【ライターコラムfromC大阪】尹晶煥監督が示した感謝 “古巣”凱旋で見せた穏やかな笑顔

写真拡大

 通常、セレッソ大阪の尹晶煥監督の練習後の囲み取材は、トップチームの練習が行われているグラウンドから200メートルほど離れたクラブハウスの駐車場で行われるのだが、ルヴァンカップ第3節・サガン鳥栖戦の前日は、グラウンド横にあるベンチの前に記者を集め、「ここでやりましょう」と囲み取材が始まった。そこで語られたのは、古巣である鳥栖への思い。

「今まではホーム側のベンチで戦っていましたが、今度はアウェイの方に座るので、また違う感情が生まれてくると思います。ただし、今はセレッソにいるので、セレッソで結果を出すだけです。グループリーグを勝ち抜くためにも、明日の試合はとても大事。勝って鳥栖のサポーターの皆さんに挨拶に行ければと思います。もちろん、負けても挨拶に行きますけどね(笑)」。最後はジョークも交えつつ、終始にこやかな表情で話し終えた。

 尹晶煥監督にとって特別な一戦。単なる古巣帰還に留まらない感情を胸に秘めていたことが、試合後の記者会見で語られた。試合後、水沼宏太を連れて場内を1周した時の心境を尋ねると、「鳥栖を離れる時に、きちんと挨拶できずに離れてしまい、申し訳ない気持ちがありました。今日の試合の結果とは関係なく、皆さまの前で1周して挨拶するつもりでした」と、心の中にひっかかっていたトゲの存在を明かした。

 この試合、結果は4−4という乱打戦だった。守備をベースにサッカーを構築するリアリストの指揮官同士の対決とはおよそ思えない、安い失点が目立った。それは、敵将のマッシモ・フィッカデンディ監督が、「おかしな試合だった。絶対に普段はしないようなミスがあれだけあったら試合にならない」と嘆くほど。試合直前まで降り続いた雨によりグラウンドがスリッピーになっていた影響もあるかも知れない。C大阪の視点で言えば、DFラインに若手選手を2人起用した一方で、鳥栖の中盤から前線にかけてはレギュラークラスが並んでいた。相手のプレッシャーに耐え切れなかった側面もあるだろう。それにしても4失点。フィッカデンディ監督のように、尹晶煥監督も愚痴の一つをこぼしても不思議ではない。

 それでも、試合後の尹晶煥監督は笑顔だった。4失点の原因について尋ねた時のみ、少し顔をしかめたが、すぐに穏やかな表情に戻った。最後に「いつもサガン鳥栖というクラブを愛して、応援しているということは皆さんに分かっていただきたいと思います」と念を押すと、「メディアの皆さんにも久しぶりにお会いできて良かったです」と、鳥栖の報道陣への挨拶も欠かさなかった。

 将来の日本を引っ張る可能性を秘めている鎌田大地の2得点。今季、C大阪に移籍するもケガで出遅れた水沼宏太の意地の2発。さらには、現日本代表の清武弘嗣や、小野裕二の技巧も試合を彩った。守備の甘さに目を瞑れば、ゴールはどれもファインゴールばかりだった。雨上がりのベストアメニティスタジアムに咲いた8発のゴール。それは、尹晶煥監督の凱旋を祝うかのようでもあった。連戦が続くシビアなスケジュールの中、今回の一戦は、ふとそんなセンチメンタルにかられてしまう一夜であった。

文=小田尚史