[相続税]遺産分割は「申告前」に済ませる

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■法定相続人が誰かを確定する

「相続が発生したら何をすればいいか」――。誰もがいつかは直面する問題であるが、その手続きは複雑かつ広範囲である。しかも期限を過ぎると実行不可能になる手続きや不利益を被るものもある。準備不足のまま死去をむかえると、十分な時間をつかって故人をとむらうこともできなくなる。残された家族の間に不満を残さないためにも、相続手続きのスケジュールをあらかじめ把握しておくことが重要だ。

相続発生の事実を金融機関が把握すると、被相続人の預貯金口座は凍結される。口座が凍結されると、入金も含め、引き出し、引き落としなど一切できなくなるため、公共料金の名義・口座変更は速やかに行う必要がある。また、国民健康保険、後期高齢者医療保険に加入している場合は、死亡から14日以内に市区町村役場へ資格喪失届の提出、保険証の返納をしなければならない。さらに、生命保険を契約している場合は、被保険者が死亡したことを保険会社に通知し、保険金請求書などの書類を提出して保険金の請求を行う。

故人が残した財産の整理や相続税の申告のためには、まず「法定相続人の確定」をしなければならない。そのためには、被相続人の出生時から死亡時までの戸籍謄本を取得する必要がある。兄弟姉妹等からの相続の場合、さらに広範な戸籍が必要である。戸籍は市区町村ごとに管理されているため、被相続人の戸籍が移動している場合は、移動先ごとに請求する。さらに相続人全員の戸籍も取り寄せ、これらの情報を元に、「相続関係説明図」を作成し、相続人を確定する。戸籍の取得は負担が大きいため、行政書士、司法書士、税理士に代理取得を依頼することもできる。

同時に、「被相続人の遺言の有無」を確認する。もし、公正証書遺言以外の遺言が見つかった場合は、家庭裁判所において相続人立ち会いの上、検認の手続きを行う必要がある。公正証書遺言の有無については、公証役場で調査できる。

遺言でとくに注意しなければならないは、「遺留分」である。「遺留分」とは、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人が、相続財産を確保できる最低限の割合をいう。遺留分を侵害する相続分の指定や遺贈(遺言による相続財産の無償贈与)があったとしても、法律上無効とはならないが、相続人や受遺者(遺贈を受けた者)に対して、その侵害された部分を請求することができる。これを「遺留分減殺請求」という。遺留分は、父母や祖父母など直系尊属のみが相続人である場合は相続財産の3分の1、その他の場合は2分の1となる。遺留分減殺請求権は、相続開始と減殺すべき贈与や遺贈があったことを知ったときから1年、相続開始から10年、どちらか早い日に消滅する。

■遺産分割協議のポイント

遺言の有無確認に続いて、「被相続人の財産と債務の確認、リスト化」を行う。これは相続の開始日から3か月以内に行わなければならない。というのも、被相続人のすべての財産・債務を受け継がない「相続放棄」や、相続財産の範囲内で債務を受け継ぐ「限定承認」の家庭裁判所への申述の期限が、相続開始があったことを知った日から3か月以内となっているからである。もし、被相続人の債務が資産の額を超えているのであれば、速やかに相続放棄を検討すべきだ。何もしなければ「単純承認」したと見なされ、債務も負うことになる。

財産と債務の確認の結果、相続財産が、基礎控除(3000万円+600万×法定相続人の数)以下の価額であれば相続税は課税されず、申告も必要ない。相続財産の合計額が基礎控除を超える場合、申告が必要になる。

被相続人の財産確認の次に行うのが、「被相続人の準確定申告」である。所得税は通常、その年の1月1日から12月31日までに発生した所得について計算され、翌年2月16日から3月15日の間に確定申告と納税を行う。相続が発生した場合、その年の1月1日から亡くなった日までに発生した所得から所得税を計算して、申告することになる。消費税の課税事業者の場合は、あわせて消費税の申告が必要である。これらを「準確定申告」という。この申告の期限は、相続開始があったことを知った日の翌日から4か月以内になり、申告書の提出先は、死亡した者の納税地を所轄する税務署となる。

遺言がなく、相続人が複数いる場合、相続財産は共同相続人全員の法定相続分に応じて、いったん共有状態となる。自由に使用し処分するためには、相続財産を具体的に分割し、各相続人の帰属とする必要がある。この分割のための話し合いを「遺産分割協議」という。遺産分割協議は、相続人のうち1人でも反対すれば成立しない。また一部の相続人を除外してなされた遺産分割は無効である。

遺産分割が成立すると、相続人は遺産分割協議書を作成し、原則として相続人全員がこれに署名捺印する。この対象者には、「包括受遺者」(※1)や「特別代理人」(※2)も含まれる。その際、全員分の印鑑証明書を添付する。

このようにして行われた遺産分割は、相続開始時にさかのぼり効力を生じ、被相続人の死亡時に直接相続したと見なされる。

遺産分割協議書の様式は自由で、とくに制限はない。しかし、この書類は、不動産の相続登記手続きの際に「登記原因証明情報」(相続証明書)として必要になるほか、凍結した預金などの名義変更、解約の際には提示を求められ、かつ相続税の申告書の添付書類にもなるので慎重に作成すべきである。

なお、遺産分割協議書は、必ずしも全員が一堂に会して作成する必要はない。合意が得られるのならば、相続人の人数分の協議書を、郵送しあうなどして各人が署名捺印し、作ることも可能である。

(※1)「包括受遺者」 個々の財産を特定しないで、財産の2分の1、3分の1など、割合で遺贈する方法を「包括遺贈」といい、その遺贈を受けた者をいう。包括受遺者は、遺産分割協議に参加することができる
(※2)「特別代理人」 相続人の中に未成年者がおり、親権者も相続人の場合に、家庭裁判所への申し立てによって選任される者。この場合、未成年者に代わり特別代理人が遺産分割協議に参加し、署名捺印を行う

■遺産分割は申告期限より前に

遺産分割が協議でまとまらない場合、家庭裁判所に調停や審判の申し立てを行うことになる。調停では、相続財産に関する資料、相続人への聴取にもとづき、調停委員会が解決のために助言を行い、決着を図る。調停不成立の場合は、自動的に審判手続きに入り、家事審判官が各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、遺産分割について審判を行う。

相続税申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月が申告期限となっている(期限日が土日祝日の場合には、これらの日の翌日)。相続税は、原則として、納期限までに現金一括納付で行い、申告書は、被相続人の住所地の税務署へ提出する。

しかし、相続財産には、不動産や株式など、現金化に時間と手間のかかる資産もあり、申告期限までに現金でまとめて支払うことが難しい場合がある。そのため、納税には、現金一括納付だけでなく、相続税を分割して5年から20年の年賦で支払う「延納」や、それも難しい場合に、納付困難な金額を限度として、有価証券、土地などを納税する「物納」も認められている。

申告が必要にもかかわらず、その期限までに遺産分割協議が合意に達しない場合、法定相続分に基づいて税額を算出し、納税を行うことになる。そして、協議がまとまった後、それにより税額を再計算し、申告時よりも多くなった場合は「修正申告」、少なくなった場合は「更正の請求」を行う。「小規模宅地等の特例」などは、遺産が未分割の場合は適用できない。「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付し、その期限内に遺産分割を行い、修正申告や更正の請求を行うことで適用が可能となる。税負担が生じることや、二重の申告の負担を考えれば、遺産分割協議は、相続税申告期限より前に終えるのが望ましいといえる。

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藤宮 浩
フジ総合グループ(株式会社フジ総合鑑定/フジ相続税理士法人)代表
株式会社フジ総合鑑定 代表取締役
埼玉県出身。1993年、日本大学法学部政治経済学科卒業。95年、宅地建物取引主任者試験合格。2004年、不動産鑑定士試験合格及び登録。12年、フィナンシャルプランナーCFP登録。04年に株式会社フジ総合鑑定代表取締役に就任し、相続不動産に強い不動産鑑定士として、徹底した土地評価を行うことで有名。主な著書に税理士・高原誠との共著である『あなたの相続税は戻ってきます』(現代書林)『日本一前向きな相続対策の本』(現代書林)、不動産鑑定士・小野寺恭孝との共著である『これだけ差が出る 相続税土地評価15事例 基礎編』(クロスメディア・マーケティング)。セミナー講演、各種メディアへの出演、寄稿多数。
高原 誠
フジ総合グループ(株式会社フジ総合鑑定/フジ相続税理士法人)副代表
フジ相続税理士法人 代表社員
東京都出身。2005年税理士登録。06年、税理士・吉海正一氏とともにフジ相続税理士法人を設立、同法人代表社員に就任。相続に特化した専門事務所の代表税理士として、年間600件以上の相続税申告・減額・還付業務を取り扱う。セミナー講演、各種メディアへの出演、寄稿多数。

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(株式会社フジ総合鑑定代表取締役 藤宮浩/フジ相続税理士法人代表社員 高原誠)