いま世間の関心は、米国が北朝鮮に対し軍事行動に出るかどうかに集中している。北朝鮮による6度目の核実験や、米国本土を射程に収める能力を誇示するような大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験などが行われれば、その挑発行動に対し米国も何らかの行動に出る公算は高いだろう。

 もし米軍が武力行使に踏み切れば、北朝鮮も無抵抗のはずはないから、韓国への攻撃やわが国にある米軍基地へのミサイル攻撃などが想定されることになる。長く太平洋戦争後の平和を享受してきた日本にとって、安全保障についての見方を根本的に見直すことを余儀なくされる事態となろう。

 しかし、「ソウルが火の海になる」ような事態の展開や、北朝鮮による先制的な核兵器使用を米国は恐れているだろうし、中国も米朝の全面衝突や朝鮮戦争の再現を望んではいないはずである。武力衝突に至らないで済む「最適解」があるとすれば、北朝鮮が非核化を受け入れて国家を存続させることである。だが金正恩が非核化を受け入れる可能性はない。だとすれば、「できるかどうか」の議論は別にして、中国が働きかけて北朝鮮でクーデターを起こし、金正恩を排除して中国のコントロールが可能な「傀儡政権」を打ち立て、中国の庇護下で「非核化」するしか落とし所はないのかもしれない。

 そんなシナリオは実行不可能だとかナンセンスだと言われても、現実的にはそれしか朝鮮半島情勢のカギを握る米中の共有する利益を保証する方途は見つからないのではないか。

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米国で見直された台湾の戦略的地位

 同様に、現在のところ平穏を保っているが、米中の利害が衝突するもう1つの場所がある。言うまでもなく台湾である。

 朝鮮半島については、非核化を実現することを条件に米中で折り合いがつけられる可能性が論理的には存在する。冒頭の議論はその可能性を示そうとしたものだ。だが、台湾問題で米中が折り合う可能性はほとんどない。しかも中国は、台湾併合による中台統一を国家的課題に据えているから、台湾の「独立」を受け入れる余地がない。

 馬英九政権下で台湾海峡両岸の接近が進んでいたときに、米国内では「台湾放棄論」が出現した。それは民主政体である台湾が自主的に中国との「統一」を選択した場合、米国にそれを阻止する選択肢がなかったからである。

 幸いなことに、事実上の独立主体としての台湾の現状維持を主題に掲げる民進党の蔡英文政権が成立したことで、米国内で台湾放棄論のような議論は沈静化してきている。米台関係が重要でないという声は聞こえなくなっているといってもいいだろう。

 背景を分析すれば、様々な指摘が可能だろう。例えば、台湾の戦略的地位が見直されたのかといえば、答えはイエスだろう。習近平政権が強引に南シナ海の南沙諸島で人工島建設を進めた結果、南シナ海における「航行の自由」が米中間の争点になった。海洋覇権国家である米国にとって、自国の海軍艦船が行動に支障をきたす海域の出現を容認するはずがない。

 南シナ海の南端の要衝がシンガポールであるとすれば、北端の要衝はフィリピンとなる。しかし、フィリピンのドゥテルテ政権の対中姿勢の不安定さを見れば、その近隣にある台湾を米国の影響圏にキープしておく重要性は指摘するまでもない。中国に対抗し、日米と安全保障で協調する台湾の戦略的価値はきわめて高い。

中国から見て物の数に入らない台湾の軍備

 さて、本稿のテーマは、日米にとって重要となる台湾の防衛態勢である。

 ここで台湾海峡両岸の戦力を比較してもあまり意味がない。国防予算の規模については、現在では台湾は中国の15分の1以下に過ぎず、まともに対抗できるわけがない。

 もちろん、台湾の場合、米国が防衛の後ろ盾になっている。米国は国内法である「台湾関係法」に基づき、防衛に必要な兵器供与と台湾への安全保障上の関与を謳っている。だから中国は台湾への武力侵攻を試みようとするなら、米軍の関与を想定しなくてはならない。

 近年、中国は「接近阻止・領域拒否」という、いわゆる「A2/AD」(Anti-Access/Area-Denial)と呼ばれる戦略の強化を進めてきた。対艦弾道ミサイル「東風21D」の配備や潜水艦・空母など海軍艦船の増強、ステルス戦闘機など航空戦力の拡充などによって、台湾海峡有事の際に米軍を台湾に接近させないための戦略である。

 過度な誇張を恐れずに言えば、中国が邁進する軍備の近代化と拡充は、米軍をターゲットとするものであって、中国の目から見たとき、台湾の防衛力など物の数ではない。台湾にある空軍基地や軍港、レーダーサイトなどは1400基を超えるとされる中国の短距離弾道ミサイルの「飽和攻撃」でほぼ無力化できるという自信も中国にはあるかもしれない。

台湾の兵器の現状

 台湾が中国に対して軍事的に劣勢に立たされているのは疑いない。しかも、いかに米国が台湾の後ろに控えているとはいえ、米国にとっても中国との関係は重要だから無用な摩擦は避けたい。結局のところ、米国も台湾の防衛力強化について真剣な対応を取ってきたとは言い難い現実がある。

 米国は、国際的に孤立した台湾に対して、兵器売却について独占的立場を享受してきた。他の国が中国の反発を恐れて台湾への武器売却から手を引いた結果である。ただし、その米国自身も中国との関係を斟酌し、台湾が望む防衛用の兵器をそのまま売却することはしてこなかった。

 その結果が、現在の台湾の貧弱な防衛力である。主力戦闘機のF-16A/B型については、オバマ前政権に対し、追加要求してきた能力向上型であるF-16C/D型66機の新規購入は認められず、現状保有する143機の改修による能力向上に抑え込まれた。それでも1機あたり25億円強の費用負担であり、2023年まで今後7年をかけて改修を行うことになる。

 ただし、いくら能力向上を図ろうとも、F-16は所詮、第4世代機であって、中国が開発・配備を進めるJ-20のようなステルス性を備えた第5世代機に対抗するには役不足である。台湾もそうした観点から、近い将来米国に対し、第5世代機であるF-35ステルス戦闘機の購入を求めていくことになろう。

 もう1つ、台湾が長年にわたって購入を希望してきたディーゼル潜水艦に至っては、2001年に当時のブッシュ大統領が8隻の供与を提示したものの、当の米国にその建造設備も技術もない「空手形」にすぎず、結局、蔡英文政権になって独自に建造する計画を進めることになった。昨年12月に台湾海軍から潜水艦建造を受注した台湾国際造船は今後、設計に4年、建造に4年の8年をかけ、1500〜2000トンクラスのディーゼル潜水艦の完成を目指している。今年3月21日、蔡英文総統が出席し、台湾の南部、高雄で潜水艦建造契約の調印式が執り行われた。国産潜水艦建造への期待の大きさがうかがわれる。

 台湾には米国製2隻、オランダ製2隻の計4隻のディーゼル潜水艦があるが、米国製は建造から70年以上経つ「骨董品」で、訓練用にしか使用できない。オランダ製の2隻も、1980年代の建造だから、艦齢30年前後の老朽艦である。4隻ともにすでに退役時期を迎えているのは明白だ。つまり、台湾にとってディーゼル潜水艦の調達はまさに喫緊の課題だといえる。

 国産化にかじを切ったとはいえ、順調に計画が進行しても8年かかることを考えれば、まだまだ旧式の4隻に頼らざるをえない心細い状況が続くことになる。しかも、潜水艦建造の経験や技術、ノウハウを持たない台湾が、高い静粛性と機動力を求められる現代の潜水艦の要求水準を満たすものができるかといえば、自主開発のみではそのハードルはきわめて高いと言わざるをえない。ディーゼル潜水艦としては世界最高水準にあると言われる日本の技術やノウハウは、まさに台湾にとって「喉から手が出る」ほど手に入れたいものだろう。最新のものは難しいだろうが、ある程度陳腐化が進んだ技術やノウハウを米国経由で台湾に提供する可能性はないのだろうか。

台湾には独自の国防技術がある

 このように、戦闘機や潜水艦などの難関はあるものの、蔡英文政権は防衛力の近代化を自主的に行おうとしている。ここで看過してはならないのは、台湾の自主的な防衛力の近代化は決して机上の空論ではなく、国防技術の裏付けがあることだ。すなわち、台湾は独自の技術で先進的な戦力を構築してきた実績もあるのだ。

 端的に言えばミサイル戦力であり、「雄風3」超音速巡航対艦ミサイルや、「天弓3」地対空ミサイル、「天剣2」空対空ミサイルは、国際水準で見ても最先端の性能を持つ。「雄風3」は、300キロメートル以上の長射程をもち海面スレスレを飛翔するシースキミング・タイプで中国海軍艦船にとって深刻な脅威となり、「天弓3」は米軍のAMRAAM(AIM120)と同等の長射程で、敵戦闘機の対空ミサイルの射程範囲外からの攻撃が可能だ。「天弓3」は、マッハ6まで敵のミサイル速度に対応する能力があり、限定的とはいえ局地防衛用のミサイル防衛にも使える上、コストはパトリオットPAC-3の5分の1と安価である。ちなみに、PAC-3の対応速度はマッハ5プラスといわれているから、「天弓3」の性能は相当な水準にあることが分かる。

 つまり、ここで強調しておきたいことは、中国が台湾を甘く見ていると痛い目に遭うということだ。しかも、現代の軍事技術は、民用技術と隔絶されているどころか、「共用」する部分のほうがはるかに多い。

 日本ではあまり知られていないが、三菱重工が開発しているMRJ近距離小型旅客機の翼や胴体部分の部品の一部は台湾の航空会社が製作している。軽量かつ強度の高い航空機用複合材料は、これまで日本の独壇場とされてきたが、台湾企業の能力は日本並みになってきているのだ。

 もちろん、中国の巨大な軍事力を前に、台湾の自主的な防衛努力がどの程度の効果を見込めるかを考えると、悲観的にならざるをえない。しかし、それでも台湾住民に安心感を与え、中国に警戒感を持たせるのは、台湾の安全保障を預かる蔡英文政権の重い任務である。米国頼みの限界と向き合う「兵器自主開発」のジレンマに立ち向かう台湾を応援したい。

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筆者:阿部 純一