テスラが買収の独企業CEOが退任、理由はマスクの「過剰な要求」か

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自動車ビジネスを変えようとする電気自動車(EV)メーカー、米テスラ・モーターズのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)の厳しい要求が、パートナー企業のトップをまたしても退任に追い込んだようだ。この一件は、テスラにとって何より重要な年内の「モデル3」発売を危険にさらしていた可能性もある。

ロイターが4月27日に報じたところによると、テスラが2016年に買収した生産工程を自動化するファクトリー・オートメーションの独グローマン・エンジニアリングの創業者、クラウス・グローマンCEOが3月、マスクCEOとの意見の対立から退職したという。

グローマン・エンジニアリングはダイムラーやBMWなどテスラ以外の自動車メーカーからも業務を請け負っているが、マスクはテスラの業務を最優先とするよう要求していた。グローマン前CEOはロイターに対し、「仕事に興味を失ったために辞めたということは、断じてない」と述べた。だが、秘密保持契約を理由に、詳細についてはコメントを避けている。

テスラの広報担当者はこの件について、グローマン前CEOは「素晴らしい企業を築いた人物」だと称賛すると同時に、「前CEOがテスラとの合併を決めた理由の一つは、引退と自社の将来を有能な後継者に委ねたいとの考えがあったことだ。テスラのプロジェクトを優先する方針に転換したことから双方ともに、次世代の経営陣に指揮権を譲るべきタイミングだと判断した」と説明した。

企業が自社の利益のために、買収をきっかけに中核事業を変更することは道理にかなっている。だが、ここ数年間にテスラと提携した各社が学んだことは、「テスラと組むなら、テスラの業務に専念しなくてはならない」ということだ。マスクはSUVの「モデルX」の生産開始当初、カリフォルニア州フリーモントの工場で起きた問題に対応するため、寝袋を持ち込んで工場に泊まり込んだ。そして、そのマスクがテスラに関わるその他の人たちに期待するのは、自らと同様の仕事に対する献身だ。

そうしたマスクの厳しい要求に応えることができない、あるいは応えようとしなかったことが原因で、テスラとの関係を断ち切ることになったのはグローマン前CEOだけではない。

モデルXのシートを生産していたオーストラリアのサプライヤーに問題があると判断した後、マスクはシートを自社生産に切り替えた。また、ファルコンウィングと呼ばれるドアを手掛けていたドイツ企業は、設計に関連する対応に問題があったとして、テスラから訴訟を起こされている。さらにテスラは今年1月、モデル3の発売に向けた準備の遅れを理由に、ドイツの部品メーカーとの契約を打ち切った。

グローマンはストを計画

これら各社とグローマン・エンジニアリングの違いは、テスラの下で働くことになった同社の従業員ら700人が、将来を案じてストライキの実施を計画したことだ。オートメーションとエンジニアリングに関するグローマンの専門知識を必要とするテスラにとって、これは破滅的な結果をもたらし得る大問題だった。テスラは来年には全車種を合わせ、年間50万台の生産を目指しているが、業界関係者でこの目標の実現を確信している人はごくわずかだ。

ストを回避するため、テスラはグローマンの従業員たちに雇用の保証と賃上げ、ストックオプションの付与を約束した。さらに、グローマンの労働組合関係者によれば、1000ユーロ(約12万円)のボーナスも支給したという。

テスラ側のこうした対応は功を奏しているようだ。この関係者によれば、ストの実施は見送られる方向にあるという。ただ、それでもドイツの有力労働組合、金属産業労組(IGメタル)はテスラに対し、グローマン従業員との正式な労働契約の締結と、仕事の保証に関するさらなる対応を求めている。

テスラとグローマンとの間で生じた問題は単に、マスクの性急な”破壊者”精神がドイツの秩序とプロセスを重視するエンジニアリング企業との間にもたらした文化的な衝突が原因なのかもしれない。いずれにしても、グローマンの経営権は完全にマスクが掌握した。今後、誰にもそれを譲ることはないだろう。