「編集長、産むことのメリットとデメリットを教えてください」今年で33歳になるワーカホリックなプロデューサーに、ワーママ編集長(私こと鈴木円香)が詰め寄られたことからスタートした本企画。第15回の今回がいよいよ最終回です。

私(左)と海野P(右)

この連載が始まるプロローグの時点で、海野Pはこんなことを言っていました。

「産んだら、人生どんなふうに変わるんですか? そこをちゃんと言語化してほしいんです。産んだ人って“かわいい”しか言わなくなるじゃないですか。でも、絶対に“かわいい”だけじゃないと思うんです」

ここまで14回の連載を読んで、海野Pの意識に何か変化はあったのでしょうか?

最終回となる今回は、「そろそろ産むか? でも、今の人生、超楽しいし、どうしよっかな……?」と悩んでいる30代リスクヘッジ女子の代表、海野Pをインタビューしてみることにしました。

子供の前で「産むデメリット」は語れない

鈴木:海野ちゃん、この連載もいよいよ終わりですよー。どうでした?

海野P:いやー、めっちゃPV稼げましたね!

鈴木:おい!そっちかい(笑)。さすがデキるプロデューサーは感想も超客観的。まずは数字から入るのね。いや、でも、確かにここまで読まれるとは予想してなかったよね。これほど世の中の人が「産む/産まない」の話に興味があったとは、いい意味で予想を裏切られた感じ。

海野P:そうですね。もちろん、私がこの連載の典型的な読者なんですけど、もともとターゲットにしていた20代後半から30代の女性以外にも、ママ層やパパ層、さらにはまだ子供がいない男性まで読んでくれていたみたいで、その読者層の広さにびっくりしました。本当に男女問わず読まれていた感じです。

鈴木:なんでなんだろうね?

海野P:うーん、どうしてなんだろ。でも、やっぱ、誰も言語化してくれなかったことを言語化してくれたっていう点が大きいような気がします。

鈴木:「産むことのメリット/デメリット」ってある意味、タブーだもんね。だって、産んじゃった人が「デメリット」なんて、普通語れないじゃん。子供を前にして「あんたを産んだせいで、実はこんな困ったこととか、イヤなこととか、なかには本気で後悔していることもあるんだよね」みたいな話、誰もしないよね。ホントは産んだことで生じた複雑な気持ちって、いろいろあるはずなんだけど。

でも、そうやってなんとなくタブー視されて、語られてこなかった部分を言語化したことで、まだ産んでない海野Pみたいな人は「やっぱ、デメリットもあるんだ」とわかったし、すでに産んじゃった私みたいな人は「口には出せないけど、ホントそう……」と心の中で安堵した部分もあったのかもね。

海野P:私の場合は、編集長が言語化してくれたことで「結局、わからないということがわかった」という効果がありましたね。第7回の「自分の命より大切な存在がいるという感覚」とか、第8回の「わざわざ自分で産まなくてもヨユーで愛せるという感覚」とか、どうしても産まなきゃわからない感覚があるとハッキリ言語化されたことで、なんか腹落ちしたんですよね。

鈴木:これまでの14回で書いてきたことって全部、普通なら「産まなきゃわかんないよ」のひと言で片づけられちゃうことばかりだもんね。

海野P:そうそう! でも、そう言われちゃうと、まだ産んでない人は「産む前に知りたいんですけど!」ってイラッとするんです。産む前に教えてもらわないと、「産む/産まない」なんか決められないし。だけど、今回の連載で、どこまでが産む前に知っておけることで、どこからがやっぱり産むまでわからないことなのか、その線引きがハッキリして自分の中のモヤモヤが消えたというか。

鈴木:そうだよねえ。「産まなきゃわかんないよ」って言われても、困るよね。子供って、いったん産んじゃったら本当に取り返しがつかないし、一生ついて回るものだから、そりゃ、事前に知れることは全部頭に入れてから判断したいよね。

海野P:で、わからないことがわかった結果、私は好奇心で産みたくなりましたね(笑)。特に第7回で「産むと、自分の存在がティッシュのように簡単に差し出せるほど軽い存在になる」という話があったじゃないですか。あれが、かなり大きな発見で。

今まで「産むこと=自分を奪われること」だと思ってたんです。子供が中心になる。自分が主人公じゃなくなってしまう。要は、自分がなくなることへの恐怖ですね。でも、第7回を読んで、確かに産めば自分の存在は小さくなるけど、それは“しんどい自分”から解放されることでもあるんだな、と。やっぱり、今の私って自分のためだけに生きていて、それって時々しんどいことありますから。

鈴木:ニューヨーク在住のママさんが「私もselfish(セルフィッシュ)からselfless(セルフレス)になった感じでした」という感想を送ってくれたんだけど、まさにそういう境地に達するよね。

海野P:未知の感覚を味わってみたいという気持ちが、強くなりました。私の場合、産むとしたら、あとはもう完全に好奇心ですね。「産む」って、オーロラを見に行くより、めっちゃ特別感あるじゃないですか。

鈴木:まあね(笑)。私も「アフリカ行ったことないから、アフリカ行くー!」っていうのと同じノリで、純粋な好奇心から産んだけど。でも、それだけじゃ、正直ちょっとキツいよ(笑)。

海野P:マジっすか(笑)。やば、やっぱ迷ってきた。

「産んだ人」にしか発言権がない社会

海野P:編集長も何度も書いてましたけど、結局はトレードオフじゃないですか、「産む/産まない」って。だけど、今のこの楽しい毎日の中から何かを手放してまで子供が欲しいかってなると、正直わからないですよね。

鈴木:そうだよね、徹マン(註:徹夜の麻雀)できなくなっちゃうしね(笑)。

「産む/産まない」がトレードオフの問題だってことは、この連載で一番伝えたかったこと。産むと、明らかに手放さなくてはいけないことがあるのに、それを誰もハッキリ言わないでしょ。第6回に列挙した「人生でやりたいことリスト」は今のところ、ほとんどペンティングだし、仕事で成果を出すスピードも遅くなる。割ける時間とエネルギーが絶対的に少なくなるから、仕事がうまくいかない時に「もしも産んでいなかったら……」と頭をよぎることがないと言えば、ウソになるよね。

海野P:コメントでも時々見かけましたけど、「産む/産まない」がトレードオフの問題だということを、今回の連載で初めて気づいた女性は少なくなかったみたいです。

「産む人生」と「産まない人生」は、どちらも何かを手放した代わりに何かを手に入れた結果で、本当は横並びなのに、「産まない人生」は何かが欠けた人生だと思い込んでいたというか。

鈴木:今回は私個人にもたくさんのコメントが送られてきたけど、特に印象に残っているのが、不妊治療中の女性が伝えてくれた感想。「産まない人生も断然あり」って断言してくれたことで、自分がどれだけ世間の「子供がいて当たり前」という価値観に浸って焦っていたか気づいた、と。

海野P:私自身は離婚も経験しているので、自分が産まない人生を歩むかもということは比較的受け入れられてた方だと思うんですが、世の中的には、「産まないと幸せになれない」と心のどこかで思い込んでいる女性は多いかも。

鈴木:産まない人生を選んだ人が仮に、産まない人生って最高じゃん!って思ってたとしても口に出せないんだよね。日本の社会って、「産む/産まない」に関しては、産んだ人にしか発言権がない雰囲気だから。産んでいない人が何を言っても、「でも、あなた産んでないでしょ。わからないでしょ」と無視される格好になって面倒くさいし発言しない。

海野P:なんか、負け惜しみみたいに聞こえちゃうかもしれないですね。

鈴木:ああ、それあるよね。「産まない人生も断然あり!」は産んだ人が発言しないと、耳を貸してもらえないという構造的問題がある。だから、「産む/産まない」ってすごくセンシティブなテーマだし、ウートピという媒体で顔と名前を晒して書くのはかなりリスキーだと思ったけど、ここはあえて「やらなきゃな」と考えた部分も実際あったの。

海野Pの結論は…?

海野P:最近の回では、第11回の「『産んだらキレイになれますか?』美人OLの疑問にワーママが突きつけた現実」も個人的には衝撃でした。産んでも、キレイになれないんだ!!!って。ママタレでも産んでキャラもビジュアルも自然体になって素敵に変身しちゃう人って結構いる気がしてたんで、フツーにキレイになれるもんだと思ってました。

鈴木:ああ、海野Pが美人OLってなんだよ!ってクレームが殺到した回ね。

海野P:(笑)。「ママ=幸せそう=キレイ」っていう等式があったとは、考えたこともありませんでした。

鈴木:産むと、キレイにはならないけれど、「幸せそうだね、キレイになったね」と言われるようになるという話は反響が大きかったよね。「幸せそう」と「美しい」は女性の欲望をそそりまくる二大形容詞だから、ある意味、「産む」は大きな誘惑なんですよ。この誘惑に抗うのは結構大変です。

海野P:いやー、ホント誘惑かもしれないですよね、これ。

鈴木:さて、どうするよ、海野P?

海野P:どうしましょうね(笑)。とりあえず、今はガンガン仕事してウートピをデッカいメディアにしたいですね。

鈴木:連載始める前と結論変わってないじゃん(笑)。

みなさま、全15回にわたり、ご愛読ありがとうございました。初めての編集長コラムにもかかわらずたくさんの方からコメントや応援のお言葉をいただき、胸が熱くなることもたびたびでした。本当にやってよかったと思います。心より感謝申し上げます。今後もウートピでは、迷える女性の気持ちが少しでもラクになるようなコンテンツをどしどしお届けしていきたいと思います。

(ウートピ編集長・鈴木円香)