母乳は赤ちゃんのものだけではない?

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安らぎやつながりを求めるために、大人がパートナーの母乳を飲む関係が欧米で増えているという。理由は「健康」や「いやし」などさまざまだ。

「母乳パートナー」を求めるサイトまであり、「フェティシズム(性的倒錯)」「幼児愛の変形」などの批判も相次いでいる。いったい、母乳を飲んでどうなるというのだろうか。

授乳で増える「愛情ホルモン」が安らぎに

この大人同士が母乳を飲む・与える関係を、「Adult Nursing Relationship」(ANR・アダルト・ナーシング・リレーションシップ)、あるいは「Adult breast-feeding Relationship」(ABR・アダルト・ブレストフィーディング・リレーションシップ)という。ともに「大人の授乳ケア関係」とでも訳される。「ANR」は2010年代前半から米国を中心に広まったらしい。米誌「ローリング・ストーン」のウェブサイト版「全米で増加中 授乳関係を持つカップル(ANR)の実態とは」(2016年9月06号)によると、乳児に授乳している若いカップルではなく、とっくに「卒乳」している40〜50代の熟年カップルに多いのが特徴だ。

たとえば、57歳の夫ギャレットに授乳している55歳の妻エリーの例。

ふたりは一緒になって6年。ギャレットは長時間勤務、エリーは「主婦」で、ギャレットが帰宅するとすぐに授乳する。エリーは子どもを生んだ経験はあり、こう語る。

「私は子育てを経験していますが、成人したギャレットに母乳を与えるのは子育てとまったく違います。私は彼を子ども扱いしないし、彼も私に母親役をやってほしくないのです。私たちは授乳した後、とてもリラックスできます」

リラックスの理由として、記事では、「オキシトシン」をあげている。「オキシトシン」は「愛情ホルモン」とも呼ばれ、赤ちゃんにオッパイを与えている時の母親の体内に分泌される。赤ちゃんを「愛おしい!」と思い、周囲に人に優しくなるホルモンで、母乳の中にも含まれる。飲んだ男性も安らかな優しい気持ちになるというのだ。

ただし、母乳は毎日授乳しないとすぐに出なくなるし、乳腺が詰まって感染症になる危険もある。そこで、記事では、出張が多い夫が不在の間、母乳の供給を維持する為に他の男性に母乳を与えている女性のケースも紹介している。

熟年が母乳を出す涙ぐましい方法は

それにしても、どうすれば「熟年」でも母乳が出るようになるのだろうか。

英国の大衆紙サンの2016年6月7日付「私は、ボーイフレンドに授乳しています」では、細かく母乳の出し方を紹介している。

記事には36歳の女性ジェニファーさんと、36歳の恋人男性のブラッド氏が登場する。2人は「ANR」の相手を見つけたくて、「ANRフォーラム」のサイトを通じ知り合った。ジェニファーさんは16歳の時に女児を生んで以来、20年間出産経験がない。

そこで母乳を出すようにするため、2人は涙ぐましい努力を続けた。まず、ジェニファーさんはブラッド氏に乳房を吸ってもらう時、娘に授乳していた時を思い出し、「母性愛」を高めた。そして、「ANR」の多くのサイトで紹介されている母乳分泌を促進するというハーブドリンク、通称「マザーズミルクティー」を1日3回飲んだ。ハーブの丸薬も飲み、毎回の食事にオートミールと亜麻の種を加えた。また、吸引ポンプを使って乳房を刺激、スポーツジムにも通い、エクササイズに励んだ。

努力のかいがあり、約2か月後に母乳が出始めたが、それからが大変だ。母乳は、毎日何回も飲ませないと、すぐ出なくなる。そこで、2時間おきに乳房を刺激し、母乳を吸う必要があるため、ブラッド氏はバーテンダーの仕事を休職した。

そして、2人は2時間ごとに授乳する行為を続けている。ブラッド氏が疲れて起きない時は、ジェニファーさんはポンプで搾乳をする。娘の時は8カ月で卒乳したが、ブラッド氏には生涯授乳するつもりだ。

フェティシズム批判が起こる2つの理由

米国のニュースサイト「broadly vice.com」(2016年7月7日付)は、大きな乳房のイラストを背景に「これを吸う? 大人の母乳育児関係とそれを愛する人々」という記事を掲載した。記事の内容は、批判する意見と当事者の声、そして専門家の指摘を、次のようにバランスよく紹介している(要約抜粋)。

「ANRには多くのオンラインコミュニティーがありますが、人々は彼らを『グロテスク』『異常』『偏愛』と批判しています。彼らが母乳を分泌させるために行なっている方法に低電圧の電流を1日に4回、約20分ずつ胸に流すというものがあります。その時にあげる叫び声は、批判者が『フェティシズム(性的倒錯)』というように、決してセクシーとは言えません。なぜ、彼らはこんなことをするのでしょうか。彼らの声を聞きましょう」
「50代の女性ケイトは、こう言います。『夫との関係は、母乳育児に入ってから強くなりました。セックスのためと思う人がいますが、違います。母乳を与える時は相手の性別は全く頭に入りません。昔、娘を母乳で育てた時と同じ。私たちはテレビの前で授乳します。母乳を与えること、それを飲むことは、体ではなく心の領域だけで、愛し、愛される関係になります。実際、夫が授乳中の時は、私たちが最も平等な時です。私たちは2人とも養いの気持ちを共有することができます』」

記事では、セックスカウンセラーのトーニャ・ミラーさんのコメントで締めくくっている。ミラーさんは編集部の「フェティシズムという批判があるが」という問いかけに、断定せずにこう答えた。

「ANRには、フェティシズムの批判の嵐が完璧に起こる理由があります。私たちを非常に不快にさせる2つのタブーが組み合わさった行為だからです。1つは母乳を飲む行為によって、大人の男性が女性に依存しているように見えること。男性は女性より強くあらねばという社会の考えに反しています。2つ目は、女性の最も神聖な場所と行為と思われている乳房と授乳を、女性側のアイデアによって、性に使っているように見られることです」