茨城県自然博物館の「動くティラノサウルス」の展示(撮影=オフィス ジオパレオント)

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 前回に続き、今回も博物館の企画展を紹介しよう。今回のテーマは、おそらく誰もが一度はその名を聞いたことのある古生物「アンモナイト」だ。茨城県坂東市のミュージアムパーク茨城県自然博物館(以下、茨城博)で6月11日まで開催中の「アンモナイト・ワールド」をレポートする。

●実はタコやイカの仲間だったアンモナイト

 昔から、知名度のある古生物として「恐竜」「三葉虫」「アンモナイト」が挙げられることが多い。恐竜はもとより、三葉虫もアンモナイトも、その言葉から、なんとなく姿が想像できることだろう。アンモナイトについては、漠然と「ぐるぐると巻いた殻を持つ恐竜時代の海洋動物」と認識している方も多いのではないだろうか?

 そもそも、アンモナイトとはどのような動物なのか? 簡単にいえば、タコやイカの絶滅した仲間だ。殻を持ち、その殻の内部はいくつもの部屋にわかれ、その部屋の内部の体液量を調整することで浮力を制御していたと考えられている(潜水艦の上昇・沈降と同じである)。

 一見すると、巻貝やカタツムリなどの殻に似ているように見えるかもしれないが、「内部にいくつもの部屋がある」という点は、巻貝やカタツムリにはない特徴である。また、タコやイカのように多数の腕を持っていたと考えられてはいるが、これまでにそうした軟体部の化石は発見されていない。

「アンモナイト」という言葉は固有の種を指した名前ではなく、「アンモナイト類」というグループの名前である。ちょっと堅苦しい話をすると、アンモナイト類は「頭足類」というグループに属している。この頭足類というグループに、タコ類やイカ類、オウムガイ類などが属する。

 少しややこしいが、この頭足類のなかに「アンモノイド類」というグループがあり、そのなかに「アンモナイト類」が分類される。アンモノイド類はしばしば“広義のアンモナイト類”とも呼ばれ、アンモノイド類のことを「アンモナイト類」と呼ぶことも多い。今回の企画展でも、「アンモノイド類=アンモナイト類」が採用されている。この記事でも、以降はこの見方を採用して話を進めよう。

●古今東西のアンモナイトが世界から集結!

 アンモナイト類は、とても大きいグループだ。その種数は1万種を超えるといわれている。この数がどれだけ大層かといえば、たとえば、みなさんがよくご存じの恐竜類がざっくりと約1000種である。つまり、アンモナイト類では恐竜類の10倍以上の種数が報告されているのだ。アンモナイト類は今から約4億年前に登場し、約6600万年前に大半の恐竜類とともに姿を消した。

 今、茨城博にはそんな膨大なグループのなかから、古今東西のさまざまな標本がやってきている。

 まず、目をひくのは、縦2m以上、横3m以上の空間に“敷き詰められた”アンモナイト群集の標本だ。ひとつのアンモナイトが数十cmほどの大きさがあるのに加え、多くがほぼ水平に近い角度で並んでいる。「マリン・セメンタリー」と呼ばれる化石群集で、大型のアンモナイトの殻を中心に構築された文字通りの「海の墓場」である。

●日本のアンモナイトに多い「異常巻き」とは?

 アンモナイトについて、「ぐるぐると巻いた殻を持つ恐竜時代の海洋動物」というイメージをお持ちの方も多いだろう。しかし、アンモナイトには「異常巻き」と呼ばれる一見すると突飛な形状の種類も多い。

 最初に断っておくと、「異常」というからといって遺伝的・病的な異常を指すわけではない。基本的には「ぐるぐると巻いた殻」、専門的に言い換えれば「平面的に螺旋を描き、内外の殻がぴったりとくっついているもの」を「正常巻き」と呼び、そうではないものを「異常巻き」という。日本、特に北海道は、この異常巻きアンモナイトの多産地としてよく知られている。

 会場でまず探してもらいたいのは、何をおいても「ニッポニテス(Nipponites)」。ヘビが複雑にとぐろを巻いたような立体的な形をしている。「Nipponites」という学名は「日本の化石」を意味し、日本古生物学会のシンボルマークにもなっている。

 かつて、旧ソビエト連邦の研究者がいい標本をほしがったときに「北方領土と交換ならば差し上げましょう」と日本側が回答したエピソードでも知られる。会場には複数のニッポニテス標本が展示されているので、ぜひお気に入りを探してみてほしい。ちなみに、メチャクチャに殻が巻いているように見えても、実はそこには規則性があり、数式で表現できることがわかっている。

 異常巻きアンモナイトは、ニッポニテスにとどまらない。地元・茨城県で採集された「ディデモセラス(Didymoceras)」をはじめ、楽器のトライアングルのような形状をした「トライアングリテス(Triangularites)」、ヘビの尻尾のように先端だけとぐろを巻いた「ヘテロセラス(Hetetoceras)」など、バラエティ豊かなラインアップである。

 こうした多様な形がなぜ生まれたのかは、必ずしも解明されているわけではなく、その進化についても謎は多い。ただし、すべてのアンモナイトは巻きの中心の小さな殻から成長をはじめ、外側に向かって殻をつくっていったということ、そして、その成長には「曲がる」「よじれる」「太る」の3要素がからんでいるということがわかっている。異常巻きアンモナイトを見るときには、この3要素がどのように関わっているかを意識してみると面白いかもしれない。

●世界最大のアンモナイトは圧巻の直径2m!

 本企画展の主任担当である相田裕介氏によると、展示の後半は「少し専門的なつくり」となっている。なるほど、その通りで後半の密度は“濃い”。

 たとえば、近縁の頭足類であるオウムガイ(現生種)の解剖動画が後半の入り口で上映されており、周辺展示とあわせて「頭足類のからだのしくみ」を学ぶことができるようになっている。

「顎器」もある。アンモナイトの場合、腕などの軟体部は未発見だが、獲物を砕くことができる顎は化石として残っている。ただし、殻の化石ほどは見つからないのだが、その貴重な顎の化石が展示されている。ちなみに、これはいわゆる「カラストンビ」のことだ。

 殻に円い孔の空いたアンモナイト標本も展示されている。面白いのは、その孔が「V字型」に並んでいるものがあること。これは、V字型の吻部をもつ海棲爬虫類の歯型ではないか、とみられている。すぐそばに、その海棲爬虫類の頭骨模型が展示されているのもわかりやすい。もっとも、この孔については、必ずしも海棲爬虫類の仕業と特定されているわけではない(このあたり、展示でも解説されている)。

 個人的に秀逸だと思った演出は、出口間際の「大量絶滅」に関する展示。有名な6600万年前の大量絶滅に関して「何が起きていたのか」を「椅子取りゲーム」で解説している。これは、教科書や図鑑などの制作に携わる人々に、ぜひご覧いただきたい展示だ。

 筆者が相田氏に「マニアックでいいので、個人的なこだわりを教えてください」と尋ねたところ、相田氏はニヤリと笑って「最大・最小・最古・最新をそろえることができたことです」と答えてくれた。

 企画展の入り口に「世界最大のアンモナイト」として直径2mの標本が展示されている。その迫力は、まさに「圧巻」といえるだろう。「最小」はというと、顕微鏡サイズの「幼殻」がある。また、岩手県から見つかった「日本最古のアンモナイト」があり、そして、北海道から見つかった「日本最新」すなわち「絶滅直前のアンモナイト」がある(こちらは異常巻きだ)。会場内に点在しているので、訪問の際にはぜひ、チェックされたい。

 また、古生物に興味のある方は、会場入り口にいきなり肉食恐竜の化石が展示されていることに違和感を抱くかもしれない。海の動物である「アンモナイト」をテーマとしているのに、海棲動物ならいざ知らず、なぜ陸の動物である「恐竜」がいるのか、と。

 実は、ここにも博物館側の思惑がある。会場を出たら、入り口近くのエレベーターで2階へ。2階に着いたら右へ進んでみよう。そこはガラス張りとなっており、マリン・セメンタリーが展示されている空間を見ることができる。視線は、ちょうど飛行する翼竜の高さだ。ガラス張りの足元を見ると、そこに恐竜がいる。つまり、その場から会場を見下ろすと、恐竜時代の“海岸空間”が再現されているのだ。

●茨城博の名物「動くティラノサウルス」

 さて、2階に上がったら、そのまま常設展示コーナーに足を運びたい。茨城博といえば、知る人ぞ知る「動くティラノサウルス(Tyrannosaurus)」の展示だ。1994年の開館以来の名物といえる。

 この名物が、今年3月にリニューアルされた。今、“流行の”羽毛を生やしたティラノサウルスの成体と幼体が復元されており、トリケラトプス(Triceratops)と対峙している。報道などでは、この“羽毛ティラノ”が注目されることが多いが、担当学芸員の加藤太一氏に話を聞いたところ、「植物や哺乳類もお見逃しなく」と返ってきた。

 展示の奥に湖があり、実はその湖からの距離に基づいた植生が反映されている。モクレンの花があるのは、恐竜時代にすでに被子植物が繁栄していたことを物語るものだ。展示をよく見ると、数種類の哺乳類がいることに気づく。これは主として21世紀になってからの知見に基づくもので、ティラノサウルスのいた時代、すでに哺乳類の繁栄もあったことを物語っている。

「この哺乳類の模型は、歯の形までこだわっているんですよ」と苦笑しながら加藤氏。「苦笑しながら」と書いたように、実はこだわったつくりであっても、小さくて肉眼で確認するのはなかなか難しいところ。しかしながら、展示スペースでは動画で拡大画像が上映されているので、注目したい。

 博物館のミュージアムショップでは、企画展の図録が販売されている。よくある装丁の図録ではあるものの、“アンモナイト入門”とでもいうべき解説書となっており、「アンモナイトについて知識を深めたい」という人にはおすすめだ。また、この企画展にあわせてつくられたという「アンモナイトのバンダナ」は、古生物ファンにぜひ薦めたい逸品である。

 なお、会場内には「休日には子どもたちの行列ができる」(相田氏)発掘体験コーナーや、クイズを楽しみながらアンモナイトについて学べるシートもあり、なかなか好評だという。ゴールデンウィークのご家族の旅先に検討してみては、いかがだろうか?
(文=土屋健/オフィス ジオパレオント代表、サイエンスライター)