4月18日、北朝鮮の弾道ミサイルに関して国会で以下のような質疑応答がなされたことがテレビの報道で伝えられた。

 民進党・本村議員「北朝鮮からミサイルが飛んできた場合、本当に撃ち落とすことが可能なのか、イエスかノーで答えて下さい」

 稲田防衛大臣「可能です」

 このやり取りはあまりにもレベルが低く、国防におけるシビリアンコントロールの責務を負う国会での質疑応答とはとても思えない。

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日本に対する報復攻撃の規模は?

 北朝鮮が日本に対して弾道ミサイルを発射するには前提条件が必要だ。つまり、アメリカ軍による北朝鮮に対する何らかの軍事攻撃である。

 アメリカに攻撃された場合、アメリカ領域に直接報復攻撃を加えることができない北朝鮮が、アメリカの“追従勢力”であり、米軍出撃拠点も設置されている韓国と日本に対して報復攻撃を実施する可能性は極めて高い。

 日本に対する報復攻撃は弾道ミサイルにより実施される。いまのところ北朝鮮軍が手にしている対日攻撃用の弾道ミサイルはスカッドER(スカッド-D)とノドンである。これらよりも長距離の目標を攻撃するための弾道ミサイル(IRBM)でも、発射角度を調整することで対日攻撃は可能だが、貴重なIRBMを日本への報復攻撃に使用してしまう可能性は低い。よって、日本への報復攻撃は、高い確率でスカッドER(スカッド-D)とノドンが用いられるとみてよい。

 日本にとっての最大の問題は、北朝鮮が何発のスカッドERとノドン、そしてそれらを発射するために必要な地上移動式発射装置(TEL)を保有しているのか、ということだ。それによって、日本に対する報復攻撃の規模が推定できるからだ。

 数年前までは、スカッドERとノドンを合わせると400発とも言われていた。だが、最近の米軍などの情報筋の分析によると、100発ほどに落ち込んだものと考えられている。そして、それらの弾道ミサイル用のTELも50両を超えないのではないかと言われている。

 もしTELがミサイルの数に対応して100両存在した場合には、100発のスカッドERとノドンを連射することが可能である。したがって、北朝鮮による報復攻撃としての対日弾道ミサイル連射は、おそらくは50発、日本にとり最悪のシナリオとしては100発、と見積もらざるを得ない(もちろん北朝鮮軍にしか実数は分からない)。

「イエスかノーか」を聞くレベルの低さ

 北朝鮮による対日弾道ミサイル攻撃は50発なのか、はたまた100発に達するのか? アメリカ軍関係者などの間などでは、様々な可能性を前提とした議論がなされている。

 だが、報復攻撃を受けるかもしれない危険な状況が迫りつつある日本で、それも国会で、「北朝鮮からミサイルが飛んできた場合、本当に撃ち落とすことが可能なのか、イエスかノーで答えて下さい」などという質問がなされているのは噴飯ものと言うしかない。

 そもそもこの質問者は、北朝鮮による対日報復攻撃がこれまで繰り返されている試射とは全く違う戦闘行為であるとの認識があるのだろうか? また、報復攻撃には50発あるいは100発といった大量の弾道ミサイルが連射されるという認識があるのだろうか? また、弾道ミサイル防衛という極めてトリッキーな防空戦闘に「イエスかノーか」で答えられる道理がない。単に稲田大臣に対する嫌がらせをしているのか、あるいは弾道ミサイル防衛を「イエスかノーか」で答えられる程度にしか考えていないのかもしれない。

 このような愚劣な質問に対して「可能です」と答えてしまった稲田大臣も迂闊と言える(ただし、筆者が耳にしているのは冒頭の報道のみなので、実際の答弁はこのように単純なものではなかったのかもしれない)。北朝鮮が発射する弾道ミサイルの数量に応じて迎撃可能性を論じなければならないのである以上、稲田大臣は「『イエスかノーか』で答えられるような単純な問題ではない」と突っぱねるべきであった。

 そして、大臣はテクニカルな詳細まで熟知していなくとも問題ではないのだから(もちろん知っているに越したことはないが)、迎撃シミュレーションに関しては防衛省自衛隊のミサイル防衛担当者に説明させれば良かったのだ。

2段構えとは言えない日本の弾道ミサイル防衛

 質問者がおそらくはイメージしていたように、北朝鮮による対日攻撃が1〜2発程度であった場合には、大臣答弁のように「迎撃可能」でも間違いとは言えない。ただし、この場合も条件がある。

 すなわち、北朝鮮が弾道ミサイルを発射した時点で、男鹿半島沖、隠岐の島沖、五島沖の3地点にイージス弾道ミサイル防衛システム(BMD)を搭載した海自駆逐艦がスタンバイしていた場合には、95%に近い確率で打ち落とすことが期待できる(下の地図を参照:最大射程距離1200キロメートルというカタログデータに則れば1隻配備態勢でも打ち落とせる可能性はあることになるが、射程距離500キロメートルという実戦的配備を考えると3隻態勢が必要)。

北朝鮮の弾道ミサイルに対する理想的なイージスBMD艦の配置イメージ


(* 配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで本記事の図表をご覧いただけます。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49844)

 この条件に加えて、もしも北朝鮮の攻撃目標地点から20キロメートル以内に空自PAC-3防空ミサイルが展開していた場合には、それら1〜2発の弾道ミサイルはほぼ間違いなく撃墜することが可能だ。

 このような期待は、4発までは可能だ。しかし、5発以上になると迎撃確率は減少し、(現在のところ)9発以上になると、イージスBMD駆逐艦の防衛網は突破されることになる。

 北朝鮮の攻撃目標地点から20キロメートル以内にPAC-3がスタンバイしていれば、海自の防衛網を突破した数発の弾道ミサイルを撃墜することは期待できる。ところが、北朝鮮(あるいは、日本に弾道ミサイルを撃ち込もうとする敵勢力)は、PAC-3が待ち構えている周辺20キロメートルを攻撃目標にはするとは限らない。北朝鮮から発射された弾道ミサイルは7〜10分で日本領内に到達するため、発射を探知し捕捉(通常3分程度)してからPAC-3を移動させることなど、もちろん不可能である。

 しばしば「日本の弾道ミサイル防衛態勢はイージスBMDとPAC-3の2段構えになっている」と言われているが、それはあくまでPAC-3が配備されスタンバイしている地点から20キロメートル以内の地域に関してである。それ以外の日本領域は、イージス駆逐艦に搭載されたイージスBMD(もちろんスタンバイしていた場合に限るが)の一発勝負(1発の弾道ミサイルに対して迎撃ミサイルは通常2発発射する)と考えなければならない。

BMDだけでは抑止はできない

 いくら弾道ミサイル防衛に莫大な予算を投入し、かつ、海上自衛隊本来の戦闘能力を削って弾道ミサイル部隊に転換したとしても、北朝鮮の報復攻撃(50発あるいはそれ以上の弾道ミサイル攻撃)に対しては、いまだに「迎撃は可能です」と安易に答えるような防衛レベルには達していないのが現状だ。

 まして、北朝鮮とは比べものにならないほど強力な中国弾道ミサイル戦力に対しては、いまだに脆弱の域に留まっている。そのことを肝に銘じて対抗策の構築(現在のところ、報復攻撃力の構築)に取りかからねばならない(本コラム「迫る北朝鮮の脅威、日本は報復攻撃力の構築で対抗を」、拙著 『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』も参照していただきたい)。

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筆者:北村 淳