金正恩委員長の真意は?(写真:アフロ)

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 臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になった著名人をピックアップ。記者会見などでの表情や仕草から、その人物の深層心理を推察する「今週の顔」。今回は、金正恩委員長の心理状態を読み解く。

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 北朝鮮をめぐる緊張状態が続いている。テレビで金正恩(キム・ジョンウン)労働党委員長の顔を見ない日はないほどだ。2012年の軍事パレード終了時、バルコニーから身を乗り出し、ちぎれんばかりに手を振り、群衆に向かって拍手していた若き指導者も、今や貫禄たっぷり、悠々と手を振る将軍様に。おっといけない、金委員長はまだ33歳だ。

 15日に行われた金日成生誕105周年記念軍事パレードでは、その貫禄ある身を人民服ではなく、スーツで包んでいたことが話題になった。人民服は金委員長にとってある種、ユニフォームみたいなもの。

 ユニフォームを着ることで、同じ集団や組織に属していると内部でも外部でも一目でわかり、集団のイメージを作りやすく、仲間意識や結束を強めることができる。警察官の制服を例にするが、それを着ていることで、相手から期待される役割を演出し優先させる効果もある。

 金委員長の人民服は、国としての結束と北朝鮮トップの役割を象徴するもの。だが諸外国から見ると、あの人民服姿は独裁者のイメージが強い。それを今回の軍事パレードでは脱いだのだ。ここには、自らの役割やイメージを変えようとする意図が働いているように思う。

 人民服姿の独裁者からスーツを着た発展する国のリーダーへ、イメージチェンジ。先進国となった中国だって、首脳陣はすでに人民服を脱ぎどこでもスーツ姿だ。宗教的な意味がないかぎり、発展する国のリーダーはみんなスーツなのだ。

 諸外国にとっても人民服姿よりスーツ姿の方が、見た目に違和感がないのは確かだ。もし人民服とスーツ姿の人が目の前に現れたら、間違いなくスーツ姿の人に好感を持つだろう。

 米国をはじめとする諸外国をこれまで以上に意識しており、すでに自分は各国首脳と肩を並べるグローバルなリーダーなのだと北朝鮮人民にもイメージ付けたかったのではないだろうか。

 さて、このスーツ姿、驚くことがもう1つある。その胸にバッジはなかったのだ。祖父を称える生誕記念の軍事パレードに、その肖像が描かれたバッジをつけないってどういうこと?…である。

 また、25日の朝鮮人民軍創建85周年を祝う合同攻撃演習で行った、建軍史上最大規模の砲撃訓練を、人民服姿で笑顔を見せて視察する金委員長の胸にも、肖像徽章である金日成バッジが見当たらないのだ。北朝鮮では、公式な場では必ずつけなければいけないはずだが。金委員長だけは、やはり別格ということだろうか?

 実は、これまでにも度々、バッジをつけていない姿が見られている。だが、今回はかつてないほど、その一挙一動に各国が注目している中でのことだ。

 もしかして自分は、祖父も父も越える存在になりつつある。いや、すでに越えたという思いがあるのではないだろうか。自身が祖父や父より偉大な指導者になったため、バッジは必要なくなったということかもしれない。北朝鮮はこれまでにないほど軍事力を持つ強い国に、祖父も父も成し得なかった強い国に、米国を脅かす国になっているという自負が、そうさせたのかも。

 そう思えるぐらい今回の軍事パレードでは、多種多様な兵器や新しいミサイルに、肝いりの精鋭部隊までも公開し、軍事力を見せつけた金委員長。映像では終始、機嫌がよさそうだ。真剣な眼差しでパレードを見ていると思えば、次のカットでは白い歯を見せ笑っている。側近や軍幹部と話している様子は、いかにも満足気だった。

 それに今回の映像には、2015年の朝鮮労働党創建70周年記念の軍事パレードやそれ以前の映像とは違う変化が見られる。金委員長の映像が以前より多くなっているのだ。年々増えてはいたが、今回は行進する部隊ごとに、それを見守る金委員長のカットが入っているのでは、と思えるぐらい多くなっている。

 国内的には金委員長がすべての部隊に関心を持ち、重要だと思っているというアピールに見える。対外的には、これだけ統制が取れた軍隊を掌握している様を見せつけたかったのかもしれない。

 感情的には、こんな推測もできそうだ。金委員長は世襲の3代目。会社に例えるなら、創業者が作って成長させた会社を、その背中を見てきた2代目が守る。バトンタッチした3代目は自分なりの改革を行おうとするが、これまでのやり方、歴史、組織文化に阻まれ周りの反感を買う。そんな環境に身を置くと、祖父や父を尊敬しながらも、どこかで反発、反抗したいという相反する感情が生じやすくなる。

 何かを変えようとしても、周りは嫌がるばかり。そこで3代目は、反りの合わない古参の役員を辞めさせ、言う事をきかない社員を排除して、自分なりの体制を作り上げる。そう、金委員長が粛清の嵐を吹かせ、恐怖政治を行ってきたのはまさにそれだ。そして祖父や父が築いてきた過去に縛られることなく、独自路線を歩み始める。バッジを外したのは、そんな相反する感情を心の奥に抱えていたからかもしれない。

 スーツを着てバッジをはすした金委員長は、いったいどこに向かうのだろうか?