極私的! 月報・青学陸上部 第33回

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 4月22日、日体大長距離記録会――。

 1500mのスタートリストを見て、「あれっ」と思った。

 このレースは例年、1、2年生が主に走っているのだが、リストの中に4年の下田裕太と3年の小野田勇次の名前があったのだ。

 副キャプテンの下田と箱根6区の山下りのスペシャリストである小野田は1500mを走るタイプではないし、通常ならこの時期は5000mか10000mにエントリーしているはずだ。実際、小野田は昨年、10000mを走っていた。

 今回も10000mにはキャプテンの吉永竜聖(4年)や箱根3区を走った森田歩希(3年)、好調を維持している橋詰大慧(3年)ら主力選手がエントリーしていた。経験も実績もある2人が10000mではなく、1500mを走るということは、もちろん何か意図があるのだろうが、ちょっと意外な感じがした。


新ユニフォームで力走を見せる青学大の選手たち
 12時15分、男子1500mの14組がスタートラインに並んだ。青学のユニフォームが青や緑からイエローに近い橙(だいだい)色に変わっている。

「見て、わかりやすくしたんです」

 安藤弘敏コーチが言う。

 確かに、このカラーだと集団で走っていても見つけやすい。従来の青や緑は見栄えがいいが、夜のレースでは暗さや集団と同化して見つけにくくなる。もっとも見慣れた青や緑ではない橙色というカラーに若干の違和感があるのだが……。

 レースがスタートした。

 鮮やかなブルーのトラックに選手が飛び出していく。スタートから生方敦也(2年)が飛ばし、その後に小野田がついていく。列が長く伸びていく中、小野田はペースが落ちず、ラスト400mでぐいぐいスピードを上げて、生方をかわしてトップでフィニッシュした。

タイムは、3分51秒72。豊川高校2年以来の自己ベスト更新だ。

一方、下田は13位に終わり、4分1秒28。こちらも加藤学園高校2年以来の1500m出場で自己ベスト更新になった。1月に右膝を故障し、ちょうど2週間前に練習を本格的にスタート、これが公式レースの復帰戦となった。

「足はもう大丈夫。レースはうーん、まぁまぁですね」

 そう笑顔を見せたが、しばらくリハビリが続いただけに走れた喜びが大きいようだ。これからペースを上げて調子を取り戻していくだろう。

 小野田は、好調を維持している。


箱根駅伝4連覇のキーマン、小野田勇次 3月5日の立川ハーフでは橋詰に次いで学内2位、63分42秒で自己ベストを更新した。今回の1500mも自己ベストを更新した。

 しかし、狙いはそこにはなかったようだ。

「今回、1500mにエントリーしたのは、来週(4月29日)の織田記念に向けての調整です。そこ(5000m)で結果を出してユニバーシアードに出場したいので、そのために1500を走って刺激を入れるのが目的です」

 今年8月に台北で開催されるユニバーシアードだが、5000mの出場者は織田記念で結果を残した選手が派遣されることになっている。

 小野田は織田記念陸上5000mに照準を合わせてきており、このレースはその調整の一環だったのだ。

「でも、大会に向けて特別なことは何もしていないです。今日も朝、コーラを飲んできました(笑)。コーラは僕のガソリンなんで」

 昨年、箱根直前の調整の仕方を聞いて、コーラがやめられない話を書いた。反響が大きく、そのネタが拡散し、ファンから寮にコーラが届けられたこともあったという。ポテトチップスにコーラというジャンクフードの王道を好み、練習についても今まで通りで特に変化がない。それでいて箱根をはじめ、レースでしっかりと結果を残す。

 青学をサポートするフィジカルトレーナーの佐藤基之は「小野田はセンスとタレントで走れている部分がある。もっとトレーニングしたらもっとすごくなる」と語っていたが、センスだけで走れているとも思えない。

 小野田には走れる何か秘訣みたいなものがあるのではないか。

「いや、本当に何もないですね(笑)。でも、あえて言えば僕が走れているのは故障しないからだと思います」

「無事之名馬(ぶじこれめいば)」とはよくいったものだが、たしかにケガをしない選手は活躍し続けることができる。イチローがいい例だ。

「故障しないって、すごく大きいと思います。みんな、けっこう故障している時期があるんですけど、僕は1年の時から大きな故障がなく、普通に練習をしていました。痛みがあったりすることはあったけど、練習を抜けたことはないです。結果が出ているのは、トータルでの練習量の差が出ているんじゃないかなと思います」

 故障がなくても調子が下降線をたどったり、なんとなく上がらない時期もあったりするはずだ。昨年8月の御嶽合宿で小野田は、フォームに乱れがあり、調子が今ひとつの状態だった。調子が悪い時はどうしているのだろうか。

「調子が悪いなって時も走ります。下田さんやタムカズ(田村和希)さんは、そういう時、練習が軽くなるんですけど、僕は『おまえ、サボりたいんだろ』って監督に言われるので、普通に練習しますね。僕も先輩みたいな扱いがいいなぁって思いますが、仕方ないです。サボってないですけど、サボりキャラがついてしまったので(苦笑)」
 
 原晋監督にイジられてはいるが、今まで”コーラ”をはじめ、自分なりに調整を考え、故障なくやってきた。そうして、結果を出してきた。その自信が言葉の端々から感じられる。たぶん、これからも小野田は、自分のやり方を変えずにいくのだろう。

 さて、この日体大長距離記録会で、2017シーズンが始まったが、今年はどんな目標を立てているのだろうか。

「今年の上半期は、ユニバの5000mに出られたらいいですし、関東インカレの5000mに出て、留学生と争って表彰台に上がれればいいかなと思っています。

 下半期は、出雲(駅伝)と箱根(駅伝)に合わせていきたいです。全日本(大学駅伝)に出ると箱根の調整が難しくなるので、あまり考えていない。ただ、チーム状況によっては走らないといけない場合があるので、出る準備だけはしておかなければ、と思っています。

 箱根は今年も6区です。他の区間を走るよりも6区を走った方が絶対に速く走れると思うんで。だから4年間、6区を走る。4年連続で58分台(1年時58分31秒、2年時58分48秒)というのを狙っています」

 昨年は「平地でも結果を出す」と全日本では5区(11.6km)を走り、区間賞を獲得した。箱根でも平地という意欲を一瞬見せていたが、やはり「山下り」にプライドがあった。そして、しっかりと結果を出した。

 今年も6区へのこだわりを隠さない。

「今年は区間新、取りたいです」
 
 前回の箱根では日体大4年の秋山清仁が激走し、58分1秒で区間新を獲得した。小野田には、57分台での区間新を目指してほしいところだ。

 それにしても、つくづく面白い選手だなと思う。

 食生活などアスリートっぽさを感じさせないが、レースではしっかり走る。外出するのが面倒臭く、寮に引きこもるインドア派だが、表情はいつも明るい。チームを引っ張るタイプではないが、その存在がチームを盛り上げる。人間的に面白いキャラクターであるが、チームにとっては重要な戦力。

 今シーズン、小野田が箱根4連覇達成のカギを握るひとりになるのは間違いないだろう。

 夜、土砂降りの中、吉永たちは10000mを走った。

 橋詰、橋間貴弥(3年)、森田、小田俊平(4年)に加え、吉永も自己ベストを更新した。雨に濡れ、寒さに震えていたが、その表情はやっとキャプテンらしい走りができたことにホッとしているようだった。

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