<スタートアップの「空飛ぶ車」の試作車発表、ウーバーの空飛ぶタクシー構想など、開発競争が本格化している。庶民の足になる日はくるか>

「私の言葉を覚えておけ」とかつてヘンリー・フォードは言った。「飛行機と車を組み合わせた乗り物は実現する。笑うかもしれないが、本当だ」。自動車の大量生産方式の生みの親だった彼は、1940年にこう予言した。自ら「空飛ぶ自動車」の開発に着手したものの、成功を見届けられないままこの世を去った。

フォードが果たせなかった夢が、いよいよ現実になろうとしている。先週、個人向けに空飛ぶ車を開発する2社のスタートアップ企業──スロバキアのエアロモービル社とドイツのリリウム社──が試作車を発表した。今週は米配車サービス大手ウーバーと米グーグルのラリー・ペイジCEOも空飛ぶ車の実用化に向けた構想を表明。ただし、そこに至る道のりは依然、簡単ではなさそうだ。

エアロモービルは20日、モナコで開催された車の見本市で空飛ぶ車の試作車を発表。年内に売り出す計画を明らかにした。同日にリリウムも、初の飛行試験を成功させた2人乗りのモデル「イーグル」の動画を公開した。両社ともプレスリリースで言及しなかったことがある。厳しい航空規則に従いつつ、既存のインフラのなかで空飛ぶ車を実用化するための具体的な方法だ。

この問題を避けたままでは、価格が高く、パイロット免許も必要になるような空飛ぶ車の市場はいつまでたっても拡大しない。だがメーカー側はその前にまずやることがあると信じている。

「初代モデルに求めるのは話題作りだ」と、エアロモービルのステファン・バドツ広報統括部長は本誌に語った。同社にとって初回の生産台数は最大500台、価格は約150万ドルというのが現状では限界だ。「だが将来的には、(免許なしで)だれもが空を飛べる自動運転車の大衆市場を築きたい」

今のところそうしたビジネスモデルで成功を収めているのは、手の届きやすい価格帯の電気自動車(EV)の開発を進める、米テスラのイーロン・マスクCEOだ。彼は現在、独自の事業計画である「マスタープラン」のパート3に進んだ段階だ。最初は最高級のEVを売り出し(ロードスター)、その売上金を投入して中級のEVを発売(モデルS)、そこからさらに価格を低く抑えた新型EVの開発につなげた(モデル3)。

リリウムも、エアロモービルが掲げる空飛ぶ車の未来像を共有している。人々がパイロットとして訓練を受けなくてすむように、オンデマンドの空飛ぶ自動タクシーのサービス展開を目指している。だがそれにも課題がある。「人々の心理的な壁が大きい」とバドツは言う。「無人操縦の飛行機と言われてぞっとするような問題を、一人ひとりが克服する必要がある」

リリウム社の世界初・垂直離着陸(VTOL)式EV


人々は車の自動運転という考え方にもまだ戸惑っている。米ミシガン大学が行った調査によると、完全自動運転車を利用するのに何の心配もないと回答した人は、全体の10%に過ぎなかった。ましてや空飛ぶ自動運転車となれば、その数字はもっと低くなるだろう。

アンソニー・カスバートソン