今年3月のW杯予選では、「ポスト長谷部誠」がひとつの論点になっている。日本代表は長谷部抜きでUAE、タイに勝利を収めたものの、中盤の機能低下は著しかった。単純な代役探しではなく、システム変更するにしても、あらためて「ボランチ」というポジションについて考えるときだろう。


FC東京でボランチとして定位置を獲得した橋本拳人「チームを動かして、確実に自分の仕事をして、チームを勝たせる。そういうボランチでありたいと思っています」

 そう語る橋本拳人(23歳)は今シーズン、FC東京のボランチとして定位置を手にしている。リオ五輪代表候補として注目され、現在はロシアW杯アジア最終予選の代表登録メンバーの1人。次世代の代表を担う、有力なボランチ候補だろう。

 もっとも、ボランチとしての経歴は浅い。

 橋本はユース時代まで、ゴールに近い位置でプレーしてきた。ボランチにコンバートされたのは高2のときだった。そしてプロに入ってからも、センターバック、右サイドハーフ、右インサイドハーフ、右サイドバック、左FW、左ウィングバックと目まぐるしくポジションを換えている。

「ポリバレント」

 それは彼の特長のひとつになっている。実際、これだけのポジションをプロのレベルでこなせるには戦術的センスが欠かせない。

「自分はまだまだ”ボランチとはこうあるべき”というのを模索中で、それを見つけたい、そう思ってはいます」

 そう語る橋本が追い求めるボランチ像とは――。

「一番大事にしているのは予測の部分ですかね。どこにボールが出てくるのか。チームでいいプレスがかかっているとき、その出どころを察知してボールを奪えたら、ひとつの達成感はあります」

 橋本はひとつひとつの言葉を用心深く使い、ボランチとしての心がけを明かしている。

「今の自分は、ゴール前に入って得点する、みたいなものが求められているのは分かります。ボールを持ったら、前に強引に運んでいくような感じとか。だから自分自身、プレミアリーグでも(ポール・)ポグバ(マンチェスター・ユナイテッド)とか、見ちゃいますし。攻撃の部分で自分のいいところは大事にはしたい、と思っています。でも、そういう派手さよりも、チームを回してる、というボランチになりたいんですよ」

 J1デビュー戦でいきなり得点を記録するなど、橋本は相手を凌駕する身体能力を持ち味のひとつにしている。軸が動かずに、柔らかい四肢の動きを見せ、そのダイナミズムを武器に攻守でアドバンテージが取れる。日本人というより、アフリカの選手のようなパワーとスピードを感じさせる。

 もっとも本人は、パワーとスピードに依存していては、ボランチとして次の段階にいけないことに気づいている。

「例えば浦和レッズの阿部(勇樹)さんとか、どっしりしてんな、と見惚れますね。些細なパスのタイミングやポジショニングだけで、全体を動かせる。周りが完全に見えているから、相手の動きを読んでプレーを”やめられる”んでしょうね。自分が”あそこにパスを出したらプレスがはめられる”と思っても、相手がそれを察知したら出すのをやめて、違う選択をする。見えている、というのは、ボランチには大きいですよ」

 結局のところ、ボランチは「読み合い」ということか。

「逆に対戦相手としては、プレーが読みにくい選手は難しい。例えば浦和の興梠(慎三)さんとかは、受けるタイミングもトラップもよくて、しかも裏も狙えるし、パスも出せるので。予測しにくいですね」

 橋本は日々、ボランチというポジションの在り方を模索している。その点、複数のポジションをこなしていることは、チームを動かす点で大きなメリットになるだろう。不必要なサイドチェンジがサイドバックにどれだけ負担になるか。サイドからダイアゴナルにゴール前へ走る選手がどのタイミングでパスがほしいのか。そういうディテールを、彼は自ら体験することで会得している。

「今シーズンの東京では、得点やそれに絡むプレーが要求されています。どんどん前には入れって。チームが求めるなら、それを選手としてやるだけですよ。ポジティブに捉えて。今は自分が成長するために、一日一日を大事にしていきたいです」

 橋本は野心的な表情で言う。

 地に足はついているが、海外挑戦志向がもともと強い。昨年はU-23代表でガーナと対戦し、対等以上にやり合っている。世界の強敵と渡り合うことで、進化を遂げるタイプだろう。ポジションへの適応もそうだが、相手のプレーを読み、戦いに順応する感性にも優れている。その点、海外でプレーするには大きなアドバンテージになるだろう。果たして稲本潤一、長谷部誠に匹敵するようなボランチになれるか。

「ボールの流れ、軌道を読む。ボールを持っている選手のキャラクターによってそれは違って、その感覚は楽しいですね! いつかみんなに”これがボランチ”と目標にされるような選手になりたい」

 橋本は溌剌(はつらつ)と言って、顔をほころばせた。

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