ジュビロ磐田のFW小川航基【写真:青木務】

写真拡大 (全2枚)

これまでの鬱憤を晴らすような3得点

 JリーグYBCルヴァンカップ、グループステージ第3節FC東京戦でハットトリックを決めたジュビロ磐田のFW小川航基。「高校ナンバーワンストライカー」との呼び声も高く、大きな期待を集めてプロの世界に飛び込んだものの、ルーキーイヤーとなった昨シーズンはリーグ戦出場ゼロ。世代別代表で輝きを放ちながら、東京五輪世代のエースは所属クラブでもがいていた。(取材・文:青木務)

----------

 ようやく踏み出した一歩は、特大の打ち上げ花火のように鮮やかで派手なものとなった。

 JリーグYBCルヴァンカップ グループステージ第3節・FC東京戦、高卒2年目の小川航基は3ゴールを奪う大活躍を見せた。

 これまでの鬱憤を晴らすようなゴールラッシュは、時に迷いそうになりながらも信じた道をひたすら駆け抜けてきた若武者の足跡である。ヤマハスタジアムのピッチには、ストライカーとしての自負と、日々取り組んできた成果を発揮する19歳の姿があった。

 1点目と3点目は、名波浩監督からいつも言われていた、PA内で止まらないという教えを表現した。特に3点目のシーン。セカンドボールを拾った上田康太がシュートモーションに入った時、小川は右側に膨らむ動きでオフサイドにならないポジションを取り、こぼれ球に反応できるよう備えた。

 フィニッシュ精度の高さは周囲からも一目を置かれている。GKが触れないコースへ冷静に、それも鋭く蹴り込む技術はこの年代ではトップクラスだろう。しかし、これまではシュートを放つ状態を作れずにいた。その意味でも3点目は特に価値がある。ボールが彼の下へ転がってきたのは偶然ではなく、準備を怠らなかったからこそ生まれた必然の一発だった。

 試合後、19歳は指揮官への感謝を口にしている。

「名波さんにいつもシュート練習をしてもらっていて、それなのに結果を残せていなかった。まだほんの少しだけど、恩返しができたと思う」

 本人も、周囲も『やっと』という思いだろう。だが、過ごしてきた時間は決して無駄ではなかった。

絶対的FWのジェイが在籍していた昨シーズン

『高校ナンバーワンFW』の看板を引っさげて磐田に加入した昨シーズン、小川はもがいていた。トレーニングマッチではゴールを決め、居残り練習では誰よりも多くのシュートを打ってきた。それでも、出場機会はなかなか訪れない。

 チーム事情も関係していただろう。J1復帰初年度の磐田にとって、第一目標はリーグ残留だ。1点が、1勝が大きな重要性を持つ中で、未熟なルーキーに責任を託すのは難しく、小川にそれだけの力が備わっていなかったのも事実だ。

 当時のチームにはジェイが在籍していた。元イングランド代表ストライカーはフル稼働こそできなかったが、リーグ戦14得点を記録。彼がファーストチョイスであることに変わりはなかった。またCFタイプは5人いて、アタッカーのアダイウトンが1トップを務める試合もあった。

 小川が割って入る隙は、ほとんどないと言っていい状況だった。それでもリーグカップと天皇杯で計3試合に出場している。そこで何かしらの爪痕を残せれば良かったが、シュートを打つこともできなかった。背番号18は積極的にボールを要求した。しかし、自身の受けたい時に受けたい場所へ動くだけではパスは出てこない。プロ1年目は『結果』とは無縁のまま幕を閉じた。

 それでも小川が世代トップレベルのFWとして常に注目されてきたのは、代表チームでゴールを決め続けてきたからだ。ここぞという場面で貴重な得点を挙げる力は間違いなくあった。

 世代を問わず日本代表に招集された選手は快く送り出す、というのが名波監督の方針だ。それは「日本サッカーのためなら」という想いからである。

「『俺はこのチームで必要とされていないのかな』と思う時期もたくさんあった」と、小川が漏らしたことがある。だがU-19(現U-20)代表で存在感を示す中で自信を保ち、より深めることもできたのではないか。

中山、高原、前田。ジュビロ磐田、ストライカーの系譜

 元々、小川は強い信念を持つ選手だ。

「不甲斐ない」、「情けない」。そんな言葉を聞いたのは一度や二度ではない。結果の出ない日々に焦りを抱き、自分自身の不出来に苛立った。自信がなければそんな感情にはならないだろう。

 今シーズンも春先はメンバー外が続いたが、第4節・ヴィッセル神戸戦でベンチ入りし、1点ビハインドで迎えた61分からピッチに送り出されている。

 3月に始まったルヴァンカップではスタメン出場を続け、FC東京戦で爆発した。ここまで来るのに時間はかかったかもしれない。しかし、経験したもの全てを糧にし、成長した姿を内外に示した。

「去年や今年の最初の方で試合に絡めなかったけど、そこで腐らなかったからFC東京戦みたいな結果に繋がったと思う。腐らずにシュート練習とかやり続けたことが自分の中で大きかった。精神的にも成長できたかなと。メンバーには入れなかった時期は落ち込むというか、悔しい気持ちがあった。でも、下を向かずにやってきて良かった」

 ジュビロ磐田には、ストライカーの系譜が受け継がれている。中山雅史(アスルクラロ沼津)、高原直泰(沖縄SV)、前田遼一(FC東京)という日本を代表するゴールゲッターがチームを支えた。いずれもJ1得点王の称号を持ち、国際舞台でも活躍した。現役時代、彼らの得点の数々を演出した名波監督は、点取り屋が“本物”になる過程を間近で見てきた。

 例えば前田がプロ初得点を決めた試合の後、名波監督らチームメイトは「あれで良しとするな」と釘を刺したという。その叱咤の本質は、前田への期待感だろう。

「次はリーグ戦で」。ストーリーはようやく始まった

 そうした期待は、かつて前田が背負った18番を受け継いだ小川にも向けられている。指揮官は、未来のエースを厳しくも温かい目で見守っていくつもりだ。

「航基もここまで俺らにずっと言われてきて、去年は結局、公式戦に出てもシュートを1本も打てなかった。そういう時期を過ごして、メンバー入りはしたけど使ってもらえない。負けている時や同点の時のここ一番というところで『航基、頼む!』という風にならなかった。

 ただ、神戸戦で負けている状況で入った。多分本人も『やっと風向きが変わったかな』と思っただろうし、そういうメンタリティが徐々に自信に変わっていって、ルヴァン(カップ)でシュートを打てるようになった、決定的なものも出てきて、今回ゴールを決めた。一段ずつ行けばいいと思う。高原とか柳沢(敦・鹿島アントラーズコーチ)みたいに2段、5段と跳び越さなくても、見ている人は見ているから」

 日本サッカー界にその名を轟かせた名手たちのような、猛烈な成長スピードではないかもしれない。だが、そうある必要もない。のんびりしている暇はないが、少しずつ自分をアップデートしていけば、高みに到達するのも夢ではないだろう。

 磐田のキャプテン・大井健太郎は「まだまだだな、と思うことの方が多い」と言う。小川のシュートの上手さ、フィジカル面での成長、そしてハットトリックという成果を称えたが、絶賛するようなことはしなかった。

『満足するな』

 黄金時代を築き上げた名波監督ら最強メンバーから、将来を担う若手FWへ向けられた期待感と同じ意味合いが、大井の言葉から読み取れる。そして、小川もすでに新たな飢えを感じているようだ。

「これからもっともっとゴールを決めて、ジュビロの勝利に貢献できるよう頑張りたい。次は、リーグ戦で決める」

 何よりも欲しかったゴールという結果は残した。いずれは先人と同じように磐田と日本をけん引する存在となりえる。今すぐにとはいかなくても、“その時”はきっと訪れるはずだ。

 小川航基はプロとしてどのような軌跡を描いていくのか。そのストーリーは、ようやく始まったのである。

(取材・文:青木務)

text by 青木務