浦和レッズのFW興梠慎三【写真:Getty Images】

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大量リードも手綱を緩めなかった浦和レッズ

 浦和レッズが2年連続でACL決勝トーナメント進出を決めた。ウェスタン・シドニー・ワンダラーズFC(オーストラリア)を埼玉スタジアムに迎えた26日のグループリーグ第5節で、攻撃陣が大量6ゴールと大爆発。1試合を残して、上海上港(中国)とともに2位以内を確定させた。J1でも首位を快走する原動力は、今シーズンの公式戦14試合で44ゴールを叩き出している圧倒的な攻撃力。そのうち32ゴールを占めている前線のトライアングルは、アジアでも屈指の破壊力を身につけつつある。(取材・文・藤江直人)

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 気がつけば、相手ゴールへ向けて猛然とダッシュしていた。カウンターを仕掛けるFWラファエル・シルバへ、左手を前方へ突き出してパスを要求しながら、浦和レッズのFW興梠慎三はゴールに至る絵を鮮明に描いていた。

「6点目だから別に、という感じだけど。でも、あれが理想。常に2人で崩せるように、声をかけているので。ああいうシーンをもっと多く作れれば、もっと相手の脅威になるのかなと」

 ウェスタン・シドニー・ワンダラーズFC(オーストラリア)を埼玉スタジアムに迎えた、ACLグループリーグ第5節。引き分け以上で決勝トーナメント進出が決まるレッズは、MF関根貴大、FWズラタン、MF李忠成がゴールを決めた前半で勝負を決めていた。

 それでも、手綱を緩める気配はない。後半に入ると、途中出場のラファエル・シルバが2ゴールを追加する。そして、4分間が表示されたアディショナルタイムが終わりにさしかかったときに、自陣からカウンターが発動された。

 相手の攻撃をはね返し、こぼれ球をMF青木拓矢が右前方へ蹴り出す。右タッチライン際にいた李忠成がワンタッチで自陣の中央へ折り返し、ラファエル・シルバが相手選手2人と交錯しながら巧みに前を向いた瞬間に、冒頭のシーンが訪れる。

 左側の興梠を先頭に、中央をラファエル・シルバ、そして右側を李忠成が一気に駆けあがる。相手のペナルティーエリアが見えてきたところで左手を前方へ突き出した興梠は、パスを要求すると同時に、自分の前に広がるスペースへ走ってくれとラファエル・シルバに要求していた。

1試合平均で3.6ゴール。アジア屈指の破壊力

 果たして、パスを受けた興梠はスピードを緩めてボールをキープ。ラファエル・シルバが自分を追い越す時間を作り、ボールを預けてから今度は右斜め前方へ再びダッシュする。ラファエル・シルバからリターンを受けるイメージが、脳裏にははっきりと浮かんでいた。

「お互いが信頼してプレーすることがすごく大事。鹿島時代にマルキ(マルキーニョス)と組んでいるときも、どちらかと言えば自分が合わせていたけど、ラファ(ラファエル・シルバ)にもそういう感じでできれば、という気がしている。そうすることでお互いに信頼し合っていけば、もっといいコンビネーションを築けると思うので」

 まさに以心伝心。ラファエル・シルバは右足のヒールで、後方を見ることなくパスを返す。走り込んできた興梠がワンタッチで合わせた右足から放たれたシュートが、ゴール右隅へと吸い込まれていく。大量6点目を告げるホイッスルが鳴り響いた直後に、試合も終わった。

 昨シーズンに続く決勝トーナメント進出。もっとも、グループリーグの結果と内容は明らかに異なる。昨シーズンは2勝3分け1敗と苦しみながら何とか2位で通過したが、今シーズンは4勝1敗で首位をキープ。最終節を残して2位以内を確定させた。

 何よりも得点数が昨シーズンの「6」から、3倍の「18」へとはね上がった。相手が異なるので単純に比較することはできないが、1試合平均で3.6ゴールを奪う破壊力はアジアでも屈指といっていい。

公式戦44ゴールのうち32点を5人でゲット

 ミハイロ・ペトロヴィッチ監督体制になった2012シーズン以降、レッズは1トップ+2シャドーで戦っている。今シーズンは興梠、李忠成、武藤雄樹、ズラタン、アルビレックス新潟から加入したラファエル・シルバの5人がローテーションを組む形で先発し、前線のトライアングルを形成してきた。

 ACLの舞台では、5人で総得点の3分の2に当たる12ゴールを量産。8節を終えて首位を快走しているJ1と、開幕前のフジゼロックス・スーパーカップを加えた公式戦14試合においても、44ゴールのうち実に32ゴールを5人でゲットしている。

「チームの状態はかなりいいけど、それでもこんなに点を取り続けることもなかなかないと思う」

 ウェスタン・シドニー戦はノーゴールだったが、前線への素早い飛び出しから関根の先制ゴールをアシストした武藤は、前線の選手層が厚くなった相乗効果が爆発的なゴールラッシュを導いていると指摘する。

「新しく入ったラファがすごく点を取っているし、そういうところで競争意識というものがチーム全体にある。いい選手が大勢いるなかで、開幕前のキャンプのときから前線の3人を固定することなく、いろいろな組み合わせでトライしてきたことが、いまになって試合に表れているのかなと。

 試合を休みたいと思う選手はいないけど、そのなかでチャンスを与えられた選手が結果を残している。みんなが切磋琢磨し合えているし、みんながゴールを決めたいと強く思っていながらチームプレーも忘れていないという、一番いい状態で前線の3人はプレーできているんじゃないかと思う」

起爆剤となった新加入のラファエル・シルバ

 前線のなかで起爆剤の役割を果たしているのが、武藤も名前を挙げたラファエル・シルバだ。アルビレックス時代の3年間は公式戦で26ゴール、J1では昨シーズンの11ゴールが最高だった25歳は、約2ヶ月の間に出場した公式戦11試合で、チームトップとなる11ゴールをゲットしている。

 J1では7ゴールで得点ランクトップに立つ興梠に1差の2位。そして、初体験のACLでは5試合で5ゴールを量産している。そのなかにはアウェイで苦杯をなめた上海上港(中国)を埼玉スタジアムに迎えた第4節の大一番で、レッズを1‐0の勝利に導いた貴重な決勝弾も含まれている。

「まずはこのチームが僕のことを、ものすごくいい形で受け入れてくれたことが大きい。実際にピッチに立つと、チームのみんなの気持ちが効果的に、自然の流れで上手く形にはまるんだ」

 攻撃的なサッカーを志向するチームメイトたちの高い意識に触発され、もち合わせていた高い潜在能力が引き出されているのだろう。レッズでの日々が楽しくて仕方がないとばかりに、179センチ、73キロのストライカーは屈託のない笑顔を浮かべる。

「我々は常に数多くのチャンスを作り出せる。そうしたなかで自分に与えられている仕事は、みんながつないでくれたパスをいかに冷静な状態で、確実にゴールにつなげられるかだと思っている。昔とはちょっと違って、いま現在の自分はいろいろな意味で成長できていると思う」

 5試合を終えたグループFでレッズは勝ち点12で上海上港と並び、得失点差で大きく引き離して1位をキープ。ともに決勝トーナメント進出を決めた状況で、残るFCソウル(韓国)との最終節は1位通過をかけた一戦となる。

J1とACLのダブル制覇へ。すでに高い完成度

 最終的に勝ち点で並んだ場合は、当該チーム同士の対戦結果で順位を決める。上海上港とは1勝1敗。得失点差も「0」で並んでいる状況で、アウェイで2ゴールをあげているレッズが優位に立つ。

 敵地に乗り込む来月10日の一戦で勝てば無条件で1位通過が決定。江蘇蘇寧(中国)が1位突破を決めている、グループHの2位チームとベスト8入りをかけて激突する。おそらくはアデレード・ユナイテッド(オーストラリア)か、済州ユナイテッド(韓国)が相手になる。

 つまり、ウェスタン・シドニー戦は勝ったことが重要で、得失点差はグループFの最終的な順位を決めるうえでそれほど意味をもたない。それでも実質的な勝負が決していた後半で、前線の選手たちをゴールへと駆り立てたのは、お互いがお互いを高め合う、いい意味での競争意識に他ならない。

「常にそろい踏みを求めているわけではないですし、チームが勝つことが一番ですけど、僕としてももちろん全試合でゴールを狙っている。今日も取りたかったし、だからこそ次に取れるように頑張ります」

 大宮アルディージャのホーム、NACK5スタジアムに乗り込む30日の「さいたまダービー」へ武藤が闘志をかき立てれば、興梠はラファエル・シルバとのコンビネーションをさらに磨きたいと、J1とACLのダブル制覇を見すえながら静かに語る。

「前が空いたら、まずはラファを見るようにしている。ラファにボールが収まることが、相手にとって一番嫌だろうしね。もちろん自分だけでなく、みんなにとっても刺激になっているし、チームが好調だからそういうこと(ゴールラッシュ)になっていると思うので」

 昨シーズンに続いて攻撃参加を自重しているDF槙野智章から、こんな言葉を聞いたことがある。

「前の選手たちは本当に気持ちよくプレーしているので、後ろの選手たちはカウンターとリスクマネジメントのところに集中してやっています」

 対戦相手の攻撃を封じれば、前線のトライアングルの誰かが必ず点を取ってくれる。チーム内に芽生えた厚い信頼関係を触媒として勢力を増すレッズは、J1だけでなく、ついにはアジアの舞台をも席巻。シーズン序盤にして、手がつけられないほどの圧倒的な攻撃力を身にまといつつある。

(取材・文:藤江直人)

text by 藤江直人