シリコンバレーにあるYahoo!本社前で。


Apple、Google、Uber...世界の最先端企業が集う街、シリコンバレー。米国でもトップクラスの地価を誇るこの街での生活にはとにかくお金がかかります。

しかし、デジタルマーケティング会社を経営する起業家である私、楠山健一郎は事業の開発・開拓、ネットワーキング、そして子どもを有名IT企業が生まれた土地で育てられることのメリットを考え、家族とともに移住を決意しました。

今回は「シリコンバレーで暮らす起業家の生活」をご紹介するとともに、起業家がビジネスを展開していくうえで必要なことをお伝えしたいと思います。


170424_sillicon_valley_prof.jpg楠山健一郎(くすやま・けんいちろう)
米国系石油会社の日本支社長としてアメリカ人などに囲まれて仕事をする父親の姿を間近に見て育ち、自分も将来世界で勝負したい、日本の外に出て多様な人たちと働きたいと感じながら育つ。国際基督教大学(ICU)卒業後、シャープ、サイバーエージェントに勤務。2001年にトムソン・ロイターに入社、メディア事業部門・日本責任者を務め、ロイター.co.jpの急成長を実現する。株式会社オークファンの執行役員を務めた後、株式会社プリンシプルを設立。シリコンバレーにオフィスを構えるとともに、家族と移住し、現在も同地在住。

ハイレベルな教育を受けられる地域は限られている


170424_sillicon_valley_murphy.jpg筆者が居を構えるサニーベール市のストリートの1つ、マーフィー通り。同市はシリコンバレーを作り上げている主要都市の1つであり、Yahoo!の本社やApple社、Google本社からも近いという好立地であるとともに、日本人駐在員が多い地域でもあります。


2016年にビザを取得した私は、住みやすさ・AppleやGoogleなどの有名企業本社に近い・人種的な多様性に富む・治安の良さ・ハイレベルな教育を受けられる学校があるといった理由から、シリコンバレーを構成する都市の1つである、サニーベール市に居を構えることにしました。


170424_sillicon_valley_family.jpg長男・長女・次男・妻と自宅前で。私が取得したビザは、投資家ビザ(E2ビザ)。今までの実績と、今後アメリカに投資し、雇用を生み、納税するとアメリカの移民局・大使館に証明することで、5年のビザを発行されています。家族も私同様にE2ビザを発行されており、妻は申請すれば米国内での就労も可能です。


自宅には160平米くらいの庭付き一戸建てを選びました。家賃はおよそ4000ドル/月です(原稿執筆時1ドル=115円のレート換算で約46万円)。マネージャークラスが住む物件としては平均レベルだと思います。建物は1960年代のものですが、リノベーションのおかげで快適に暮らせています。


170424_sillicon_valley_house.jpg敷地内にある離れの建物は個人的に特に満足しているポイントです。自社の社員が来日した際には、ここにステイしてもらっています。


170424_sillicon_valley_house2.jpg離れの内部の様子。


どこに住むかを決めるにあたって一番重要だったのが、「アメリカではどこに住むかで子どもが受けられる教育レベルが決まる」という点です。アメリカでは学校ごとに教育レベルが1〜10でランク付けされている一方で、学区は居住地によって決定されるため、子どもに質の高い教育を受けさせるためには教育レベル8〜10の地域に住む必要があります。

そうした地域は治安も良く、人気も高いため家賃が上がるというデメリットがありますが、私はコストがかかるとしても子どものために良い学区に入れるサニーベール市を選択しました。

とはいえ、サニーベール市内ならどこでもいいというわけではありませんでした。たとえば、教育レベルの高い学区の中には、数学が得意なインド系の子どもが8割になるような地域や、日本人が多く集まるエリアもありましたが、生徒の多様性を重視し、1クラスに日本人が少ない学校に通える場所を選んでいます。


シリコンバレーの生活コストは本当に高いのか?


10ドルで行けるのはマクドナルドかサブウェイくらい

170424_sillicon_valley_restrant.jpgあるベトナム料理店のメニューと料理。春巻き2つ(4.5ドル)、フォー(7.75〜10.75ドル)など、メニューだけ見れば東京に近い額なのですが...。

家賃とともに高額なのが外食の値段です。東京だと800円くらいのランチがシリコンバレーでは12ドルくらいします。ランチ代自体は10ドルほどなのですが、これに消費税が7.5%、チップ代が10〜20%かかるためです。日本円にすると1300〜1500円、日本の倍近い感じがします。

170424_sillicon_valley_sushi.jpg「くら寿司」がベイエリアに店舗を出しているのですが、日本では1皿100円の回転寿司がこちらでは1皿2.5ドル(約275円)です。家族と食べにいったところ、150ドル(約1万7000円)と高級レストラン並のお値段に...。楠山家では「回転寿司には日本に帰るまで行かない」ということになりそうです(笑)。


自炊は日本よりもコスパがいい!

驚かれるかもしれませんが、スーパーで材料を買って自炊すれば日本より安く済むことが多いです。肉、牛乳、ビール、ワインが安いのが大きいです。

肉はシリコンバレー在住の日本人の間でもコストコがおいしいとされています。100gあたり220円のShort Lib(カルビ肉)が我が家のお気に入り。とても柔らかく、日本だと100g500円の肉に相当する感じです。個人的に、肉は日本の半額くらいだと感じます。お庭でバーベキューは実は食材が安く済むので見栄えがいい割に安く済みますよ。

170424_sillicon_valley_meat.jpg

また、牛乳はオーガニックなもので1リットル160円、オーガニックでないものなら1リットル80円です。日本では250円くらいする牛乳もあるので、安いと思います。ビールは500ml缶1本が50円、カリフォルニアワインもおいしいものが10ドルほどで手に入ります。

パンや野菜はどこで買うかによって大きく変わってきます。全米でチェーン展開しているウォルマートやターゲットでは、大量生産のパンや野菜を比較的安く購入できます。一方、WholefoodやSproutsなどはオーガニック野菜などにこだわっており、通常のスーパーの2〜3倍する商品もありますが、こちらはこちらでシリコンバレー内では人気があります。こだわりを持ち、経済的にも余裕がある人向けの、シリコンバレーらしいスーパーと言えるかもしれませんね。

こうした状況のため、自炊で節約するのが日本以上に効果的です。

170424_sillicon_valley_rice.jpg日本人にとって欠かせないお米ですが、韓国系スーパーで5kg7ドルのものが売られています。日系スーパーで新潟産コシヒカリが5kg30ドルで買えますが、日本から持ち込んだ電気炊飯器で上手く炊けば、味の違いはそれほどわからなくなるので、我が家ではこちらを買っています。


教育や医療で「お得感」を感じられないアメリカという国


一番出費がかさんでいるのが子どもの習い事です。今どれくらいかかっているかをざっくりとですが以下に示しましょう。

長男(高校生):サッカー(300ドル/月)、英語学習塾(500ドル/月)
長女(中学生):チアリーディング(240ドル/月)

※遠征のために泊まりがけでロサンゼルスやポートランドに行くことがあるので、これとは別に飛行機代(米国内近場で往復2万円ほど・ホテル代1泊2万円ほど)がかかる

ハイレベルである必要がない習い事に関しては、市などが提供している安価・無料のプログラムで済ませることも検討しています。

アメリカで質の高い教育を求めるととにかく高くつきます(これは医療や保険にも言えます)。アメリカの教育や医療、保険は値段の幅が広いのですが、価格でクオリティが決まっている感があります。日本では価格帯の中から質の高いサービスを探し出して割安感を感じることができると思うのですが、こちらではそれができないのが特徴かもしれません。

なお、教育に関しては送迎の手間もかなりのものです。アメリカでは中学生も高校生も保護者が迎えに行きますから、特に母親は子どもの送り迎えに追われて1日が終わるケースが多いです。私は朝、次男を小学校へ送り、夕方には迎えに行くようにしています。

カリフォルニア州では免許を16歳から取れるので、高校生の長男が免許を取って、自分で習い事に通ってくれるようになるだけでも、かなり助かります。送り迎えも手伝ってくれたら最高ですね。


子どもが自然とプログラミングを学び出す土地柄

170424_sillicon_valley_computer_museum.jpg地元のコンピューター歴史博物館でプログラミングに触れる長男。

とはいえ、シリコンバレーで教育を受けさせる価値はあります。スタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校といったアメリカのトップ大学があり、起業家にはそれらの大学の卒業生も多いです。また、最先端の企業がオフィスを構えていることもあってか、教育におけるITやプログラミングへの意識が高いように感じます。

小学校や塾でプログラミングを早めに学ぶことを勧められ、小学3年生の次男はすでに子ども向け学習アプリで勉強を始めています。塾の友だちとの連絡もSlackで取り合っています。高校生の長男も、Google本社の近くにあるコンピューター歴史博物館でプログラミングに触れ、同様に勉強を始めています。

パソコンに触れるようになるタイミングが早く、プログラミングを始める年齢も若く、大手IT企業を身近に感じられる環境なので、自然とそうした企業に入る準備を早くから始めているのかもしれません。


ビジネスではロマンを語ることが大事


170424_sillicon_valley_pitch.jpgシリコンバレー起業家によるピッチ大会の様子。ピッチとは投資家の前で2〜3分で自社のサービスを語り、投資をしてもらう投資家と起業家を結び付ける場のこと。写真はシリコンバレーでも有名なPlugandplayという場所で定期的に開催されるピッチ大会。


ここまでは、シリコンバレーのリビングコストや子どもの教育といった、生活の実情をご紹介してきましたが、ここからは起業家としてシリコンバレーでビジネスを行ってみて、特徴的だと感じた点をまとめたいと思います。

シリコンバレーではビジネスネットワークイベントが盛んですが、そこでは「広告代理店をやっている」「データ解析をやっている」などと自分ができることを伝えても、同じような人がたくさんいるため、ビジネスにつながるような人を紹介してもらえるような出会いには発展しません。

自分がどういう夢をもって日本からシリコンバレーにやってきた人間かを語って、自分の夢やロマンに共感してもらうことが必要です。自分が成し遂げたいことを語っていると、最後に「あなたは何をやっているの?」という質問があって、役に立つネットワークを紹介してもらえます。

サイモン・シネックがTEDトークで語った「ゴールデンサークル」──なぜ、どうやって、何をするのか?──を知らずして、シリコンバレーでビジネスをするな、といわれる通り、自分は何者で、社会の何の問題を解決し、何を変えたいか? という思い、ビジョンが大切なのです。

現地の起業家の卵にもたくさん会っていますが、誰もが常に前向きです。「このサービスを世に広めたいんだ」「これで起業するのは3社目だ」など、夢を持って何度でもチャレンジする人たちばかりです。ビザ取得の高いハードルを越えてきた人も多く、中には失効してから再度取得して戻ってきたという人もいます。

解雇通知を受け、解雇までの2〜3カ月の猶予の中で、全米の企業数百社に履歴書を送り、1社、ビザサポートありで雇ってくれる会社を見つけたという移住者や、駐在員の旦那さんが帰国するにあたって子どもの教育をシリコンバレーで受けさせるために学生ビザを取得して残ることにした奥さんなど、チャレンジ精神や雑草的スピリットを持っている人がほとんどで、ひとりひとりのエピソードがとてもおもしろいですね。

カリフォルニアにはそうした人が集まりますし、失敗を恐れずチャレンジする人を受け入れる土壌がありますね。差別を感じたことはなく、積極的に自分の考えを出していくことができます。

自分の本音や本気が問われるという意味で、全身全霊でビジネスをやってみたいという人にとってはやはり魅力的な土地だと思います。


本文中で言及しているサイモン・シネックの「ゴールデン・サークル」については、TEDトーク「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」をご覧ください。


「ノンネイティブの英語」に理解がある土地柄である


英語については、Selfish(自己中心的)に話しちゃいましょう。もし日本で外国人が一生懸命日本語を話そうとしていたら、私たちも彼の言葉に耳を傾け、理解しようとすることでしょう。

シリコンバレーの人々は、ノンネイティブな英語に慣れています。不慣れな英語であっても、辛抱強く聞いてくれます。それに、言葉はコミュニケーションの手段の1つにすぎません。好きだと言わずとも、笑顔や身振りでも好意は示せます。

言葉を発せずにニコニコしているだけなのが一番ダメです。私は以前、ロイタージャパンの日本責任者を務め、世界各地の責任者が参加するミーティングに参加していました。私はその場で予算取りの交渉を行ったのですが、中国やインドは売上が小さくても声が大きく、機関銃のように自分たちの将来性を語り、限られた予算から少しでも多くもぎ取ろうとしていました。そんな場でニコニコしているだけだったら、日本の分のお金も、彼らの予算として持って行かれてしまいます。

私は、日本がいかに重要なマーケットで、今後も人を採用する必要があり、そのために投資してくださいと主張しなければなりませんでした。そうしなければ、最後は低業績の責任を取らされ、首が飛んだでしょう。細かな英語の言い回しや適切な前置詞の選択などを考えている余裕などありません。なりふり構わず言葉を発し、必至になって予算を獲得しました。

つたなくても、間違っていても大丈夫、一度会話が始まれば、自分が言いたかった言葉を、より平易な一言で言い直してくれます。コミュニケーションを取るたびに、英語を学ぶことができるのです。



シリコンバレー移住は妻や子どもに新しい環境への適応という負担をかけることではありましたが、結果として家族の結束が深まり、コミュニケーションの時間も増えました。そうした時間は、日本では得ることのできなかった、かけがえのない時間だと実感しています。

シリコンバレーで事業を開拓する苦労は大変ですが、自身の成長を感じることができますし、現地の日本人はもちろん、現地の人も助けてくれることのありがたさも強く感じることができます。

シリコンバレーのリビングコストの大半は家賃と人件費ですから、これらをどう押さえるかが金銭的なポイントになります。仮に単身でシリコンバレーでのビジネスに挑戦したいという方には、現地起業家とのルームシェアを強くおすすめします。加えて、現地の安価なスーパーを利用すれば「シリコンバレー価格」を回避することができます。

最後に当社でも会社登記のお手伝いから、アメリカ向けホームページの作成、そして集客などを行っています。日本国内のサービスとの大きな違いは現地で採用した経験あるマーケターや制作会社を使う形で、より現地目線でマーケティングを実現できる点になります。ぜひまずは弊社の日本オフィスに気軽にお問合せください。


(文/楠山健一郎、企画・構成/神山拓生)