映画『ムーンライト』コラム(前編)、主人公の内面と音楽をリンクさせる“奏法”とは?

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 現在公開中の映画『ムーンライト』で、内容や映像美と並び、高い評価を受けているオリジナル・サウンドトラックが4月7日にリリースされた。その秘密は、監督のこだわりで劇中に使用された音楽の“奏法”に隠されていた。

 ゲイの黒人少年シャロンの青春ストーリーを描き、今年2月に発表されたアカデミー賞では作品賞をはじめ、計3部門に輝いたドラマ映画『ムーンライト』。シャロン役の3人の俳優の素晴らしい演技や詩的な映像美など、たくさんの見どころを持つ作品の中でも、特に高く評価されているのが、美しいスコア音楽。一聴すると、ピアノやヴァイオリンを主体とした“古典的なクラシック音楽”に聞こえるが、実は意外なことに、その裏で“ヒップホップ”のリミックス手法が取り入れられている点でも注目されている。

 具体的に言うと、この映画の劇中音楽で使用されたのは、ヒップホップの世界で“チョップド・アンド・スクリュード(Chopped and Screwed)”と呼ばれる、ちょっと特殊なリミックス手法。曲のスピードを極端に遅くすることで、ボーカルや曲全体のピッチ(音程)が低くなり、まるで“催眠術”のような不思議なリスニング効果が生まれる……というものだ。

 バリー・ジェンキンス監督と、スコア音楽を作曲したニコラス・ブリテルは、このリミックスの手法を、クラシック音楽を主体とする『ムーンライト』の中で、音楽のジャンルを超えて大胆に応用。物語が進むにつれ、同じメロディのテーマ曲を微妙に“変容”させていくことで、主人公の少年の<内面の変化>をサブリミナルに表現していく。

 そのことが最も顕著になるのは、高校生になったシャロンが校庭でクラスメートの友人からボコボコに殴られるシーン。幼い少年時代の場面ではシンプルにアレンジされていたテーマ曲は、ここでは激しく“チョップド・アンド・スクリュード”され、もはや原型をとどめていない。でも、よく耳を澄ましてみれば、そのもやもやした混沌の奥の方に、かつての美しいメロディの<面影>を聴き取ることもできるはず。映画『ムーンライト』を改めて観る際には、そんな主人公の内面世界と音楽の関係により深く注目してみると、また新しい感動があるかも!?

text:内瀬戸久司

◎「Little’s Theme」:https://youtu.be/HZUwlfYy-nw
◎「Chiron’s Theme」:https://youtu.be/EuT_vOxrEsc
◎「Chiron’s Theme」(“チョップド・アンド・スクリュード”):https://youtu.be/3CbIZKJUcMU


◎リリース情報
オリジナル・サウンドトラック 『ムーンライト』
Now On Sale
RBCP-3186 2,400円(tax out)
01. Every N****r Is a Star by Boris Gardner
02. Little's Theme
03. Ride Home
04. Vesperae Solennes de Confessore ? Laudate Dominum,K.339
05. The Middle of the World
06. The Spot
07. Interlude
08. Chiron's Theme
09. MetroRail Closing
10. Chiron's Theme Chopped & Screwed (Knock Down Stay Down)
11. You Don't Even Know
12. Don't Look at Me
13. Cell Therapy by Goodie Mob
14. Atlanta Ain't but So Big
15. Sweet Dreams
16. Chef's Special
17. Hello Stranger by Barbara Lewis
18. Black's Theme
19. Who Is You
20. End Credits Suite
21. The Culmination (Bonus Track)

◎公開情報 
『ムーンライト』
2017年3月31日(金)TOHOシネマズシャンテ他にて全国公開
監督・脚本:バリー・ジェンキンス
エグゼクティブプロデューサー:ブラッド・ピット
キャスト:トレバンテ・ローズ、アッシュトン・サンダース、アレックス・ヒバート、マハーシャラ・アリ、ナオミ・ハリス、アンドレ・ホーランド
提供:ファントム・フィルム/カルチュア・パブリッシャーズ/朝日新聞社
配給:ファントム・フィルム
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