自動運転車はどのように実現されて、どのように社会に浸透していくのだろうか。(写真はイメージ)


 自動車メーカーとIT企業が混然一体となって「自動運転」の実現に突き進んでいる。そう遠くない将来に実現されるともいわれているが、実際にはどこまで技術開発は進んでいるのだろうか。

 自動運転技術の開発に古くから取り組んできた、インテル 事業開発・政策推進ダイレクター(兼)チーフ・アドバンストサービス・アーキテクトの野辺継男氏に話を聞いている。

 前回「あと3年で自動運転車が街の中を走り始める!」は、自動運転車がいったいどのようなモノなのか、そしてどのようなライフスタイルやビジネスモデルをもたらすのかを聞いた。そのような未来は、どうやって実現されていくのだろうか。

 今回は、自動運転を実現するための技術的な到達点や、開発に向けた協業のあり方などを、引き続き野辺氏に聞いていく。

インテル 事業開発・政策推進ダイレクター(兼)チーフ・アドバンストサービス・アーキテクトの野辺継男氏。


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自動運転に必要な技術

――自動運転で鍵になるのは、周辺環境の認識になると思います。具体的にどのように環境を認識するのでしょうか。

野辺継男氏(以下、敬称略) 人間は「直近の信号が赤だから止まる」と判断し簡単にそれを実行しますが、コンピューターが走行中のカメラなどを使って正確に「直近」の「信号」の「色」を認識するのは、実は非常に難しいのです。まず、直近の信号を探さなければいけない。そこから色を認識しなければいけない。それも自分が動き、周囲も動く中、「動画」から正確に画像認識を行う事は難しい。

 そこで3次元の地図を参考にします。クルマのカメラ画像(2次元)から見たときに、止まるべき直近の信号はこれだと3次元の地図を元にコンピューターが正確に示し、色を容易に認識できるようにします。

 その上で、認識だけでは終わらず「直近の信号が赤だから停止線の前で止まる」といった人間の前頭前野で行う様な高度な判断を実行しなければなりません。そうしたシチュエーションは、現実世界ではあまた存在し、条件で分岐させる「if-else-then」といった通常のソフトウエアプログラミングでは手に負えず、「信号がどういう状態のときクルマはどうやって運転しているのか」「ここではどの車線を走って、どこで車線変更をし、どうやって交差点を右折するのか」「人や自転車が飛び出してくるかどうか」など、認識し判断するために必要なデータを大量に集めそれらを学習します。

 これこそが深層強化学習の対象になるわけですが、そのデータ収集には相当走り込む必要があります。さらに“走り方”の完成度を高めるための時間にしても、何百時間、それこそ季節の変化もありますので、1年間以上の期間、走り込む必要があります。そういったことを、どれだけの範囲でやるのかということを、技術・事業の両面から検討する必要があるかと思います。

――画像認識の技術についてはいかがでしょうか。

野辺 カメラの画像認識はもちろんですが、それに加えて、レーダーや「ライダー」というレーザー光線を利用する装置を使います。これを利用すると、どの方向のどの距離に物体があるかが分かります。それを集めて3次元的な物体を3次元の点の集まり(点群)として把握します。その点群を3次元のままディープラーニングにかけることで、3次元の物体、例えば人間を、どこから見ても「人間だ」ということが分かるようになります。

 また、歩いているとか止まっているといった状態も分かりますので、例えば歩道に人がいることが発見された場合、同時に「はたしてこの人はこの道を渡ろうとしているのか」なども推測できます。

 各種センサーを複合的に用いて、昼でも夜でも、雨でも雪でも、周囲環境を認識するのに必要な技術にセンサーフュージョンというものがあります。ここでも各種センサーデータやセンサーフュージョン自体にディープラーニングを適用し、認識率を上げることも可能でしょう。さらに、ECU(Electronic Control Unit)のデータに対してもセンサーフュージョンやディープラーニングを適用し、走行状態をより正確に把握するようなことも今後はあり得ると思います。

 言ってみれば、こうしてITの最先端のセンサーやコンピューターを詰め込んで走るのが自動運転なのです。

――そうすると、必要な技術はもうそろっていると言えるのでしょうか。

野辺 そうですね。日本国内でも広範な公道データの収集を早急に開始する必要がありますが、大量のデータを収集し情報処理する要素技術はそろっています。ただ、コンピューターを車に搭載する際に、計算に必要な消費電力を下げたり、放熱したりといった問題が出てきます。それらをどうクリアするかが今後数年で自動運転を実現する上での技術上の課題の1つになります。

自動運転のプラットフォーム

――それらの要素技術は、どのように統合されて自動運転に採用されていくのでしょうか。

野辺 先に述べたように、自動運転では車載コンピューター、クラウドのデータセンター、そしてそれらの間の通信技術が必要になります。これらを自動運転の開発プラットフォームとしてまとめたのが「Intel GO」です。

 車載コンピューターには、次世代のAtomプロセッサーや高パフォーマンスのXeonプロセッサーに加え、高性能なFPGA(Field Programmable Gate Array)を搭載します。周囲の環境の認識や走行状態の把握、3次元地図との対比、それらに基づく意思決定など、これまでサーバーなどで要求されてきた能力を、今度は車載コンピューターに導入します。

 通信に関しては、2020年頃に実用化スタートが予想される5Gにも対応した形で提供します。いずれは地図のアップデートや走行アルゴリズムの更新でも必然的にデータ量が膨大になるので、通信帯域の広さ、遅延やコストの低さから、5Gの重要性が増すでしょう。また、データセンター上のソフトウエアとの連携にも、自動運転向けの機械学習を含む開発キット(SDK:Software Development Kit)を提供し、ハードウエアの性能を存分に引き出しつつ、早期市場導入に向け開発を加速させます。

――ハッキングなどに対するセキュリティは担保されるのでしょうか。

野辺 Xeonプロセッサーはこれまでも、例えば金融取引などの高度な信頼性が要求される処理をサーバー上で実現し、ネットワークセキュリティにも対応して来ましたが、これらも車載コンピューターに導入します。同様にクルマに要求される高度な「ファンクショナルセーフティ」にも対応しています。

自動運転の要素と、Intel GOプラットフォーム。


自動車メーカーとの協業

――Intel GOなどのプラットフォームを、自動車メーカーはどのように取り入れていくのでしょうか。

野辺 これまでの自動車の開発は、すべて自社で開発しようという傾向があったかと思います。誰かが良いものを作ると、自分も同様に社内でノウハウを蓄積し作りこまなければ、より良いものは作れないといった考え方です。

 しかし、ITの開発は違います。誰かが素晴らしいものを作ったら、多くがそれを使って、その先を開発し、また良いものができたら、それを土台にみんながさらに先へ進む。こうした事が多面的に同時に進みますので、これがITの開発が指数関数的な早さで進んできた要因の1つです。

 自動運転も、ソフトウエア開発の競争になるので、IT的な開発姿勢が求められていくでしょう。そこで、Intel GOのようなプラットフォームを皆さまに使ってもらって、その先のアプリケーションレベルの開発へと、どんどん進んで行ってほしいのです。

――そうすると、自動車メーカーごとの味付けのようなものがなくなってしまうのでは。

野辺 Intel GOが提供するのは、自動運転の開発に求められる技術基盤であり、その上にはさまざまなアプリケーションを載せるためのSDKも提供します。むしろ自動運転の時代では、自動車メーカーそれぞれの個性を生かしたクルマをより早く市場導入するために、これまでとは違い、結果的に同じものになる機能や技術に関しては他社との開発の重複を可能な限り避け、むしろ利用し、その先を開発する必要があります。

――IT的な開発に、自動車メーカーはシフトできるのでしょうか。

野辺 一朝一夕では変わらないでしょうが、欧州ではそのような開発へとシフトしてきているように見えます。競合メーカー同士でも場合によっては分業や提携したり、また人材の流動性も高く、相互に転職したりもします。協調と競争をうまく使い分けています。

 基礎技術をある意味共通にして、アプリケーションやソリューション、さらには使い勝手によって差別化を図るような方向が見られ、Intel GOは国内におけるそうしたIT的な開発体制へのシフトにも大いに役立つと思います。

筆者:西原 潔