラが明確に目指したのが、スポーツカーではなくGTカーであったということに注目したい。つまり、ワインディングをかっとばすのではなく、高速道路をクルージングしていて気持ち良いクルマづくりがされていたのだ。これまでのも、スカイラインGT-Rをはじめ、GTというネーミングの国産車は山のようにあったが、本当の意味でのグラン・ツーリスモを目指し、ある程度その目的が達成されたのは、このソアラが最初ではなかっただろうか。
この初代ソアラが出た頃は、まだ日本もバブルとはいえずハイソカー・ブーム(死語)の前だったが、このソアラが次に来るハイソカー・ブームの礎を作ったと言っても過言ではない。
スーパーホワイト
この初代ソアラで最も印象が強いのは、このソアラから始まった「スーパーホワイト」というボディ・カラーだ。この後、トヨタのホワイトの代名詞ともなる「スーパー・ホワイト」は、実はこのソアラで初めて採用されたものだ。透明度のあるホワイトで、これが後のハイソカー・ブームのおキマリである、ホワイトのボティにワインレッドのインテリアという流行に火を付けたものであったことは確かだ。
現在の市場価値は?
驚くことに、初代ソアラの中古車価格をウェブサイト上で検索してみると、あまり程度のよろしくないモデルでも100万円、最終型の3.0GTリミテッドで状態の良いものであれば400万円という値段がついている。この後の2代目ソアラについてはそれほど価格が高騰していないが、やはり初代ソアラは、特定の人にとっては別格のクルマのようだ。
※ 「バック・トゥ1980」では、こんなクルマ取り上げて欲しい、とか、昔、このクルマに乗っていたんだけど当時の評価ってどんなものだったのかなぁ、といったリクエストをお待ちしております。編集部までお寄せください。