自動車は多くの部品の集合体です。自動車メーカーがそのすべての部品を作っているわけではなく、ほとんどのパーツは「サプライヤー」といわれる部品製造メーカーから納入され、自動車メーカーあるいはその関連会社の組み立て工場で組み付けられるのです。

タイヤなどは、ご存知の通り新車装着時のタイヤにもタイヤメーカーのロゴが入っているのでわかりやすいのですが、例えばガラスなんかも小さくガラスメーカーの会社名が入ってたりします。

話は広がりますが、自動車メーカーとは車体を組み立てることができる会社のことで、エンジンを始め、その他の部品を作る能力はなくてもできてしまうもの。ただし、現在における自動車メーカーとは、製品としての自動車を設計し、大量生産して多くの人に販売するネットワークがあり、アフターサービスはもちろん、不具合があった時にリコールなどの対応ができる、というのが自動車メーカーの条件だというのが現実的なのではないでしょうか。

ドイツに本拠地を置くZFも自動車部品をメーカーに供給するサプライヤーのひとつ。レースが好きな人ならスーパーGTでそのブルーのロゴを目にした人も多いのではないでしょうか。

古くからトランスミッションのサプライヤーとしてレース好き、クルマ好きには知られた存在です。私なんかは子供の頃からクルマのスペックを読んでいて、「ミッションはZF」と聞くと、本当のすごさはわからなくても、耳や目には「おお、ZF使ってるんならスゴいんだな」と勝手に自分で刷り込んで育ったものです。

ギヤの塊とも言えるミッションで有名、というZFですので、機械が得意な会社だと想像は付きます。が、つい先日、電子、センサーなどを得意とするサプライヤーであるTRWを買収しました。

その背景には、自動車が機械の集合体であることには昔から変わりありませんが、その機械を動かすのにほとんどが電子制御が関わってきています。

そうすると自動車メーカーにサプライする機械も、電子制御が入っている状態で売り込むほうが効率的ですし、メーカーも助かるはずです。

そこで、機械が得意なZFと、電子制御が得意なTRWが一緒になることでシナジー効果が生まれるというのは自然な発想と言えるかも知れません。

そうして、日本法人であるTRWオートモーティブジャパンもZFジャパンと合併、新たなスタートを切ることになったのです。

先日、こうした動きがあって、以前TRWオートモーティブジャパンが使用していた実験拠点が、新たにZFジャパンの拠点としてスタートしたことを我々報道陣に公開してくれました。

自動車部品の開発最前線の場ですので残念ながら撮影はすべてNGでしたが、実際の実験・開発の現場を見ることができました。

元々はTRWオートモーティブの施設ということもあり、シートベルト、エアバッグ、ブレーキなどに関する設備があるほか、セレナに納入されているプロパイロット用カメラ&画像処理ユニットと並んで次世代のカメラと映像処理の実験などが行われている車両を見せてもらいました。

例えばスレッド試験室。自動車が衝突した衝撃をシミュレートでき、ダミー人形にかかったGを計測するなどでシートベルトやエアバッグの設計に役立てています。

このほかに、ZFの主力商品の一つであるダンパーのセッティング用トラックもあります。このトラックは、自動車メーカーなどの開発現場、つまりテストコースなどにパーツ類、測定機、工具類、そしてエンジニアを一緒に運んでいき、その現場でセッティングを変えたダンパーを即座に組み上げ、開発中の車両に装着してテストをしてもらう、というためのもの。ZFでは欧州にはあったそうですが、日本でもやっと稼働し始めたとのことです。

 

そんな新生ZFジャパンの代表取締役社長には、新たにTRWオートモーティブジャパン出身の中根義浩氏が就任しました。中根社長は、1981年に当時の東海TRW株式会社へ入社し、1997~1998年には米国本社であるTRW Inc.(オハイオ州クリーブランド)に勤務経験もあるTRWの生え抜きだそうです。

中根社長によると、ZFとTRWが一緒になることによるシナジー効果により、『日本において責任を持ってZFグループをリプリゼント (代表)し、「優れたパフォーマンスとモーション、モビリティーにおける 世界基準技術」における開発パートナーとして選んでいただくべく、 お客様の信頼を勝ち取ることをビジョンに、ZFジャパンのミッションは革新的ソリューションを日本に本社を置くお客様にグローバルに提供し、「ビジョンゼロ」社会の実現に貢献する』としています。

「ビジョンゼロ」とは、交通事故ゼロ、エミッションゼロを目標とするビジョンです。

そんな中根社長の趣味は、「音楽、怪獣、プラモデル」だそうです。音楽は1968年から74年くらいの限られた年代のイギリスの音楽、好きな怪獣はケムール人、プラモデルの対象は戦車、とのことで、かなりピンポイントにこだわりのある趣味人であるように思いました。

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出来上がった自動車に触れる機会は数多い我々ですが、自動車の開発の中心部に入り込むのはなかなかできるものではありません。ZFがそうした拠点を見せることにはそれなりの自信があることなのでしょう。衝突被害軽減ブレーキ、歩行者保護装置、運転サポートなどを始めとする自動車の電子制御化は必須であり、その開発にかけるリソースは各メーカーで限られており、ますます集約されていくことが予想されます。集約された結果がメガサプライヤーと呼ばれる巨大部品メーカーですが、その大きな潮流の中でZFや純日本のサプライヤーたちの動向に注目が集まりそうです。

(clicccar編集長 小林 和久)

 

旧TRWと一緒になった新生ZFジャパンの実験施設と中根義浩社長に話を聞いた!! ZFのビジョンゼロとは?(http://clicccar.com/2017/04/28/465571/)