「スマホの「ブルーライト」をカットすれば、本当に寝付きはよくなる?」の写真・リンク付きの記事はこちら

わたしのスマートフォンの画面は、毎晩10時半になると淡いオレンジ色を帯びる。あらゆる色が暖色系に変わり、本来の色は想像もつかなくなってしまう。なぜならわたしのスマホには、脳を覚醒させるといわれているブルーライトを夜間に減らすために、決まった時間にスクリーン表示を調整する便利な機能があるからだ。

ブルーライトによって脳が覚醒しやすくなるのが本当であるなら、逆にスマホの画面から青色を取り除けば寝付きがよくなるのだろうか。この疑問について考えてみたい。

目には、ブルーライトに強く反応する受容体がある

まずは人間の目の構造を見てみよう。網膜には暗所で機能する桿体(かんたい)視細胞と、色に対して反応する錐体(すいたい)視細胞がある。だが実際のところ、目には第3の光受容体がある。内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)と呼ばれるものだ。

この受容体について、ハーヴァード大学医学大学院の睡眠研究者シャーダブ・ラーマンは次のように説明する。「ipRGCは、体内時計の調整をサポートする働きをもっています。生物的な時間を制御する脳の複数の領域に対して、網膜から刺激を投射しているのです」

そして、このipRGCはブルーライトに最も強く反応する。実際、何らかの理由で桿体視細胞と錐体視細胞が失われたとしても、体はipRGCを通じてブルーライトに反応できるのだ。研究によると、被験者がブルーライトにさらされると、覚醒レヴェルが向上することが明らかになっている。

それでは、なぜ「青」なのだろうか。ある説では、これは進化上の遺物ではないかと推測されている。はるか昔に人間の先祖にあたる哺乳類が、薄明薄暮性の生活を送っていたというのだ。つまり食糧を得るために、夕暮れどきや明け方に行動していたのである。1日のなかでも、これらの時間帯は空からの光に青色が少なく、オレンジ色が多い。したがってこの哺乳類は、世界の様子をはっきりと把握するために、進化の過程で青色の光に対してより敏感になったのだ。

「スマホのブルーライト=悪」なのか?

携帯電話やタブレットのスクリーンには、青色が特に多く含まれている。このため、手元の画面から放たれる無味乾燥な白い光は、睡眠に非常に悪く、体内時計に深刻な混乱を確実に招くとされる。では逆に、青色がない光についてはどうか。

これに関して科学者が過去に行った実験は、おもに「blue-depleted light」と呼ばれる青を取り除いた光に、被験者を晒すというものだった。ただし、光の照度は1,000ルクス(平均的なオフィスの照度は500ルクス程度)という極めて強いものだ。「寝室でデヴァイスから発せられる光は30ルクス程度で、これは1,000ルクスにはほど遠い明るさです」と、ラーマンは指摘する。

より現実に近い照度のblue-depleted lightに被験者を一晩晒すという実験でも、ある程度の変化はみられた。しかし、これらの結果も統計的に有意なものではない。「比較的暗い光の効果は、一晩で違いを把握できるほど明確なものではありません。より長期的な調査が必要でしょう」とラーマンは言う。つまり、非常に低い照度のblue-depleted lightが体内時計に変化をもたらすのかを、体系的に調査した研究は存在しないのである。

さらに問題を複雑にするのは、ディム設定で緑色っぽくなった光も、青色と同程度に脳を刺激しているかもしれないということだ。「この分野における真の問題は、誰もが光から青色を取り除く方向へと向かっていることです。ブルーライトをカットすると謳うサングラスが、実際に寝室の薄暗い光の下で効果をもつのかはまだわかっていないのです」とラーマンは言う。

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