浅田真央の引退を報じる新聞各紙(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

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「フェイクニュース」「オルタナティブ・ファクト」「ポスト・トゥルース」――。

 昨今、メディアをめぐる言説がさかんだ。アメリカのドナルド・トランプ大統領は、自らに批判的な論調のCNNやニューヨーク・タイムズ(NYT)に対して敵意をむき出しにする一方で、ツイッターを通じて安倍晋三首相とのツーショットや中国、北朝鮮を牽制する発言を直接発信している。トランプ大統領のツイートは瞬時に数千人がリツイートし、世界中に波及する。

 トランプ政権は4月29日に誕生100日を迎えるが、トランプ大統領はツイッターで「私が最初の100日間でどれだけ多くを達成しようとも、メディアが台無しにする」とあらためてメディアに対する不満を吐き出している。

 今、メディアに何が起きているのか。4月に『メディアの敗北 アメリカも日本も“フェイクニュース”だらけ』(ワック)を刊行した経済評論家の渡邉哲也氏に聞いた。

●加速するメディアの「敗北」と「機能不全」

――トランプ大統領の就任以降、メディアに関する問題がクローズアップされています。

渡邉哲也氏(以下、渡邉) 2016年に顕著化した「メディアの敗北」の波が、今年はさらに加速すると思われます。昨年、イギリスのEU(ヨーロッパ連合)離脱について、世論調査では5〜7ポイントの差で残留が優勢とされており、大手メディアは世論を読み違えました。

 アメリカ大統領選挙においても、アメリカのメディアは50社以上が民主党のヒラリー・クリントン氏の支持を打ち出し、トランプ氏のネガティブキャンペーンを展開。一方、トランプ支持はたったの2社でした。そして、世論調査では終始「ヒラリー勝利」が大勢を占めていたことは周知の通りです。

 しかし、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)をはじめとするインターネット上ではトランプ氏の人気は高く、実際に“隠れトランプ”の存在が当初の泡沫候補を大統領にまで押し上げました。言い換えれば、先の選挙は「メディアvs.メディアを信頼しない大衆」という構図であり、トランプ氏の勝利によってメディアの機能不全が露呈したといえます。

――トランプ氏は選挙中から、一部のメディアを痛烈に批判していました。それは、大統領就任後も同じです。

渡邉 就任前の今年1月に開かれた記者会見で、トランプ氏はCNNに対して「お前の組織は最低だ」「黙れ」「フェイクニュースだ」と名指しで批判しました。また、ツイッターでNYTのことを「経営不振の偽ニュース」「正しく経営するか廃刊にすべきだ」とまで言っています。確かに過激で批判を招く言動ではありますが、これは「メディアを恐れない」という意思表示でしょう。

 NYTは朝日新聞社と提携関係にあり、東京支局を朝日新聞社の東京本社ビルに設けています。このNYTと朝日新聞の報道が、逆に日米トップの距離を縮めることになるという皮肉な現象も起きています。

 安倍首相は、大統領就任前のトランプ氏と昨年11月に会談した際、「あなたはNYTに徹底的に叩かれた。私も、NYTと提携している朝日新聞に徹底的に叩かれた。だが、私は勝った」と語りかけ、トランプ氏は「俺も勝った!」と意気投合したことが伝えられています(2月21日付産経新聞より)。

●「詐欺同然」残紙訴訟の本格化で新聞業界崩壊も

――翻って日本では、新聞の販売部数減少が伝えられています。

渡邉 今、新聞業界には激震が走っています。かつて消費者金融業者のグレーゾーン金利に関する過払い金返還訴訟に尽力した弁護士や地方議会議員の方々が中心となり、「NO!残紙キャンペーン」が展開されているのです。

「残紙」とは、売れる見込みがないのに新聞社が新聞販売店に強制的に押しつけている「押し紙」と、販売店が折り込みチラシの広告代を稼ぐために、自発的に新聞社から余分に仕入れている「積み紙」の総称のことです。

 本書で詳述していますが、残紙は部数の水増しであり、それによって新聞社は広告料金を不当に高く徴収していることになります。そのため、広告主に対する詐欺同然の行為とみなされています。これまでも問題視されてはいたものの、是正の動きは進まず、「新聞業界最大のタブー」「マスメディアの闇」などといわれてきました。

 かつて、グレーゾーン金利が最高裁判所で認められず、過払い金返還訴訟が相次いだことで、倒産する消費者金融業者が大量に発生しました。今後、残紙関連の訴訟が進むものと思われますが、仮に裁判所が残紙の不当性を認めれば、グレーゾーン金利のときのように判例として機能し、同様の過払い金返還訴訟が相次ぐでしょう。

 それは、すべての新聞社、新聞販売店、広告代理店にとって大きなダメージとなります。部数や広告費の減少が止まらない新聞業界では、すでに倒産する販売店も出始めていますが、残紙問題のゆくえによっては新聞社の経営危機や倒産も現実味を帯びてきます。

――本書では、広告代理店を含む日本のメディア業界の構造的な問題にも踏み込んでいます。

渡邉 日本のメディアは巨大資本による寡占化が著しいことが問題であり、換言すれば、一種の談合構造になっているといっても過言ではありません。まず、新聞社、テレビ局、ラジオ局が同一資本によるメディアグループをつくり上げています。これを「縦糸」と呼びましょう。

 縦糸のメディア各社は記者クラブに属しており、同じ管理下で同じ情報を得て連携して動いています。そのため、同じ情報が同時に大量生産される構造になっているわけです。

 そして、メディア各社はコンテンツ制作については芸能事務所と癒着し、広告収入については電通、博報堂など寡占市場の広告代理店に依存しています。メディアに対して大きな力を持つ芸能事務所と広告代理店を「横糸」と呼びましょう。

 この縦糸と横糸が編み込まれるかたちで、相互に依存すると同時に巨大な既得権益をつくり上げてしまっているのです。しかし、この芸能事務所や広告代理店についても、今はさまざまな問題が表面化しており、かつてのような力は失われ、それがメディア崩壊の一端を担っているともいえます。

●テレビ局の電波利用料は携帯電話会社の13分の1

――広告最大手の電通では、新入社員の過労自殺をきっかけに長時間労働が問題視され、厚生労働省の強制捜査が入ったほか、社長が交代する事態になりました。また、芸能界では、昨年末のSMAP解散に伴うジャニーズ事務所の内紛が広く報じられました。

渡邉 メディアに対して大きな力を持つ広告代理店や芸能事務所にとって都合の悪い情報が露呈している現実は、既得権益が崩れ始めていることの象徴でしょう。これまで、新聞やテレビは「報じない自由」を最大の武器としてきました。対象となる組織や人物にとって都合の悪い情報を恣意的に報じないことで、ロビー力を強めてきたのです。

 しかし、そうしたメディアの特権も、ネットやSNSの普及によって崩壊しつつあります。詳しくは本書に譲りますが、近年はネット発の議論や問題提起を大手メディアが後追いするという構図も見られます。たとえば、昨年物議を醸した民進党の蓮舫氏の二重国籍問題は、言論プラットフォーム「アゴラ」で指摘されたことに端を発するものです。

 また、ネットの世界では基本的に権威主義が否定されます。そして、各分野のプロフェッショナルがSNSなどを通じて即時かつ直接的に情報発信することが可能です。そのため、場合によっては、テレビや新聞に出ている頭に「御用」がつく学者や評論家よりも、ネット発の専門家のつぶやきのほうが信頼できるということもあり得るわけです。

――メディアのもうひとつの代表的存在であるテレビについては、いかがでしょうか。

渡邉 まず問題視されるべきは、電波利用料に関する優遇です。電波は公共財であるため、総務省によって事業者に割り当てられ、事業者は電波利用料を支払っています。

 しかし、テレビ局の利用料は携帯電話会社の13分の1(それぞれ一番負担額が大きいNHK とNTTドコモを比べた場合)という安さです。これは、放送の公共性が認められているためですが、そのわりには放送法や日本民間放送連盟の「番組基準」に違反していることが疑われるような広告まがいの放送も多く見受けられます。

 また、今後はネット同時配信の動きが進むことで、相対的にテレビ局の価値は希薄化していくでしょう。しかしながら、テレビ局は広告単価の減少などを恐れて、視聴者にとっては利便性が高まるはずのネット同時配信に二の足を踏んでいる状況です。

 そうした旧態依然の体質ゆえに、テレビや新聞は今や「レガシーメディア」「オールドメディア」と呼ばれているわけです。
(構成=編集部)