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「揺らぐグーグル広告の信頼性──YouTubeへの「掲載基準」を巡り、広告主の離反が始まった」の写真・リンク付きの記事はこちら

イスラエルに本拠を置く起業家マタン・ウジエルは2016年後半、これまで見たことのない通知がYouTubeのバックエンド(クリエイターが動画をアップロードする場所)に表示されるのを目にした。「黄色いドルの記号が見えたのですが、最初はそれが何なのかわかりませんでした」とウジエルは言う。「わたしはその上にカーソルを動かし、自分の動画が広告に適さない、という意味だとわかったのです」

それまでにウジエルは、10本以上のヴィデオを作成し、「Real Women Real Stories」と呼ばれるYouTubeチャンネルに投稿していた。女性が自らの性的虐待の体験について、率直にカメラに向かって話すというチャンネルだ。

いくつかの動画の視聴回数は数千に上り、YouTube広告プログラムを通じて配信されるプレロール広告(動画本編の再生前に表示されるヴィデオ広告)も流せるようになった。ウジエルとチームにはいくらかのお金が入った。しかしいま、グーグルは彼らの動画の配信を停止しようとしていた。グーグルは彼の最新のヴィデオに広告を載せようとせず、最終的にはすべてのヴィデオに広告を載せることができなくなるだろう。問題はヴィデオの「デリケートな性質」だと、彼は言われた。

あいまいな巨人

ウジエルはグーグルに問題解決を求めたが、同社はそれを拒否した。グーグルの代理人はメールで、動画のタイトルが自動的にサイトのフィルターに反応している可能性があるとウジエルに伝えた。しかしウジエルは、なぜ彼の動画に広告がつけられなくなったのか、十分な説明は受けていないと言う。

同様の混乱が、グーグルの最近の広告にまつわる失敗の中心にある。大手広告主は2017年3月中旬、過激派の動画にバナー広告が掲載されたことで、YouTube広告を載せるのをやめた。広告主は英国政府からAT&Tに至るまで多岐にわたる。

グーグルは謝罪したが、まだ根本的な透明性の問題を抱えている。グーグルによると、差別的な発言や虐待を映すコンテンツをアップロードする人々が、報酬を受け取らないようにしたいのだという。しかしウジエルの経験が示すように、それによって価値のあるコンテンツが犠牲になっている可能性があるのだ。グーグルが何を基準とし、どんな取り組みを実践しているのかに関する不透明さは、YouTubeというインターネットで最も人気のあるサーヴィスのひとつに不安定さをもたらしている。

ブランドたちはグーグルを見捨て始めた

2017年3月、ロンドンの『タイムズ』紙はある調査を発表し、英国政府やいくつかの民間企業がスポンサーとなった広告が、テロリストグループを支援するYouTubeのヴィデオに先立って表示されたことを明らかにした。それに応えて広告主らは、YouTubeを含む広範囲のグーグルの広告ネットワークへの広告支出を減らし始めた。このボイコットは、さらなる問題が浮上するにつれて規模が大きくなった。ペプシコやウォールマートがいまや、グーグルに金をわたさない広告主の仲間入りをした。

グーグルは方針を検討し、公約を更新し、掲載内容の監視を改善すると述べている。不快かもしれない動画の審査を加速し、より多くの広告をフィルタリングする一方で、広告主にもっと広告の掲載場所を管理させようというのだ。

「100パーセント完璧なシステムはないと思いますが、こうしたステップは広告主のブランドをさらに保護すると考えています」。グーグルの最高執行責任者、フィリップ・シンドラーは声明のなかでそう述べている。

力をもちすぎた仲裁人

広告の表示先に関する方針について、確かにグーグルは大きな技術的課題に直面している。ユーザーは毎分400時間分ものコンテンツをYouTubeにアップロードする。そして数百万のウェブサイトが同社のプラットフォームに依存し、広告を自らのサイトにも表示させようとしている。

言い訳がましいが、広告界において完全なロジスティクスを求めてもすべての人を満足させることはできない。結局のところ、優れた技術を使って膨大な規模で金を稼ぐことにかけて、グーグル以上のことをした会社はないのだ。グーグルは何が適切かを判断することにおいて、“力をもちすぎた仲裁人”になるのを恐れて、広告を掲載するメディア(パブリッシャー)と広告主の間に立つことを躊躇しているのかもしれない。しかし彼らは、広告が適切なオーディエンスの目に触れるまでの経路を効率化することによって、多額の収益を生み出してもいる。

「何がグーグルのモチヴェイションとなっているのかを理解するのは難しい」と、ある広告企業の幹部は語っている。「基準に満たない広告を長らく扱い続けてきたなら、一晩でその基準を改善することなどできません」

善の区別

グーグルの広告システムは、長い間このような弱点に悩まされてきた。しかし、広告枠の購入者に広告の掲載結果を報告する方法に欠陥があるとフェイスブックが認めて以来、デジタル広告はより精査されていると、Pivo​​tal Researchのメディアアナリストであるブライアン・ウィーザーは語る。そのうえ、広告主はフェイクニュースという災難に“補助金”を払っていると見られることを恐れている。

「これまでそうでなかったとしても、いまではグーグルの広告に問題があることは明らかです」とウィーザーは言う。

いまやグーグルには、基準の修正を試みる以外に選択肢はない。多額の広告費をコントロールしている少数の広告主は、最近の出来事によって、ブランドの安全性についてより注意深くなっている。広告主からの圧力によってグーグルは、プラットフォーム上で許可するものと広告が表示される場所について、より一貫性をもち、慎重になるかもしれない。

「わたしたちは言論の自由と、民間企業とビジネスをする権利の区別をはっきりさせています」と、AppNexusのコミュニケーション担当、ジョシュ・ザイツは言う。AppNexusは2016年、彼らのヘイトスピーチに関する方針に違反したとして、『Breitbart News』が広告配信ツールを使用することを禁じている[日本語版記事]。「わたしたちは広告主のブランドの安全を守らなければならず、則るべき道徳規範をもっています。もしわたしたちが広告を掲載するメディアと仕事をしないなら、メディアが広告主に広告枠を売らなければならなくなります」

ウジエルは、「Real Women Real Stories」のコンテンツが重要なサーヴィスを提供していることをYouTubeに理解してもらいたいと考えている。そして広告主から支払われる援助によって、彼は女性に難しい問題について話す場所を提供するヴィデオをつくることができるのだということを。たしかにそれは、デリケートな内容かもしれない。しかし、人々のためになるサーヴィスだ。グーグルがこのような区別について方針を改善しない限り、広告主とクリエイターがグーグルを信用するのは難しいだろう。

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