沖縄国際映画祭、レッドカーペットにて

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 「ラフ・アンド・ピース(笑いと平和)」をメインテーマに、コメディ作品が中心に扱われる沖縄国際映画祭(4月20日〜23日)は、すでに開催9回を数え、映画のみならず、お笑い、音楽、スポーツなど、様々なイベントが沖縄全島で開催されるようになり、春の風物詩となっている。

 今回、その取材旅行に参加するなかで、取材と上映スケジュールを選びながら、注目の上映作品をピックアップして鑑賞することができた。GACKT主演作品や、映画プロデューサー奥山和由による監督作、才能にあふれる海外作品など、日本でまだ公開されていない、個性あふれる映画を紹介していきたい。(メイン写真:最終日のレッドカーペットにて)

■インドネシアのギャグ&ミステリー映画『HANGOUT ハングアウト』

 自然に囲まれた美しい緑の島に集められた招待客9人が、閉鎖的な環境下において一人、また一人と連続殺人の犠牲者となっていくという、ある意味ではありふれた設定のミステリー映画だ。しかし、その殺人描写にはふんだんにギャグが盛り込まれ、笑いと殺人、謎が交錯する奇妙な味わいの作品となっている。日本でいえば、TVドラマ『TRICK トリック』の雰囲気も思い出され、上映会場では何度も爆笑が起こっていた。そのあたり、よしもとのお笑い芸人COWCOWの「あたりまえ体操」が何故かインドネシアでブレイクするなど、日本とインドネシアとの笑いの感覚に近しいところがあることを示す部分なのかもしれない。

 原作、監督、主演を担ったラディチャ・ディカは、コメディアンであり役者であり監督もこなすマルチタレントで、ツイッターのフォロワー数が1500万人以上を誇るインドネシアの超人気者である。それも頷けるほど、彼の紡ぎ出すギャグはクリーンヒットを連発していく。下ネタが多く、殺人を笑いに転化する不謹慎な内容も多いが、そこを上手く洒脱に着地させるセンスを持っているのだ。

 作中でラディチャ・ディカ演じる同名の主人公は、「最近、コメディアンの映画進出が増えている。自分が人気者過ぎることの恨みから命を狙われるのだろうか…」と思い悩むという、この映画自体をすら俯瞰するメタ視点が導入される実験性など、幅広い才能の豊さに感心させられる一作だった。

■台湾の「タラレバ娘」映画!?『マイ・エッグ・ボーイ』

 仕事をバリバリこなしてきたが、恋愛面では上手くいかないアラサー女性が、幸せな結婚や、出産に対する焦りに悩みながら日々奮闘するという内容で、台湾版の『東京タラレバ娘』といえるかもしれない。タラレバ娘では、擬人化されたタラの白子とレバテキが登場し、アラサー娘に現実を突き付けて追い詰めたが、本作ではかわいい衣装に身を包んだ、主人公の卵子が擬人化されて登場する。主人公は最愛のパートナーを見つけ出産する時間的な猶予を得るために、卵子を凍結する道を選ぶのだ。少年によって演じられる冷凍卵子(マイ・エッグ・ボーイ)は、生まれてくるのを待つ多くの仲間(他人の冷凍卵子たち)とともに、保管装置のなかで長い長い冬を過ごす。この現実離れした幻想的なシーンが、本作に映画作品としての強い力を与えている。

 会場にゲストとして登壇し、ハンサムさを印象付けた鳳小岳(リディアン・ヴォーン)が演じる、イケメンシェフとの恋愛や、冷凍食品で繋がった母娘の愛情、そして南国・台湾人のあこがれだという、雪と氷に包まれたアイスランドの静謐な風景、そして晩婚傾向や少子化問題など、様々な要素が登場する本作だが、それらが一本の作品のなかでバランスよく整理され機能しており、観客を飽きさせずにテーマを伝えることに成功している。小説家、脚本家として活躍し、映画監督としても国際的に評価される、沖縄国際映画祭の常連、傅天余(フー・ティエンユー)監督の手腕は見事である。

■GACKTのかつてない姿が拝める『カーラヌカン』

 那覇から20キロほどの距離にある北谷(ちゃたん)町のリゾート、美浜アメリカンビレッジの会場に、多くの熱狂的な女性ファンが殺到した。目当ては、今回14年ぶりに映画の主演を務めたGACKTの舞台挨拶である。「GACKTさーーーん!!」という歓声に包まれた熱気あふれる会場で上映された『カーラヌカン』は、かなり異様な味わいの作品だった。

 人気の高さに関わらず、GACKTが14年間、映画で主役を演じてこなかったというのは、やはり扱いの難しい独特なキャラクターによるところが大きいだろう。沖縄本島からさらに400km離れた、日本最南西端の沖縄八重山諸島地域に訪れた世界的カメラマンを演じるGACKTは、やはりGACKTそのものといった風情だ。そして、その演技が作品に強い個性を与えていることも事実である。だが本作では同時に、誰も見たことのないGACKTの姿を拝むこともできる。

 沖縄の大自然の美、元新体操選手の木村涼香が演じる少女の「カーラヌカン(川の神)」の化身のような健康美。そしてGACKTという、「美の饗宴」が本作の中心となるコンセプトだろう。だが、少女の神性に魅了され、名声や富など全てを投げ出し、八重山の壮大な自然の中をさまよい続ける男を演じるGACKTは、その「美」すら埋もれさせるように、顔に付け髭をつけることによって、自然に還ってゆく姿をも表現している。おそらく映画で初めて表現される「自然に同化するGACKT」である。そして、完全に沖縄の自然と一体になった瞬間にGACKTの口から発せられる意外なセリフにも注目してほしい。

■人間の内面にあるこわさと、真の贖罪を問う実験作『クロス』

 黒い糸と白い糸が編み込まれた布地(クロス)のように、人間という存在は、歳を重ねるごとに複雑な味わいを増していく。我々が普通に接している身近な人間の中にも、おぞましい欲望や嫉妬が渦巻いているかもしれない。本作『クロス』は、過去に愛する人の妻を殺めてしまったことで、重い十字架(クロス)を背負い続ける女の姿を描きながら、戦慄するような人間のこわさを暴き出していく。監督の奥山和由は、主演に紺野千春をキャスティングしたのは、年輪が刻まれていくことによって醸成された、ある種の「不気味さ」を彼女に感じたからだと述べている。

 本作は、「脚本家の登竜門」といわれる城戸賞を受賞した脚本を基にしている。受賞しながらなかなか映画化されてこなかった背景には、そこに描かれた「人間の内面」を表現する難しさがあったように思われる。舞台あいさつで登壇した奥山和由監督が、「変な映画」、「実験的な映画」と繰り返していたように、本作は役者のリアリスティックな演技を、不安定な映像によって映し出すことで、その怖さを表現しきろうとする。『蝉しぐれ』で日本アカデミー賞撮影賞を受賞した釘宮慎治が、共同監督として、その実験的表現に挑んでいる。

 この度、本作の監督であり、プロデューサーとして数々の優れた日本映画を生み出してきた奥山和由に、本作について、またプロデューサーという仕事の真髄や、現在の日本の映画製作の状況などについて、たっぷりインタビューすることができた。この刺激的な内容については、近日リアルサウンド映画部の記事で発表する予定だ。

 春とはいえ、強く降り注ぐ沖縄の陽光のなかで映画館に入って、ひととき陰のなかに埋没するという行為は、本土とはまた少し違った体験であるように感じた。今回、メインの上映会場となった那覇市の桜坂劇場は、何度かリニューアルされたものの、芝居小屋をルーツに持つ、日本の歴史ある劇場の一つである。そこで映画を観ることで、自分自身も歴史の一部になったような気持ちがした。すぐ近くにある、ガジュマルなど沖縄らしい大木が生え、人懐こい野良猫もたくさんいる希望ヶ丘公園は、上映時間の合間、沖縄のゆったりした時間を感じとることができるスポットだった。沖縄観光もかねて、ぜひ読者にも、次回の沖縄国際映画祭に来場し、自然と文化を感じながら、悠久の時間の中に身を浸してもらいたい。(小野寺系(k.onodera))