「なぜ、消防車でうどんを食べにきているんだ!」

2017年4月、愛知県の消防団に対し、市民から「消防車でうどんを食べに来ている」という苦情が寄せられました。

ちなみに、『消防士』とは、消防に所属する職員のうち火災が発生した際に火災現場へおもむく人のことで、身分は『地方公務員』。厳密にいうと「消防職員の階級の1つ」ですが、一般的には消防職員全般の呼称として定着しています。

一方、『消防団』に所属する消防団員は純粋な公務員とはいえません。『非常勤特別職の地方公務員』で、身分は各市町村の条例によって定められています。条件は自治体によって異なるため、ひとくくりに語ることはできませんが、ボランティアという意味合いが強い存在です。

該当する男性団員7名は「消防車で飲食店に来るのは非常識」と口頭で注意を促され、消防車は消防活動以外に使用しないというルールになりました。

消防士や救急隊員に寄せられる、とんでもない『クレーム

「救急隊員は連続する出勤などのため、食事がとれない場合があります。
そのため、ご理解をいただいた病院の売店で飲食物を購入し、飲食をとることになりました」

病院に貼られた告知が、現在Twitterで話題になっています。そこに書かれていたのは、病院の利用者に対する「救急隊員も売店を利用します」という、一見当たり前のことでした。

※写真はイメージ

この投稿に対し、「こんなことも断りをいれないといけないのか」「クレームを入れた人がいたのだろう」といった怒りの声が上がる一方、「なぜ救急車でお店に寄るんだ」といった非難の声も上がっています。

こういった『過度な配慮』や『過度なクレーム』は、消防士や救急隊員といった人命救助に関わる人たちを苦しめているのです。

現役消防士に、話を伺いました

多数寄せられる『過度なクレーム』に頭を悩ませている消防士たち。この件について、現役消防士に話を伺いました。

消防士Aさん

――実際に、どのような苦情が寄せられましたか。

スーパーや弁当店の近くに消防車を停めていたら、「消防車で購入していいのか」「邪魔」といった苦情がありました。

たった1つの苦情で、私たちの労働環境が悪くなります。本来なら、上の人間がきちんと説明して折れないことが大切だと思うのですが、謝ってばかりです。

――仕事中、休憩時間はどれくらいあるのでしょうか。

現場の消防士は、基本24時間勤務です。私たちの所属では、休憩時間は12〜13時、22〜5時半となっています。もちろん、その間に出動要請がかかれば出動します。

24時間勤務していますが、22〜5時半までは休憩時間ととらえられますので、16時間しか勤務時間として扱われません。

休憩時間といっても勝手に外に行けるわけでなく、拘束されています。この時間を無賃金拘束時間といい、昔から問題になっていますが、解決の見通しがありません。

救急隊は昼夜問わず出動があり、昼食が取れず出ずっぱりです。夜中も出動が多数あり、いつも疲労困憊しています。

――消防士として、メッセージをお願いします。

消防士も人間です。食べなければ、力も出ないし頭も回りません。

また、私の所属では夕食を作っているのですが、休みの日に自分の時間を削り、買い出しを行っています。

約30食分を買い出しするのに、2〜3時間かかっています。夕食作りは大規模災害時の「炊き出し」の訓練も兼ねています。

全国的に、消防車での買い出しは自粛されています。私の所属も、以前消防車で買い出しをしていました。

その時は、いつ出動があってもいいように装備も車に載せた出動態勢で、無線機を持ってスーパーで買い出しを行っていました。実は、庁舎内で待機しているよりもこの状態の方が出動が早いのです。

アメリカのように、市民と触れ合いながら買い出しできたら、地域の防災力の向上に繋がると思います。それと、消防車や救急車を見たら、恥ずかしがらずに手を振ってください。私たちの疲れも吹っ飛び、元気がでます!

ほかにも『過度なクレーム』に頭を抱える消防士が続々

消防士Bさん

確かに、まだ日本では消防車でスーパーや食事に行くのは一般的ではありません。ですが、パチンコに行ったわけでもなく食事ですよ、食事。

消防団員でも消防署員でも、人間なので食べなければ生きていけません。いつでも出動できる態勢をとった上で食事をするのが、そんなにいけないことでしょうか?消防車が停まっててびっくりしたのかもしれませんが、わざわざ写メ付きでクレームを入れることかと…。

怖いのは、こういうクレームをいちいち受け入れていると、次は「夜はうるさいからサイレン消せ」や「土日はうるさいから訓練するな」など、もっと酷いクレームに繋がり、業務に支障がでることです。

事実、うちの消防署は隣のマンションからのクレームで、土日の午前中はエンジンをかけての訓練は禁止になりましたし、サイレンも大通りに出るまでは減音モードを使うよういわれています。

ちなみにアメリカでは、スーパーに消防車専用の駐車スペースがあったり、消防士がレジに優先的に並ばせてもらったりしています。スペインでも、出動の帰りにコーヒースタンドに寄ったりはごく普通のことです。

その違いは何でしょう?欧米にもクレーマーはいると思いますが、何より消防士を尊敬する人が日本より遥かに多いのだと、自分は海外に行って痛感しました。一方で、欧米では『ヒーロー』として見られる消防士も、日本では『公務員』と見られることのほうが多いなと。

これは国民性もあるかと思いますが、日本の消防の広報下手&広報不足にも原因があるかと思います。普段はシャッターを閉めていて、「火事がない時は消防は何してるの?」と思われるような市民に遠い存在では、消防車での外食など理解されないでしょう。

子どもだけでなく、大人からも消防車に手を振ってもらえるような市民に近い存在になれるよう、消防の努力もいままで以上に求められると思います。市民に親しまれる消防となり、日本でも消防車でスーパーに行くのが当たり前な時代を目指していきましょう!

消防士Cさん

うちでは、10年前に業務中の筋力トレーニング(市民体育館での)が禁止になりました。理由は、市民から寄せられた「筋トレばっかりしてないで、仕事しろ!」というクレームに消防長が謝ってしまったからです。

また、同時期に夕飯を作るのも禁止になりました。「業務中に料理をする暇があるなら、訓練しろ!」との市民からのクレームです。

食堂が市民から見える作りになっていたせいもあるのかもしれませんが、やはり、世間様が景気が厳しい時代になると我々の風当たりも厳しくなるのかな…と。日本の消防は『ヒーロー』ではなく、『公務員』っていう目で見られてしまってるんですかね。

当然厳しい声ばかりでなく、ほとんどの方は、感謝の気持ちで迎えてくれます。ですが、たまにそういった厳しい目の方もおられます。

我々は、決して「命をかえりみず守ろう」とは思っていません。我々も自分の命を大切に活動しています。命と引き換えになんて美学は日本だけかもしれません。

命や体を張らなくてもいいように、日々訓練やトレーニングをこなし、知識を蓄えるために努力しています。その過程の1つに、チームでのコミュニケーションの場としてみんなで食事をしたり、筋トレをしたり、それぞれのコンディションを確かめたりするものだと考えます。

それをしっかりと広報しないと、やはり当たり前のように『消防=体を張って守ってくれる』という印象を持ってしまわれるのかな。

消防士Dさん

これは時代の流れかもしれませんが、火災予防週間や年末年始特別警戒で18〜21時くらいに防火広報に行くと「うるさくて子どもが起きたからやめてほしい」と市へ苦情がきました。

「まぁ、そういわれればそうかなぁ」と思ったりもするけどね…。

※写真はイメージ

日々、市民の命を救うために働いてくれる消防士たち。彼らの仕事は肉体的にも精神的にも、とても厳しいものです。

そして、そんな彼らの負担をさらに増やしているのは、市民から寄せられるこういった『過度なクレーム』なのです。

「どんなクレームにも誠実な対応をする」という、日本の風潮。確かに、誠実で丁寧なのは日本のいいところですが、明らかに少数の『過度なクレーム』に従うことは正しいのでしょうか。

「我々消防士も、人間です」

彼らがそういうように、当然、消防士や救急隊員も同じ人間です。食事や休憩をとらなければ、いざという時に力を発揮することができなくなります。

『過度なクレーム』に従う社会、もうやめませんか。

【お詫びと訂正】2017年5月1日17時00分

本記事内に「『消防士』は国の機関に属する地方公務員ですが、『消防団』は準公務員でありほとんどがボランティアで構成されています」という表現がございましたが、『消防士』『消防団』の説明に誤りがありました。訂正し、お詫び申し上げます。

[文・構成/grape編集部]