第61味 インド
高額紙幣廃止で景気悪化も回避。堅調さと安定性に前進するインド

モディ政権の進展で海外投資マネーの呼び込みをより可能に

今年2月末に公表された、インドの2016年 10 〜 12 月期の実質GDP(国内総生産)成長率の速報値は、前年同期比でプラス7%となりました。この結果は市場予想を上回り、国内外で少し驚きをもって迎えられたのです。

というのも、2016年11 月に政府は突如として最高額紙幣の1000ルピー札と、2番目に高い500ルピー札を廃止。流通紙幣のおよそ8割を占めていた高額紙幣刷新による混乱の影響もあって、事前のGDP予想は6%台まで後退するという見方が多かったからです。

経済への悪影響というリスクを負ってまで紙幣の刷新を行なった理由ですが、インドでは現金決済が商取引の約9割を占め、銀行を介さないお金の流れによってマネーロンダリング(資金洗浄)や、偽札の流通といった問題を抱えていたことが大きな要因です。

また、キャッシュレス化の推進によって、クレジットや電子マネーなどの産業を振興させる狙いもあります。

導入時には、新紙幣の印刷が間に合わず、市場の一部に混乱が生じましたが、モディ政権の経済政策は、3月に行なわれた地方議会選挙で与党のインド人民党(BJP)が圧勝している結果から、おおむね国民の支持を得ているようです。

そのほか、モディ政権の目玉政策「GST(物品・サービス税)」も導入が間近とされています。これは、州ごとに異なる複雑な間接税を一本化するというもの。実現すれば企業の事業コストや手続きが大幅に軽減されて、インド経済に恩恵をもたらすと期待されているものです。

このように、足元のインドの状況を眺めてみると、比較的堅調な経済状況と政権基盤の安定化の流れがスムーズになっている印象です。 実際、選挙後のインドの主要株価指数、インドSENSEX指数は2万9648ポイントと過去最高値をつけました。

さらに、インドは米国の「トランプ政権リスク」の影響を受けにくいという一面も持っています。インド経済は内需主導型の経済成長を志向していることもあり、輸出依存度が周辺の新興国に比べて低い水準にあります。GDPに占める輸出比率は 20 %台で、これはマレーシア(約 85 %)やタイ(約 75 %)などと比べてもかなり低く、今後トランプ政権が保護主義色を強めたとしても、他国に比べると影響を受けにくいといえます。

米国の利上げ加速による資金流出懸念も、モディ政権によるビジネス環境を改善する政策が進展することで、逆に海外からの資金を呼び込むことも可能になることでしょう。

楽天証券経済研究所 シニアマーケットアナリスト
土信田雅之
新光証券などを経て、2011年10月より現職。ネット証券隨一の中国マニアのテクニカルアナリスト。歴史も大好きで、お城巡りと古地図収集が趣味。