「Thinkstock」より

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 新年度を迎え、ピカピカの新入社員が入社してきた職場も多いことだろう。彼らを見ながら、自分の会社員人生も10年、あるいは20年を過ぎたのか……と、つい数えてしまう時期でもある。

 満員電車に詰め込まれて通勤するたび、「あと何年働くのだろう、会社に行かない人生っていいよなぁ」と誰もが一度は思うものだ。しかし、いざ働けなくなったとしたら、あなたのお金はどうなるのだろうか。

 このところ、保険会社が力を入れている分野が「働けなくなったときにお金が支払われる」という商品だ。「就業不能保険」などの名称で、続々商品が登場している。

 保険といえば、これまでイメージするのは死亡時の保障だったが、長寿化に伴い死亡リスクは低く見積もられ、保険料も下がると想定されている。逆に、リスクが高まると考えられているのが、病気やそれに伴い長期間働けなくなる事態だ。特に住宅ローンを抱えている家庭には、深刻な問題となって重くのしかかる。

●民間の平均給与は年420万円、非正規も上昇

 働けなくなったときの話を始める前に、私たちがもらっている給料について、国のデータを見てみよう。国税庁が実施している民間給与実態統計調査によると、民間の事業所に勤務している給与所得者の平成27年分の年間平均給与は420万円となっている。

 その内訳は、給料・手当が356万円、賞与が65万円。高いのか安いのかは一言ではいえないが、この年収に対する平均年齢は45.6歳ということだから、かなり裾野が広い数字といえるかもしれない。

 なお、男女別にすると、男性521万円、女性276万円で、前年に比べて男性は1.2%、女性は1.4%増加した。また、正規・非正規については、正規485万円、非正規171万円で、前年に比べて正規は1.5%の増加、非正規は0.5%の増加となっている。

 この数字を基にすれば、「給料は正規・非正規問わず確実に上がっています」という結論になるのだろうか。ちなみに、平均給与を業種別に見ると、もっとも高いのは「電気・ガス・熱供給・水道業」の715万円、次いで「金融業、保険業」の639万円。最も低いのは「宿泊業、飲食サービス業」の236万円だそうだ。

 景気のよさそうなイメージのある「建設業」は467万円、さらに何かと話題の「医療、福祉」は388万円となっている。バラつきはあれど、これだけの給料をベースにして我々の生活は組み立てられている。

●急に働けなくなっても公的保障でカバーできる

 給与明細を見ると、社会保険料としてさまざまなお金が引かれているが、これは働けなくなったときにも役立つ、ありがたいものでもある。

 まずは健康保険。健康保険組合や協会けんぽの被保険者なら、病気やケガで働けなくなった場合に「傷病手当金」を受け取ることができる。病気やケガで連続3日間休んだ後の4日目から支給され、最長1年半まで受け取れる。

 支給額は、給与日額の3分の2(正しくは標準報酬月額を30日で割り算した標準報酬日額の3分の2。標準報酬月額は、現役世代なら「ねんきん定期便」に記載がある)×休んだ日数分。

 次に厚生年金保険。年金保険の加入者がケガや病気の影響で障害者となった場合には、障害年金が受け取れる。保険料の納付期間や未納がないことなどの条件はあるが、毎月保険料を天引きされている会社員なら、ほとんどが対象になるだろう。

 障害年金は、「年金」とつくように、障害基礎年金(国民年金のみの加入者が対象)に加えて、障害厚生年金が受け取れる。障害基礎年金には18歳未満の子どもがいると加算があり、障害厚生年金は子の加算はないが配偶者の加給年金がある(障害の等級が1級、2級のみ)。

 しかし、この障害年金受給者の平均月額のデータを見ると、平成26年の調査では、厚生年金1級で16.2万円、2級で12.2万円、3級で5.8万円(いずれも男性の場合、基礎年金含む)。これが月の収入となると、かなり厳しいという印象ではないだろうか。

 前述した420万円という平均給与を思い出してほしい。障害厚生年金1級でも年間約194万円ということは、200万円以上も足りない計算だ。もちろん、母数の大きいデータのため、全家庭に当てはまる話ではない。しかし、いざというときの減収はかなり大きいと思っていいだろう。

 なお、自営業はもっとつらい。前述の傷病手当金は、会社員ではないため対象にならないし、障害年金も基礎年金だけのため、1級で約8万円、2級で6.5万円のみ。かなりの自助努力が必要といえるだろう。

●保険各社が用意する就業不能保険の落とし穴

 その自助努力には、いろいろある。たとえば、夫が働けなくなったら妻がカバーすべく働く。妻がそこまで働けない事情があるなら、夫が健康なうちに貯蓄に励む。

 ほかにもやりようはあるだろうが、お金の備えは欠かせないということだ。そこで、先に述べたような「働けなくなったときの保険はどうか」と、注目されているわけだ。

 主なところでは、朝日生命保険「収入サポート」、アフラック「給与サポート保険」、チューリッヒ生命「くらすプラス」、日立キャピタル損害保険「リビングエール」、三井住友海上あいおい生命「&LIFE 新総合収入保障」、ライフネット生命保険「働く人への保険2」など、各社が就業不能リスクをサポートする保険の分野に乗り出している。

 おそらく、今後も増えていくことだろう。これらの保険は、病気やケガの治療のため長期入院している場合、あるいは自宅療養で働けない状態になったと認定されれば保険金が支払われる。

 おおむね60日の免責期間があり、それを超えて働けない場合に毎月給付金を受け取れるといった仕組みだ。働けない状態であることの認定は各社それぞれで、回復すれば給付は終わる(商品により異なる)。

 給付額は、おおむね月10万円から。年収に応じて受け取れる額の上限が決まっている場合もある。保険金が受け取れる期間は55歳、60歳、あるいは65歳までなど、商品により異なるが、受け取り期間や金額から見ると、一番想定しやすいのは住宅ローン返済の補てんとしての使い方だろうか。子どもの教育費と住宅ローン返済の重い期間のみ利用するという考え方もあるかもしれない。

 ひとつだけ注意したいのは、これらの保険の多くは精神疾患による就業不能は保障対象外ということだ。上記のうち、精神疾患を保障対象にしているのは、朝日生命「収入サポート」(所定のメンタル疾患の治療目的の入院が60日以上継続した時に一時金の受け取り)、チューリッヒ生命「くらすプラス」(所定のストレス性疾病による入院日数が60日を超えた場合に年金など)。

 とはいえ、厚生労働省の障害年金受給者実態調査(平成26年)によると、受給原因のうち精神障害による割合は、厚生年金の2級で38.8%、3級で45.1%とダントツに高い。その部分をカバーしきれていないのが、民間保険の現状でもある(前述の傷病手当金や障害年金は、精神疾患も対象になる)。

 メンタル面へのサポートの弱さに加え、まだ支払い実績が少ないことから、現状では民間の就業不能保険の評価はしづらい。満員電車の通勤はつらいことには違いないが、健康なうちになんにでも使える“現金保険”としての貯蓄を粛々と進めるのが、今すぐできる万能の方法かもしれない。
(文=松崎のり子/消費経済ジャーナリスト)