クリエイティブを生む環境を作る、という自己投資

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パティシエの仕事は、食べる人に喜んでいただける作品を生み出すことです。だから僕は、それに必要なインスピレーションを得るために、常にアンテナを張っています。アイデアは、友人との会話の中だったり、陶芸の工房に立ち寄ったときだったり、またはお風呂に入ってるときだったり……思いがけないときに湧いてくるものです。

今回は、僕がそれらのアイデアをどうまとめ、いかに作品に落とし込んでいるか、創作におけるインプットやアウトプットについてお話します。

毎年新作ショコラを生み出すプロセスは大きく決まっていて、まず準備として2月14日までに150〜200個ぐらいのアイデアを集めます。そこから3か月かけてアイデアを再現するための素材を集め、無数のカカオの中から合うものは何か結びつけていくんです。組み合わせてみて良いアイデアかどうかをざっくり判断し、6割くらいできたら3か月かけて細部を詰め直し、練り上げていきます。

それが、2017年は違いました。コンクールの出品が3月末だと知ったのが2月10日頃。創り上げて形にするまでの期間のあまりの短さに驚きましたが、なんとか50種類のショコラを形にできました。

インプットの方法として、僕は得たインスピレーションをすべてiPhoneにメモしています。例えば今見返すと、どの瞬間に思いついたのか「揚浜塩田と魚醤」というメモが残っています。かと思えば、「真っ赤が綺麗」とだけ書いてあったり。意味が分からないですよね(笑)。でもメモの日付を見れば、いつ、どこで何を見てそう思ったのか思い出せます。これが僕の日常です。

アイデアは、面白いことをひらめこうして出てくるものではありません。以前ニューヨークのコンクールで”干ぴょうのチョコレート”を出品しましたが、それは寿司を食べながら思いついたものです。

僕は素材に”和”のものを用いることが多いですが、意図的に”和”を探そうとしているわけではありません。日本の日常生活の中で僕が食べたり触れたりしているものは、世界にとってはまだ見ぬ”和”であり、それをチョコレートとのマリアージュで楽しんでもらいたいと思っています。

無意識を「意識」に変える

新作を生み出す3か月間は、毎日必ず昼休みに1時間ランニングをしています。走ることで、アイデアの点と点が線になる確率が明らかに高くなったと感じています。自分が常に良いパフォーマンスをするためには、体力と気力、心と体のバランスを整えることが必要。今までは睡眠時間があまり長くありませんでしたが、それも気を遣うようになりました。

体づくりでは、10年前から月に2回、ゲッタマンというパーソナルトレーナーに付いてもらっています。痩せることが目的ではなく、動かしていない筋肉を動かしたり、姿勢を矯正したりするためです。例えば、人前で喋ったり、食材を泡立てるホイッパーを持ったりするときの悪い癖を直し、なるべく長く体が動くようにキープしたい。

あまりガチガチに縛りたくはないけれど、どうやったらスムーズに作品を生み出せるかを考え、必要に応じては今までは無意識にやっていたことを意識しながら、なるべく長くベストな自分を保ちたいと考えているんです。

心の面では、1人の時間を持つことをとても大切にしてます。実は、作品は1人のときにしか生まれたことがないんです。だから休みの日に家族が家にいようとも、集中して考えたりしています。

(お店のある)三田市の隣の篠山市には丹波立杭焼の工房があり、2〜5月は休みの度に陶芸家のところに遊びに行っています。周囲には湧き水があってクレソンやワサビが自生していて、夏に木を蹴ったらクワガタが落ちてくるような、子どもにかえれる場所なんです。ただぼーっとコーヒーを飲みに行っているだけなんですが、この時間をとても大切にしています。