米大リーグ(MLB)マイアミ・マーリンズがジーターとブッシュの手に落ちる――。

 元ヤンキースの遊撃手デレク・ジーター氏(42:以下ジーター)と元フロリダ州知事のジェブ・ブッシュ氏(64:以下ブッシュ)を含む投資家グループが、マーリンズを買収するというニュースが米時間4月25日に流れた。

 まだ最終的な売買契約には至っていない。話が順調に進んでも数か月先になりそうであるが、マーリンズのオーナーであるジェフリー・ロリア氏は地元紙マイアミ・ヘラルド紙に、「ジーター・ブッシュ・グループ」に球団を売却することに基本合意した旨を伝えた。

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生涯年俸は300億円

 イチロー外野手と田沢投手がいるマーリングが買収されるとあって、日本でも強い関心が寄せられている。というのも、売買に関して2つの大きな注目点があるからだ。

 1つ目は言わずと知れた新オーナーの顔ぶれである。ジーターとブッシュ以外の出資者の名前は公表されていないが、2人を含めて6人以上だという。

 いまさらジーターについての説明はいならいだろう。ヤンキースの生え抜き選手として20年間活躍し、3000本安打を達成。5回のワールドシリーズ優勝の経験もある球団のキャプテンだった。

 2014年に引退したが、現役時代の生涯年俸(スポンサー契約を除く)は2億6500万ドル(約300億円)。

 現役時代から引退後に球団オーナーになることを周囲に公言していた。ヤンキースのCCサバシア投手はニュース・デイ紙に「以前からジーターが球団オーナーになりたいという話は何度も耳にしていた。1000%間違いないと思う」と、ジーターの強い希求を語った。

 それでは、ジーターはなぜヤンキースではなくマーリンズのオーナーになるのかとの疑問がある。

 ヤンキースが球団として売りに出されていないこともあるが、ジーターにとってフロリダはよく知る土地なのだ。ニュージャージー州出身だが、いまはフロリダ州タンパ市のデービス・アイランズという島に豪邸を構えている。

 タンパ市はヤンキースのキャンプ地がある場所でもあり、フロリダはジーターにとって第二の故郷とでも言える土地だ。

 しかもマーリンズの現在の監督はヤンキーズの1塁手だったドン・マッティングリー氏。1995年にジーターがヤンキースに入団すると、入れ替わるようにして引退した。マッティングリー氏はシーズンMVPだけでなく、首位打者、打点王に輝く名選手だった。

 ジーターとマッティングリーの共通点は、ヤンキース以外の球団でプレーしていない、つまり生え抜きということだ。さらに両氏とも背番号「2(ジーター)」、「23(マッティングリー)」が永久欠番になっている。

兄はテキサス・レンジャーズの元オーナー

 ジーターに対する見方は野球界だけでなく、一般社会からも良好な評価が多い。MLBコミッショナーのロブ・マンフレッド氏は「ジーターが球団オーナーになるというのは球界にとって大変良いこと」と言うように、今後、球界をさらに盛り上げていける人材として肯定的に受け取られている。

 昨年の大統領選に出馬したジェブ・ブッシュについても説明はいらないだろう。一家揃って野球好きで、兄のジョージ・ブッシュ元大統領はテキサス・レンジャーズの共同オーナーだったこともあり、MLBへの思い入れは強い。

 マーリンズの契約が正式に交わされた場合、ブッシュが経営のコントロールを取ると噂されている。

 注目点の2つ目は買収の実現性である。現オーナーはすでに買収を承認しているが、実は買収額が大きいため、買い手側の資金が不足しているのだ。入札で示された買収額は13億ドル(約1443億円)である。

 この額は2000年にロサンゼルス・ドジャーズが買収された20億ドル(約2220億円)に次ぐ、米野球史上2番目の数字である。

 2002年にオーナー、ロリア氏が買収した時は1億5850万ドル(約176億円)。今回は12倍以上の値段がついた。入札によって価格が吊り上ったのだ。

 日本の例だが、DeNA が2011年、横浜ベイスターズを買収した時の総額は65億円と伝えられている。それを考えると2220億円がどれほど巨額であるかが理解できる。

 米「フォーブス」誌の推定によると、マーリンズの球団価値は約9億4000万ドル(約1043億円)がせいぜいで、ジーターとブッシュにとっては高い買い物になった。

 しかもコラムニストのマイク・オザニアン氏は、「現在は基本合意に過ぎず、資金が集まらない場合は契約未成立で終わる可能性も十分にあります。ジーターもブッシュもいまは資金集めに走り回っているはずです」と語り、買収案件が公式に発表されるまでは分からない。

 ただ、ジーターがMLBのオーナーになるというニュースは肯定的な要素が強い。

ジーターの球団でイチローがプレー

 首都ワシントンの弁護士によると、「新たなテレビ放映権を獲得できるチャンスですし、スタジアムを違う名前にしたり、斬新なアイデアを試して収益を増大させたりと、いくらでもビジネスが拡大する可能性があります」と前向きな発言をする。

 マーリンズは1993年に誕生した若い球団だ。にもかかわらず1997年と2003年にワールドシリーズで優勝を果たしている。だが両年の優勝直後に有力選手を放出したことで、戦力は低迷。

 特に2003年以降はプレイオフにも進出しておらず、フロリダ州南部でのロリア氏の評判は決してかんばしいものではない。だがジーターがオーナーになれば、チームに勢いが出るはずだ。

 今後数カ月で資金を集め、MLBの少なくとも23球団が買収劇にゴーサインを出せば、ジーターのもとでかつてのチームメイトだったイチローがプレーすることになる。

 ほとんどの名選手は引退後、コーチか監督という道を選ぶ。マーリンズのマッティングリー監督がある時、ジーターに「コーチになる気はないのか」と聞いたという。ジーターは「全くないです」と即答。

 引退後3年で球団オーナーになる可能性が高いジーターという人物は、実に稀有な例であり、野球以外でも有能であることを証明したいのだろう。

 ジーターの胸の内を聞いてはいないが、マーリンズを再びワールドシリーズで優勝させて、後年にヤンキースのオーナーになるという「現実的な夢」を描いているように思えてならない。

筆者:堀田 佳男