パートやアルバイトというような非正規雇用が増え続けている現代。いわゆるフリーターと呼ばれているアルバイトやパート以外に、女性に多いのが派遣社員という働き方。「派遣社員」とは、派遣会社が雇用主となり、派遣先に就業に行く契約となり派遣先となる職種や業種もバラバラです。そのため、思ってもいないトラブルも起きがち。

自ら望んで正社員ではなく、非正規雇用を選んでいる場合もありますが、だいたいは正社員の職に就けなかったため仕方なくというケース。しかし、派遣社員のままずるずると30代、40代を迎えている女性も少なくありません。

出られるようで、出られない派遣スパイラル。派遣から正社員へとステップアップできずに、ずるずると職場を渡り歩いている「Tightrope walking（綱渡り）」ならぬ「Tightrope working」と言える派遣女子たち。「どうして正社員になれないのか」「派遣社員を選んでいるのか」を、彼女たちの証言から検証していこうと思います。

☆☆☆

今回は、都内で派遣社員として働いている佐々木朱里さん（仮名・26歳）にお話を伺いました。朱里さんは知的そうな黒髪のストレートボブに、チェック柄のシャツの上からグレイのパーカーを羽織っていました。薄い細身のスキニーデニムに紺色のコンバースを合わせています。茶色の革製のトートバッグには、ブックカバーがついた本や漫画の単行本、クリアファイルが入っているのが見えました。カジュアルなファッションは、まだ学生のようにも見えます。

「本当はキラキラ女子のようなOLファッションにも憧れるのですが、自分が着るのには抵抗があって」

OLの仕事は、あくまで教員採用試験までのつなぎだと言います。

「派遣の仕事がない時は、塾講師の短期アルバイトもしています」

“本当は教師になりたかった”と言う朱里さん。そんな彼女に、どうして派遣で働いているのか聞いてみました。

朱里さんは、都心から1時間ほどの距離にある千葉県の町で育ちました。

「父も母も地元が千葉で。姉はもう結婚して家を出て行っているので、実家には自分と両親しかいないですね」

共働きの両親は、家を開けがちだったため、6歳年上の姉と過ごすことが多かったそう。

「父が軌道整備士っていう、電車の線路の補修とかする仕事で。基本、終電後から始発までの時間帯で作業をするので、学校から家に帰ると父が寝ていたりするので気を使っていましたね。母も近所のファミレスで昼間はパートで働いたりしていたので、学生時代は姉妹で過ごすことが多かったです」

家にいる時間よりも、学校や塾で過ごす時間の方が長かったと言います。

「家で留守番させておくのが危なかったせいもあって、小学校に入ったら塾に通わされていたんですよ。そこに母がお迎えにくる形で。勉強自体は苦ではなかったので、漢字や九九とかすぐ覚えましたね」

教員免許取得のため、忙しい日々……

塾講師との出会いがきっかけで、朱里さん自身も教師を志すようになります。

「姉が父似で、あまり勉強が得意ではなかったんですよ。地元の高校を出た後に、保育かビジネス科のある専門に行くって言いだして。なら資格が取れる保育にしなよって、親が勧めて、保育士になりましたね。私は中高で教わった塾の先生が、教育系の学部の学生でその人の教え方が上手かったのもあって、勉強好きになりました」

地元の中高に進学し、大学は国立大学に合格します。

「高校は進学校でしたね。公立だったので、あまり受験対策とかは熱心ではなかったのですが。現役の時に、2校だけ受験して滑り止めの方が受かったのですが、どうしても行きたい大学があったので、親を説得して1年浪人を決めました」

国立大受験のため科目数が多く、受験勉強も大変だったと言います。

「浪人時代は、最初の頃は予備校に通っていましたが、最後は自宅学習に切り替えて、集中講義とか課目だけで済ませていましたね」

無事、志望大学に合格し大学生活をスタートさせます。

「とりあえず、浪人が終わってホッとしましたね。教員免許が欲しかったのですが、教育課程を履修するとバイトもできないくらい忙しくて、在学中は大変でしたね」

子供の頃からの夢である教員になるために、忙しい実習の日々も頑張ります。

「教育実習の間は、就活ができなかったので周りから出遅れた感じはしましたね。でも教職は一生のことだからと思って頑張りました」

しかし、思うように就活は進みませんでした。

「一番、最悪な事態として考えていた結果になったんですよ。公立の教員採用試験に落ちてしまって。私学も考えたのですが、時間給講師の募集は多いのですが、なかなか新卒採用で受け入れてくれる学校が見つからなくて。慌てて民間企業の就活を始めたのですが、対策が上手くいかなかったのか内定が取れなかったんです」

学生時代は、クラスでも成績が上位だったと言う彼女。同級生の名前をSNSで検索し、就職先をつい見てしまうとか。

一浪してまで入学した志望学部。子供の頃からの夢だった教員になるはずが、ブラック企業に入社？その2に続きます。