2025年までに誕生する 30億人の巨大な消費者層はどこからやってくるか

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世界一のコンサルティング・ファーム、マッキンゼー・アンド・カンパニーの経営および世界経済の研究所所属メンバーが発表する刺激的な超長期トレンド予測が詰まった書籍『マッキンゼーが予測する未来――近未来のビジネスは、4つの力に支配されている』のさまざまな分析テーマを抜粋して掲載する。今回は消費者人口の爆発的増大について。

イギリスの片田舎に突如現れた
年間400万人の来訪者

 イギリス南西部のストリートという小さな町にある、クラークス・ビレッジ・ショッピングセンターのことを聞いたことがある人は、まずいないだろう。また、ここが世界中でも「絶対に行くべき」お買い物スポットの一つだと名指しする人は、もっと少ないに違いない。

 さらに、新興国の消費者にとって、ここでの買い物がブームになっていると想起する人は、事実上ゼロに近いだろう。ところが、ストリートの歴史とここでの最近の買い物客をよく調べてみると、新興国、なかでも中国が、このサマーセット郡にある片田舎の町に、驚くべき影響を与えてきたことがわかる。

 19世紀には、ストリートの最も著名なクウェーカー教徒一家であるクラークス家、とくに一家の所有していた製靴工場は、この町の生命線であった。クラークスという靴のブランドが有名になり、海外に輸出されて国際的にも存在感を増すにつれ、ストリートは繁栄し、産業革命と2度の世界大戦にも無傷で生き抜いた。しかし、ストリートも20世紀後半になって、アジアからの低価格商品の攻勢に耐えることはできなかった。

 中国製およびベトナム製の靴の品質が向上するにつれ、競争力を維持するためには、クラークスも生産を海外に移さなければならなかった。2005年までに、クラークスのイギリス国内のすべての工場が、1ヵ所残らず閉鎖されてしまった。

 ストリートの町では、クラークス・ビレッジと呼ばれる閉鎖された工場の建物が、デザイナーズ・ブランド品を販売するアウトレットモールとして改装され、1993年に新規開業した。

 その後の20年間を早送りしてみよう。開業から20年後、このショッピングセンターは95のブランド品アウトレット店舗を擁し、千人を超える社員を雇い、毎年400万人を超える買い物客を迎える場所となり、再びこの町の新たな生命線となったのである。かつて高級店であった場所が廃墟に変わった姿が最近の不況を想起させる今の時代に、クラークス・ビレッジは繁栄を謳歌している。

 クラークス・ビレッジの成功の裏には、何か秘密があるのだろうか。その答えが新興国の消費者なのである。中国人観光客は、イギリスの小売業、レジャーおよび旅客産業の重要な収入源となってきており、2013年にはイギリス経済に5億5千万ポンド(8億7850万ドル)の貢献を果たした。

 コーンウォールとデボンを訪問する観光ルートの途中に位置しているという独自の地理的利点を生かして、観光バスが立ち寄るよう働きかけ、付加価値税の免税手続き相談所を開設した。

 そういうわけでクラークス・ビレッジは、低価格に敏感なイギリス人買い物客に加え、中国でも知られている海外の高級ブランドに興味を持つ、何千人もの中国人観光客を引き付けているのである。このショッピングセンターのマネジャーによると、今やこのモールのビジョンは、「クラークス・ビレッジが、イギリス西部地域を訪れる海外からの観光客の『必ず行くべき』目的地となることです」とのことだ。

 さらに興味深いことに、中国人観光客がこぞってクラークス靴博物館にも訪れており、ストリートの町の繁栄を支える強力な後押しとなっている。

 ロンドンを本拠とし、中国からの観光客を対象とするチャイナ・ホリデー旅行会社のマネージング・ディレクター、ステファニー・チェンは、「クラークスの靴は中国で大ヒットよ。その品質とデザインは有名です」と語っている。

消費人口増加のほうが
全人口増加よりもインパクトが大きい

 20年前であれば、中国はおろかどの新興国からであれ、買い物客がストリートの町のようなイギリスの都市の経済活動を支えることなどあるはずもなく、ばかげていると嘲笑されたに違いない。何世紀もの間、世界の人口の1%以下の人たちを除き、人々はその日暮らしのための支出額を超えて消費する余裕のある水準の所得を得てはこなかった。

 1990年というごく最近のデータでも、開発途上国人口の43%は、1日当たり所得が1ドル25セントという極貧の生活をしており、地球上に生きる人の5人に1人しか、1日10ドル以上の所得を得ていなかった。1日10ドルという水準は世帯収入が「消費者層」に達する境界値であり、自由に日用品が買えるようになる水準である。

 当時のこうした消費者層人口の大半は、北米、西ヨーロッパ、それに日本といった先進国の住民であった。過去20年の間に、新興国における工業化、技術革新、都市化といった互いに増幅しあう力が、何十億人もの人々の所得を引き上げた結果、7億人を貧困層から脱出させ、12億人を新しい「消費者層」に迎え入れた。

 社会的視点からすると、この水準の貧困の根絶は、原因別死亡者数で比べると、20世紀最大の人類の健康への貢献と讃えられる天然痘の根絶よりも、多くの人々の命を貧困に関連する病気や飢えから救ったのである。

 また市場的視点からすると、このことが意味するものは、巨大な消費力を持つグローバルな消費者層の重心が、東そして南に移動しつつあるという事実だ。私たちの推計では、2025年までに消費者層にはさらに18億人が加わり、合計42億人になるだろう。

 2012年に世界人口が70億人を超えたときには、大きな論争が湧き起こった。だが、わずか35年の間に、世界の消費者層に30億人が加わったことのほうが、はるかに重要な進歩の道程である。

 このことは、1960年代半ば当時に地球上にいた全人類の人口と同じ数の人々が消費者層に加わった、ということなのだから。

 ドイツ銀行のグローバル・ストラテジスト、サンジーブ・サンヤルはこう指摘している。「次の20年間について真実を語ると、新興国が中流の地位を獲得することだ。もちろん他の新興地域も同じような移行を果たすだろうが、この変身の圧倒的主役はアジアだろう」

『マッキンゼーが予測する未来』より