炭火串焼をメインに提供する「テング酒場」

写真拡大

 月末金曜は、少し早めに仕事を終えて、ちょっと豊かな週末を楽しみませんか――経済産業省の提唱する“プレミアムフライデー”が、4月28日に3回目を迎える。

 筆者は都内の編集プロダクションに所属している社員ライターだが、普段の退勤時間はだいたい21時頃。プレミアムフライデーの目安とされている15時の終業なんて、もってのほかだ。

 プライベートで運用しているSNSをのぞいてみても、人々に浮かれた様子はない。むしろプレミアム“ツ”ライデーなどと、自分には早上がりが無縁であることを自嘲する者もいるほどである。

 しかし、プレミアムフライデー初回となった2月24日、体験レポート記事を書くという大義名分のもと15時に退社。今回は筆者なりの“プレミアムフライデー体験記”をお届けしよう。

●“マシマシ”の有名ラーメン店はいつも通りの大行列

 事務所の最寄り駅を15時過ぎに出発し、約20分の電車移動を経て降り立ったのは神保町駅(東京都千代田区)。どうせなら、平日の昼下がりにはなかなか足を運べない場所で食事がしたいと考え、「ラーメン二郎 神田神保町店」に赴いた。

 言わずと知れた大人気店のラーメン二郎だが、神田神保町店は日曜と祝日が定休で、平日と土曜は11時〜17時の営業となっている。仕事終わりに立ち寄りたくてもすでに閉まっているし、店の出入り口からは常に待ち客の長い行列が延びているため、近隣の会社員であっても昼休みをオーバーしかねない。筆者は学生時代に何度か食べに来たことがあるものの、社会人になってからはほぼ訪問できずにいたのだ。

 さて、筆者が店に到着すると、そこには約30人の先客が。他の飲食店ならばアイドルタイムに該当する時間だというのに、さすがはラーメン二郎だと思い直す。

「まさかこれもプレミアムフライデー効果なのか」と疑い、前後の客の服装をさりげなく観察すると、明らかに“お勤め帰り”だと見て取れるような客はほとんどいない。筆者も含め私服の客ばかりなので、店としては通常運転ということだろうか。

 16時35分頃、客がこれ以上増えないよう、待機列の最後尾に「終了いたしました」という立て看板が置かれる。筆者が念願のラーメンにありつけたときには、本来の閉店時間である17時をオーバーしており、並び始めからは1時間半ほど経過していた。そうは言っても無事に食べられて非常に安心したし、店内に流れるラジオで、ちょうどプレミアムフライデーの話題が出ていたのも印象的だった。

●上野では博物館のイベントを満喫

 神保町を後にした筆者は、地下鉄を乗り継いで上野駅(東京都台東区)を目指した。平日の夜に訪問しづらい場所として頭に浮かんだのは、美術館や博物館である。せっかくのプレミアムフライデー、食欲の次は文化的な欲求を満たそうというわけだ。

 プレミアムフライデーに限らず、毎週金曜は20時まで開館しているという国立西洋美術館の敷地に到着。普段だいたい21時まで勤務している筆者が、平日に訪れることのできないスポットであるのはいうまでもない。

 国立西洋美術館に足を踏み入れると、背広姿のスタッフが「このあと18時15分よりミニコンサートが始まります。よろしければご覧になってください」と呼び込みをしているではないか。

 前庭にはロダンによる大型ブロンズ像「地獄の門」があり、その手前に譜面台や観客用のベンチが設置され、小さな野外ステージが出来上がっている。コンサートは文化庁が主催するイベント「フライデー・ナイト・ミュージアム@上野」の一環だと知り、筆者も聴いていくことにした。

 ステージに現れたのは、「こぱんだウインズ」と名乗る5人の金管奏者たち。2011年に同年の東京藝術大学の入学生を中心に結成された吹奏楽団「ぱんだウインドオーケストラ」の出身で、トランペット2人に加え、ホルン、チューバ、ユーフォニアムが1人ずつという編成だった。

 開演前こそ、スタッフが「まだお席あります」と声かけするほどの寂しい客入りだったが、いざ演奏が始まると、その優雅な旋律に引き寄せられたのか、観客が続々と集まってくる。ラーメン二郎とは異なり、コートに身を包んだ会社員風の男性も多い。ベンチはすべて埋まり、後方にはカメラやスマートフォンを構える立ち見客も発生していた。なるほど、「地獄の門」と枯れ木をバックにライトアップされた彼らは、とても絵になっている。

 30分足らずのステージではフォーレ作曲の「パヴァーヌ」、ビゼー作曲の「カルメン」などが披露され、最後はMC担当が「もう1曲ご用意があるんです」とはにかんでからアンコールの「オー・シャンゼリゼ」でフィニッシュ。終演後は、そのまま美術館の入り口に歩いて行く人々の姿が目立った。

「この気温で楽器は冷えてしまわないのだろうか」と素人じみた心配をしていた筆者だったが、彼らの演奏中は夜風が落ち着いていたように思う。なお、コンサートは筆者が着く前の17時にも行われ、その回には安倍晋三内閣総理大臣が出席していたらしい。

●飲み会スタートにも間に合い、15時退勤の幸せを味わった夜

「フライデー・ナイト・ミュージアム@上野」では先ほどのコンサート以外にも、東京国立博物館での短編映画上映、国立科学博物館でのヨガ教室などが実施されているとのことだったが、なかには事前の申し込みが必要なイベントもあり、予習不足を悔やんだ。

 後に別の予定が控えていたため、急ぎ足で美術館を一周した筆者は、再び電車に乗り埼玉の大宮駅へ。もう2月下旬になってしまったものの、夜は高校時代の先輩方と新年会を開くことになっていたのである。

 先輩が予約してくれていた会場は、炭火串焼をメインに提供する「テング酒場」だ。このメンバーで飲み食いするのは昨年末以来で、ある先輩は前々から検討していた引っ越し先がついに決まり、ある先輩は春から異動することになり、ある先輩は女優・清水富美加の出家騒動について持論を述べる。

 20時を回った店内はほぼ満席で、スタッフたちがせわしなく動いているも、「金曜の夜ならこれくらい混むのが普通だろう」としか感じなかった。筆者たちとて、この日に新年会を計画したのは偶然。プレミアムフライデーとは一切関係なく、先輩方も実際、いつもとそう変わらぬ時間に退勤したのだと愚痴をこぼす。

 もっとも筆者にとっては、プレミアムフライデーでなければまだ仕事をしている時間帯であり、この新年会も欠席あるいは二次会からの途中参加となっていたはず。

「15時に仕事を切り上げられるって素晴らしい」という喜びを胸に、ラム酒を口に運ぶのだった。

 帰り道、駅前にある「吉野家」の店頭ポスターに目が留まる。牛丼と豚丼が半分ずつ盛り付けられた「牛豚 半丼」というプレミアムフライデー限定メニューを、11時〜22時の間だけ販売していたようだ。普段あまり吉野家を利用しない筆者も、これには若干引かれるものがあったので、継続してくれるようなら実食してみたいと思った。

 ただ、プレミアムフライデーの経済効果は政府が期待しているほどではないと指摘する声も少なくないし、世間の反応には冷ややかな部分もある。「TSUTAYA」を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブが2月上旬に調査したところ、勤務先がプレミアムフライデーを導入すると答えた者の割合は3.4%に過ぎなかった。

 その圧倒的なマイノリティに自分が分類されたことには奇妙な心地がするにせよ、今回のプレミアムフライデーに対し、筆者は「満喫した」と胸を張ろう。
(文=A4studio)