奥行き方向の線が全て消失点という一点に収束するように放射状になっている構図「一点透視図法」など、スタンリー・キューブリック作品の中にはさまざまな撮影手法が取り入れられています。その中で、あまり語られることない「プラクティカル・ライティング」についてキューブリックが残した功績を、YouTubeチャンネルのEntertain The Elkが解説しています。

Stanley Kubrick: Practical Lighting - YouTube

映画を作るにあたって、キューブリックはさまざまな手法を用いていました。



一点透視図法や……



人物を正面から追い続けるショット



ズーム



人物が1点をじっと見据える「キューブリック・ステア」など。



しかし、このムービーでは、キューブリックを語る上であまり取り上げられない「プラクティカル・ライティング」について語られています。



プラクティカル・ライティングとは、光源が映像の中に視覚的に現れている状態のこと。シャンデリアや……



ダンスフロアの電飾



ダンサーを照らすスポットライト



キャンドル



たいまつの明かりなど。



言われると「確かに……!」と思ってしまうほど、キューブリック作品の中ではプラクティカル・ライティングが多用されています。















キューブリックが映画作品の中にプラクティカル・ライティングを取り入れた初めての監督というわけではありませんが、ハリウッド黄金期の映画の中でプラクティカル・ライティングが標準的な手法として用いられるようになったことに大きな功績があると、ムービーを制作したEntertain The Elkは語っています。



それまでのハリウッドでは、映画の照明として3点システムが用いられていました。3点システムでは、被写体は3つのライトに囲まれた状態で撮影されます。



1つは最も大きく、明るく、被写体を照らすメインとなる「キーライト」



そして2つ目は、キーライトによって生じる影を消すために被写体の横から照らされる「フィルライト」



そして3つ目は、被写体と背景とを分離するために背後から照らされる「バックライト」



3点システムを用いて撮影された映像はこんな感じ。



人物が周囲から浮き出て、女優や俳優の美しさが強調される形です。



しかし、3点システムによって撮影された映像はよく見ると影がなく……



女優の目も衣装も不自然なほど輝いて見えます。



しかも、映画を見ている人にはランプや電灯などの明かりが見えません。月明かりによって照らされているのかもしれませんが、物語からは「彼らがなぜ輝いているのか」が説明されないのです。



1960年代、ハリウッドの古典時代が終わりを迎え、映画の作り手たちはスタジオのセットの外へと目を向け、映画の中にもリアリズムを取り入れ出しました。



キューブリックは映画の中にリアリズムを取り入れることにこだわった1人でした。



プラクティカル・ライティングを映画で用いる理由はいくつかあります。例えば、「バリー・リンドン」では歴史に忠実にするために、ライトとしてろうそくだけが使われました。もしライトがきらびやかなら、視聴者は物語を信じることができず、物語に入ることを邪魔されるかもしれません。



ライトが1つぶら下げられているだけの「現金に体を張れ」のワンシーンでは、きらびやかさやロマンティックさが一切なく、不吉さが漂っています。



また、光源が限られているためにキャラクターが席を離れると姿が完全に消えるので、どのキャラクターが背後に回ったのかということも強調されます。



「アイズ ワイド シャット」の中ではたくさんのライトが散りばめられています。これは視聴者に特殊な認識を与えるための演出。



あらゆる場所にライトを散りばめることで、画面に「深度」を与え、画面の奥で行われていることと、手前の出来事を分離しています。これによって、短いシーンでも多くの情報を視聴者に与えられるわけです。



今日の映像作家たちにとって、プラクティカル・ライティングは慣れ親しんだ手法です。しかし、この手法が広まるまでには、キューブリックのような監督たちが、古典的なハリウッド映画に使われていた幻想的でロマンチックな撮影方法から脱却し、現実のように闇や影のある映像を作り出すようになったという背景があるわけです。