“嫌な奴”二人が心を通わせていく - 映画『僕とカミンスキーの旅』より
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 映画『僕とカミンスキーの旅』のヴォルフガング・ベッカー監督が、『グッバイ、レーニン!』以来12年ぶりにタッグを組んだダニエル・ブリュールや、彼が演じた役柄で表現したかったことについて語った。

 本作は、ドイツのベストセラー作家ダニエル・ケールマンの「僕とカミンスキー」(三修社刊)を原作にしたロードムービー。高慢な崖っぷち美術評論家ゼバスティアン(ダニエル)が、かつて“盲目の画家”として一世を風靡した老芸術家カミンスキー(イェスパー・クリステンセン)の真実を暴こうと彼を旅に誘い出すさまを、美しい絵画とヨーロッパの雄大な風景、そしてブラックな笑いと共に描く。

 “盲目の画家”という話題性でメディアに祭り上げられたカミンスキーのみならず、無知なのに他人を見下しているゼバスティアンの人物像など、アート界やジャーナリズムへの皮肉と風刺も効いている。ベッカー監督は「近年感じていることなのだが、多くの若いジャーナリストは自分の書く記事の課題について無知な人が多い。無垢とも言えるが。彼らはキャリアにしか興味がなく、苦労もせずにそれを手に入れようとしている。彼はそんな若いジャーナリストの典型だよ」とゼバスティアンについて説明。

 「彼の描く自己像と、他人の描く彼の像とはかけ離れている。そのことに彼自身、全く気が付いていないんだ。それも面白いと思った」という言葉通り、ゼバスティアンの「現実」と「心の声」と「妄想」が入り交じる映像に引き込まれる。最低なゼバスティアンだがなぜかチャーミングに思えてしまうのは、演じるダニエルの魅力によるものだろう。ダニエルと12年ぶりのタッグとなったベッカー監督は「彼はこの12年間の間に、僕よりもずっと多くの映画を作って豊かな経験を積んだから、今回は映画作りがずっと簡単になった。僕とダニエルは本当に長い間、父と子みたいな友人関係にある。でも映画作りに対する意見の違いがあれば、意見を戦わせたよ」と彼との生産的な撮影を明かした。

 偏屈な若者&老人という“嫌な奴”二人が心を通わせ、ゼバスティアンが前よりも少し自分自身を知るようになっていくさまは、どこか爽やかでもある。ベッカー監督はこの小説を映画化したいと思った理由について「最も惹かれた点はどこを読んでも年を取る、という点に触れていること。短い文章なのに、とても機知にあふれていた」と語り、「それなのに著者のダニエル・ケールは当時とても若く、25歳か何かだったんだよ(笑)。こんなに若い人が、年を取ることについて真意をついたような文章を書けることに驚かされた」と振り返っていた。(編集部・市川遥)

映画『僕とカミンスキーの旅』は公開中