(左から)トレル、アントニー、伊藤、内田監督

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 女優・伊藤沙莉主演の映画『獣道』が現地時間25日、イタリアで開催中の第19回ウディネ・ファーイースト映画祭でワールドプレミア上映された。同作はクラウドファンディングで配給宣伝費154万円を集めて公開に漕ぎ着けた日本・ドイツ・イギリス合作作品で、翌日に行われた記者会見にて、内田英治監督は試行錯誤した本作製作の道のりを明かした。

 同作は地方都市を舞台に、母親の育児放棄の末に宗教施設で育ったヒロインが、ヤンキーから風俗へと自分の居場所を求めて彷徨う、実話をベースにしたブラックコメディー。翌日行われたトークイベントで内田監督は、自身の作品に出演した女優から壮絶な生い立ちを聞き、「映画にしてもいい?」と許可を得て、本作のオリジナル脚本を書き上げたと言う。

 劇中ではヒロイン・愛衣を演じた伊藤がヌードも辞さない体当たりの演技を披露している。子役出身で芸歴が長いとはいえ、22歳の女性にとっては大きな決断だったと思われるが、内田監督は「不必要にヌードになるシーンは書かないが、絶対に必要性を感じる場面だったので、脚本段階から何度も相談し、お互いが納得するまでとことん話し合いました」と説明する。結果的に彼女の熱演が編集段階で作品を大きく変えたそうで、プロデューサーのアダム・トレルは「最初のプロット(粗筋)では登場人物も多かったし、最初の編集段階では2時間半もあった。しかし彼女が素晴らしい演技力を発揮したので、編集でよりヒロインの人生にフォーカスした」と明かした。

 内田監督の、俳優の人気度よりも、役のイメージに合わせたこだわりのキャスティングは細部にも表れており、地元の不良グループのリーダー格にお笑いコンビ・マテンロウのアントニーを起用したのもその一つだ。演技初挑戦だった当のアントニーは「初めて演技した時に、監督が頭を抱えていた姿が忘れられない」と謙遜したが、気鋭の俳優・吉村界人と共に異彩を放っている。内田監督はアントニーの起用について「僕はブラジルで育ち、10歳で帰国しましたが、日本社会からハーフがスポイルされ、ギャングになる人が多いので(不良グループに)入れたかった。ミュージシャンとかも考えましたが、なぜか彼に行き着きました」と笑った。

 内田監督の前作『下衆の愛』が世界約30ヶ所の映画祭で上映されたのと同様に、本作も今後、海外映画祭を回る予定だという。もっとも現在の日本映画界における小規模作品の興行は厳しく、『下衆の愛』がテアトル新宿で5週間のレイトショー上映を行った際には、少しでも観客動員に繋げようと連日連夜トークイベントを開催。同作でもプロデューサーを務めていたトレルは過労のために通院を余儀なくされたという。トレルはイギリスで映画配給会社を経営し、日本愛が過ぎるがゆえに『福福荘の福ちゃん』(2014)などの製作に乗り出している異色のプロデューサーだが、苦労してでも日本で映画製作を作り続ける理由について問われると「確かに低予算の映画づくりは難しいが、自由につくれる魅力もある。大金をかけても魂が入っていないような映画がたくさんつくられている中、自分たちは精魂込めて挑んでいる」と語り、胸を張った。(取材・文:中山治美)

第19回ウディネ・ファーイースト映画祭は4月29日まで開催
映画『獣道』は7月15日よりシネマート新宿レイトショーほか全国公開