1秒で相手の心を掴む! 電通式「見出し術」

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魅力的なタイトルがつけられるかは、企画書でも提案書でも最初の勝負どころ。トヨタやキリンなどの数々のコピーを手がけ、第一線で活躍するコピーライター・渡邉洋介氏が指南する。

■<文章編>

資料に有効な文章と聞くと、言葉のテクニックを想像するかもしれない。

「でも、テクニックよりも大切なことがあります」と電通のコピーライター、渡邉洋介さんは言う。

「大事なのは、企画書であるなら読んだ人に行動を起こしてもらう、という目的を強く意識することです。企画書のゴールは『読ませる』ことではなく『動かす』ことでしょう。言い回しや上手な表現ばかり凝っても人は動きません。不特定多数に向けて書く広告コピーと違って、企画書は届ける人の顔がより見えやすいという利点があります。上司なのか、クライアントなのか。読む相手を想定しながら書くといいと思います」

そして、読み手がこの資料でわかるだろうか? という視点を持つのも大事だという。プレジデント編集部員Tは、よく雑誌の見出しや企画書を書くとき「意味が伝わらない」とやり直しになる。皆が使わないようなカッコいい言葉を意識して使っているのだが……。

「以前、社内のさまざまな企画書を読んでみたところ、アイデアがすごいなと思った企画書は、どれもわかりやすく書かれていました。ビジネス文書というと、自分を賢く見せようとしたり、知識をたくさん書きたくなりますが、相手はそれを求めていません。こちらの思いを押しつけることなく、専門用語を含まない平易な言葉の使用を心がけるべきです」(渡邉さん)

それでは、わかりやすく、相手に響くような言葉はどうすれば生まれるのか。渡邉さん自身、コピーライターという職業上の経験から、言葉は「ひらめく」ものではないと感じたそうだ。

「『見つける』という感覚に近いです。僕自身も、何個も考え、何回もダメ出しされて書き直して、たくさんの中から一つ探し出した言葉がコピーとして、ようやく世の中に出ていきます」

いい言葉を見つける一つの方法が、コピーなり見出しなり、課題に対して「100個書く」ことだという。100個書いたら、書いた時間と同じぐらいの時間をかけて、その中から一つ選ぶ。時間がなければ5個でも10個でも、とにかく複数書いてみる。もしたくさん書けたらそれ自体が自信になるし、「さすがに1個はいいのがあるだろう」という気持ちにさせてくれる。質を上げるには、量も必要なのだ。

また「手書き」も有効な手段だという。ノートを広げて手書きしていると腕の動きが脳に影響を与えるのか、アイデアが出てくることがあるそう。パソコンの文書ソフトのように左上から書く決まりがないので、ノートの一番下から書いてもいいし、裏でもいいし、絵を描いてもいい。その自由な感じが、頭を柔らかくしてくれる。これも、ぜひ試してみてほしい。

■【見出し篇】レッスン1:切り口別に分類する

企画書、プレゼンのタイトルや短い商品説明など、相手に伝わる言葉を見つけたいと思ったときは、まず思いついた言葉をロジックや関連性を気にすることなくすべて書き出してみよう。終わったら、それを切り口ごとに分類してみる。100通りの言葉を書いたつもりでも冷静に分類すると、実は3つくらいのパターンで同じようなことを書いていたりする。行き詰まったときは、切り口を意識して書こう。1つの切り口に対して3つの見出しを書く。

 ▼切り口の一例 

●「英語ができると得をするタイミング」を切り口に
「英語ができるとトクをするのは、中学より高校より大学より、社会人のときです。」

●「経済的な損失」を切り口に
「円高のチャンスを、私はうまく利用できていないと思う。」

●「英会話での失敗」を切り口に
「YESと言い続けてたら、警察が来た。」

■【見出し篇】レッスン2:声に出して読んでみる

書かれている文章は、フォントや字面など、見た目に注意がいくことはあっても大体が黙読されて、音が意識されることは少ない。資料なので当たり前といえば当たり前だが、「人に伝わりやすい内容は、音的にも心地いいはず」(渡邉さん)。見出しを声に出して読むと、その言葉の持つリズムや音の響きが理解できて、読んでいるだけではわからない発見がある。自分で書いた文章も音読することで、リズムの悪い部分を修正でき、結果として全体のクオリティも上げることができる。

■【見出し篇】レッスン3:強い事実を書く

あるマラソン大会で、20代男性より60代男性の平均完走タイムのほうが速いという事実を知った渡邉さんは、その数字をそのままコピーにして提案したことがある。人が驚くような強い事実は、きれいな言葉で装飾して表現せず、そのまま使ったほうが見出しとして映えることも多い。一見して商品そのものに派手な特徴がなくても、徹底的に調べていくと興味深い事実にぶつかるものだ。特に数字は伝わりやすい情報なので、積極的に探したい。

 ▼事実の強弱で 

●「140円のチョコレートです」→誰もが知っている事実で、弱い

●「140円だけどカカオを90%使っている」→事実が増えて、ちょっと強くなった

●「140円だけど有名パティシエがプロデュースした」→さらに強い事実が加わった

■【文章篇】レッスン4:書き出しを10個書いてみる

「この企画書の目的は〜」「現在、主要ユーザ数は〜」とおなじみの文章が並ぶ企画書の冒頭。しかし企画書の目的は、読み手の心に訴えて企画を実現させること。フォーマットにこだわらず、「人を動かす」ことを重視したほうがよい。

時系列にこだわることなく、たとえば「○年後、100万人が使えるサービスになる」のように未来の話から入るのも、最初からゴールを伝えられるので効果的だろう。試しに10個書いてそこから選んでみよう。必ずよりよい内容になるはずだ。

■【文章篇】レッスン5:居酒屋で企画書を書く

同じ場所でアイデアを練っていると、次第に煮詰まって新しい発想が生まれにくくなるもの。そこで書く場所を変えると、新しい視点や柔らかい発想が湧いてくることがある。渡邉さんのお勧めはオフィスとはかけ離れた環境でリラックスできる居酒屋。新人の頃、先輩に「会社にいても仕方がないから外へ行けば?」と言われたそう。「複数人で行ってもいいですね。お酒の入った席で『この案件、どう思う?』と聞けば、正直な意見や発想が出やすくなる」(渡邉さん)。ただし翌朝になって忘れがちなので、メモは必須。

■【文章篇】レッスン6:スペック説明に陥らない

「このコーヒーは××農園で作っていて、××製法で挽いたものです」と力説しても、コーヒーに興味がある人は関心を向けるかもしれないが、それ以外の人には響かないだろう。商品と普段接点のない人に価値を伝えるには、スペックを語らないことが肝心だ。「飲んだ人はどう感じるのか」「飲むとどんな効果があるのか」など、知らなくても共感できるポイントを探し、言葉にする。そうやって橋渡しすることで、圏外にいる人にも初めて価値が伝わる。説明だけで終わらずに、相手に届く言葉を添えるようにしたい。

 ▼要約だけではNG 

×「●●というタイトルで、主演は○○、監督は××で始まりは■■、ラストは▲▲な映画を見た」
◎「すごく恋をしたくなる映画を見た」

■【文章篇】レッスン7:企画を5秒(1行)で言い表す

「いい企画は1行で説明できる」と言われるように、企画は自分の中でかみ砕いて、本質を端的に言い表せることが大事。「でも最初から1行や5秒で説明できるわけではありません。そこに至るまでには労力が必要です。僕の場合、アイデアを頭の中に入れて、3日間、ことあるごとに思い出しては考えるようにしています」(渡邉さん)。ずっと考えていても煮詰まってしまうので、1つの企画に執着せず、同時に複数の案件を考えてみるのもいい。全く違う仕事で思いついたことが、別の機会に生かされたりすることもある。

■【文章篇】レッスン8:制約条件をつくる

「なんでもいいからおもしろいアイデアを出せ!」と言われたら、おそらく大半の人は戸惑うだろう。完全に自由な状態は、逆に考え始めるきっかけが見つからないからだ。それよりも、何かしらの制約条件があったほうが発想は広がりやすい。企画書を書く際も、自分から「部長以上の年代にウケるように」「サービス対象はスーツを着た人だけをイメージして書く」など、実現可能かはさておいて大胆な縛りを自分にかけてみよう。意外なアイデアが浮かび、すらすらと文章が組み立てられるかもしれない。

■【文章篇】レッスン9:半分に削る

冗長な文章を読むのは読み手にとって苦痛な作業だ。そこで一度書いた文章を、できる限り短くすることも大事。400字なら200字、100字なら50字、半分の分量に圧縮できないかトレーニングしてみよう。なくてもいい装飾文を削り、重複した表現を1つにまとめ、言葉を置き換えて文字量を圧縮させていくと、少しずつ情報が整理されていく。結果、本当に主張したいことだけが文章に残り、相手にも負担が軽くなって同じメッセージでもシンプルで力強く伝わる。1回ではなく、何度も繰り返しやってみよう。

■【文章篇】レッスン10:寝る前に書き、起きてチェック

夜、感動しながら書いた文章を、朝読み返すと実はたいしたことがなくて落胆した……という経験はないだろうか。夜は副交感神経が働いて感情が優先されるのに対し、朝は交感神経に切り替わって物事をフラットに見られる時間帯だという説もある。「自分の文章を客観的に見るには、一晩寝かせるのが有効。朝、理性的な状態で読んで、文章のテンションが高すぎると感じたり、ピンとこない案だったら、迷わずにあきらめてやり直しましょう。パソコン上だけでなく、プリントアウトして客観的に見るのも手ですね」(渡邉さん)。

■【文章篇】レッスン11:人に読んでもらう

集中して書いた文章は、時に独りよがりになりがちだ。もし上司に見せる企画書や文章であれば、最終的に提出する前に、一度同僚に見せてチェックしてもらうのが非常に有効。渡邉さんの知るコピーライターは、会社員時代、クリエーティブ部門ではない総務課の社員にコピーを見てもらい、その意見に耳を傾けていたという。関係者だと先入観を持って判断してしまうが、直接関係がない人はフラットに評価するので、その声は貴重だ。恥ずかしい気持ちはわかるが、いつかは公表するもの。勇気を出そう。

■【文章篇】レッスン12:直前まで書き直す

文章に直す必要を感じたら、たとえ往生際が悪いように映っても、プレゼンのギリギリまで手を入れたほうがよい。「火事場の馬鹿力」と言われるように、極限状態に置かれた人は集中力が高まり、研ぎ澄まされたアイデアが生まれる可能性がある。渡邉さんはプレゼン中に新商品のネーミングを思いつき、その場で紙にマジックで書いて提示した経験もあるという。もし考えた末、元の案に戻っても、考えた量、考えた時間は無駄にならない。たとえ自信作であっても、最後まで粘ることは大事だ。

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渡邉洋介
コピーライター。1980年、長野県生まれ。東京大学大学院でウエアラブル・コンピュータを研究し、電通入社。東京メトロ、トヨタ、キリンなどのコピーを手がける。受賞歴多数。著書に『「そのひと言」の見つけ方』。

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(鈴木 工=構成 教えてくれた人:コピーライター 渡邉洋介)