時間がない、集中できない、そもそも本が苦手...。そんな人が、習慣的に本を読めるようになるにはどうしたらいいのか? その答えが書かれているかもしれません。

今年3月、書評連載でおなじみの印南敦史(いんなみ・あつし)さんが、著書『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』を上梓しました。印南さんは、『ライフハッカー[日本版]』をはじめ、『ニューズウィーク日本版』『ダ・ヴィンチ』など数多くの媒体で書評を執筆し、なんと年間700冊超の本を読んでいるという猛者です。

前著『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』に続き今回のテーマも「読書」で、"読書の習慣"を身につけるための方法について書かれたとのこと。

もはや恒例化しつつあるこの出版記念インタビューですが、今回も書籍の内容や執筆の背景について、ご本人にお聞きしました!

まずは「読めない自分」を受け入れる


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印南さんの近著3冊


── 前回のテーマが「読書術」で、今回は「読書習慣」ということですが、なぜこの本を書くことになったんですか?

印南:前著の『遅読家のための読書術』は、本を読むことがすでに習慣になっているけど読むのが遅くて悩んでいる、という人のために書きました。でもそれより一歩手前の、本を読むことを習慣化ができないという人が実は多い気がしていて、そういう人の背中を押すような本にしたかったんです。

── 今はネットやスマホ、その他の娯楽が増えたこともあって、本を読む時間があまり取れないという人が多いですよね。読書量を増やしたいなとは思いつつ、忙しい毎日でなかなか習慣化できないということに悩んでいる人も多そうです。

印南:「時間がないから読めない」という人は多いと思うんですけど、実は無駄な時間って結構あるものなんですよね。それを有効利用すれば、習慣化することはできるんです。例えばテレビをボーっと見ている時間とか、目的があるわけでもなくスマホを見ている時間などですね。そういう時間を利用して、スマホではなく本をちょっと開いてみればいいということです。

── 本に限らずさまざまな情報があふれている現代で、どの部分に読書の必要性を感じますか?

印南:やはり、知的好奇心が高まります。読めば読むほどに自分の内面が豊かになるということ。それは形としては見えないものだけど、ひいては自信につながっていく。読む本は、ビジネス書でも小説でもなんでもいいと思います。1冊読んだら、読み切ったという達成感が生まれてくるので、それが積み重なっていくうちに、読書自体が楽しくなってくるはず。

── この本の中では、本はちゃんと読まなくてもよくて、もっといい加減に、自分流の読書をすれば良い、ということが提言されていますね。

印南:はい、「わがまま読書」というやつですね。小学生や中学生の時などに課題図書があって、まずはこれを読めと強制されるじゃないですか。僕、それがすごく嫌だったんです。「自分の読むものぐらい自分で決めるよ」と思っていました(笑)。

そのように押し付けられると、結果的に読書に対してネガティブなってしまって、「読書なんかしなくていいや」ってなっちゃう。でも、そこでチャンスを1つ失ってしまう気がするんです。

── 「リニア」と「ノンリニア」という言葉があります。例えば映画館のように最初から最後までリニアに流れる時間を体験するものとして、読書を捉えている人が多いと思います。

印南:そうなんですよね。そこに問題があると思うんです。読書は生活の中の一部で、細切れでもいい。細切れだって積み重なれば大きくなるじゃないですか。

── 飛ばし読みでもいいんですか?

印南:いいと思います。じっくり読んだところで、現実的にはすべては覚えられないことのほうが多いからです。だいたいの内容は忘れますよ(笑)。世の中には記憶力の神様みたいな凄まじい読書家も少しはいるけれど、普通はたくさん読めなくて当たり前だし、内容も忘れて当たり前、遅くて当たり前なんです。

まずはそれを受け入れることが大事。だから、この本の一番のテーマは「受け入れる」なんですよ。要するに読まない自分、読みたくない自分、習慣がない自分、すべて受け入れる。そこから始まるんです。


途中で読むのをやめてもいい?


──いわゆる「積ん読」というか、本を買ってはみるものの、結局手をつけずに読んでない本が溜まってしまう。そんな状態をどうするか、ということも、この本の中にヒントがあるような気がします。


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印南:僕も「積ん読」の経験があります。それに満足して、本の山を見てニヤニヤしてた時期もありました(笑)。でも、意味ないんですよね。今は物を所有することに価値を見出す時代ではない。特に本ってどんどん溜まっていくじゃないですか。でも、読み返すことってあんまりないですよね。だったら取っておく必要ないし、仮に後で必要になったとしても、よっぽどレア本じゃない限りまた買い直せます。だから、基本的にはなるべく家に溜めないほうがいい気がするんですね。

── ビジネス書と小説の読み方は、それぞれ違うなと思います。ビジネス書は、バーっと見て見出しをチェックしたり、中身を斜め読みしたりすることで大体の内容を把握するといった読み方が可能ですが、小説はまた違いますよね。小説を読む時間を作るというのも、また難しいなと思います。

印南:小説の魅力はプロットを楽しむことですから、読むにはある程度、まとまった時間が必要ですよね。でも、細切れの時間の中でも続けて読める時間帯ってあるはずなんです。例えば僕は、朝、目が覚めてベッドから起き上がるまでの10分間を読む時間に充てることがあります。朝の10分は、15分、20分に相当する吸収力があります。

── 枕元に本を置いているんですか。

印南:そうなんです。また、細切れ読書のポイントとして、「もうちょっと読みたい」と思ったところで読むのを一旦やめるというのがあります。そうすると「続きを読みたい」という思いがより強くなるので、次の読書につながるんです。

──途中で「この本あんまり良くないな」と思ったときは、やめてもいいんですか?

印南:そうですね。例えば読んでいるうちに筆者に対して「なんかこの人はちょっと変だな」とか思うことってあるじゃないですか。そういうときは全然やめて構わないと思います。その時点で抵抗感がある以上、頭に入りにくいだろうし、そのぶんの時間を違う本を読むことに費やすという選択肢も僕は全然ありだと思いますね。

でもその一方、あえて興味のない本を読んでみることで、自分の好奇心の幅が広がるということもあると考えています。

── この本の中にも、つまらない本が自分の価値観を確かなものにする、といったようなことが書いてありますね。予想以上につまらなかったとしたら、普通に考えれば読んだことは時間の無駄になる。でも、自分はこういうものに興味を持てないんだな、なぜ興味がないんだろう? と考えるきっかけにできるというのは、逆説的で面白い考えですね。

印南:昔からDJをやっているんですが、過去には嫌いなレコードをあえて聴くようにしていたこともありました。「なんで俺、これが嫌いなんだろう?」と考えると、いろいろなことが分かってくるからです。本も同じで、興味がないというのは、勝手な思い込みである可能性もあるわけです。事実、「最初は否定してたけど、読んでみたら結構面白いじゃん」っていうこともあるんです。だから、門戸はあまり狭めないほうがいいとは思いますね。

── 自分の得意ジャンルじゃない本を読んだほうが、世界が広がるということですよね。

印南:そうですね。本屋に行っても、だいたい見るコーナーって決まっているじゃないですか。でもそこであえて全然関係ないところに行ってみると、世界観が広がりますよ。


読書習慣を定着させる「フリースクラッピング」


── 読書習慣を身につける方法の1つとして挙げられている「フリースクラッピング」について教えてください。

印南:その本の中で自分の気になる情報を、どんどんスクラップしていくという手法です。

そして、それ自体を1冊のノートにまとめます。自分だけの本を作るような感覚でやってみると、楽しみながらできると思いますよ。


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印南さんによるフリースクラッピングの例


印南:このような形で、その日読んだ本の中から印象的なフレーズや表現などを書き出していくわけです。早い話が落書きの延長ですね。

これは、『音の記憶 技術と心をつなげる』(文藝春秋)という本のフリースクラッピングです。著者はパナソニックの役員で、DJ機材のターンテーブルで有名なTechnicsブランドの復活にも関わった人物。で、今書いたのは、僕が抱いたこの本に対する疑問です。

著者は、バブルが崩壊してプロジェクトが解散となったときに、上司から「ジャズでもやるか?」と言われて、それ以来、社員とジャズピアニストの二足のわらじを履いてきた人なんです。でも、それに対して僕は、「ジャズってそんなに簡単にできるものなの?」という感想を抱いたので、そのことを書いたわけです。

ここまで細かく書かなくても、右ページのような感じで気になったフレーズや単語、図などを書くだけでも大丈夫です。とにかく毎日これを続けて、自分だけの本にしてしまう。そうすればあとから見て、このときこういうことを書いたなという記憶として残るじゃないですか。その記憶ってすごく重要。


170427_book_to_read_interview5.jpg試しに、本のページを破って貼り付けてみました。ちょっと勇気がいりそうです(印南さんも「初めて破った(笑)」とのことでした)


── 日記に近いメソッドということですね。フリースクラッピングというのは精神的にはどういったメリットがあるんでしょう。

印南:簡単に言うと楽しい。自分にとっての絵本を作るようなものなので、その行為自体が楽しいんです。そういう小さな楽しみが結果的に、著者との距離をちょっと縮めることになるといいますか。

だから極端な話、本もおもちゃとして考えちゃえばいいんですよ。どうしても本って高尚で、傷付けちゃいけないとか、すべてを理解しなくちゃいけないとか思いがちですが、そうではなくて、自分の人生を高める道具でしかないと思うんですよ。

そう考えたほうが読書は楽になるし、楽しくなる。たとえば僕は前著で「本を破るなんて信じられない」と書いたし、気持ちは今でも変わりません。でも、今あえてこうやってぺージを破ったことによって、この本が僕の手元から離れる可能性は低くなったわけです。ドキドキしましたけど、より関係性が近くなった気がしますよ(笑)。

── これもやっぱり、「わがまま読書」のスタイルですよね。

印南:そうですね。思いっきり極論ですけど、自分の本なんだから、破って何が悪いんだってことです(笑)。

── 今回の本の中に書いてある「読書についてのわがままなスタンス」という項目にある、「読了できなかったとしても気にしない」「読めないものには見切りをつけ、すぐ次の本に進む」などは、すごく共感を呼びそうです。

作者としては最初から最後までちゃんと読み進められる本を書くのだと思いますが、読む方はわがままでいいんですよね。

印南:もちろん僕も作家として、自分の書いた本を最初から最後まで読んでほしいと思います。けれど、それはこっちが強制することではないんですね。たとえ数ページしか読まなかったとしても、その中の1行でも印象に残ったとしたら、それは素晴らしい読書体験であるはずなので。


印南さんがライフハッカー[日本版]読者にオススメする本5選


── 巻末に印南さんのオススメ本が載っていますが、この中からライフハッカーの読者の方にオススメの本をいくつか挙げていただけますか?

印南:ビジネスパーソンの方にまずオススメしたいのが、『奇跡の職場 新幹線清掃チームの働く誇り』。国鉄時代から長年JRに勤めていた著者が、新幹線の清掃を担当する関連会社へと、不本意な人事異動を命じられてしまうんです。



最初は従業員のやる気も全然ないし、本人も「なんで俺がこんなところに」と思っていたんだけど、結果的に著者は従業員達のモチベーションを高める改革を行い、ハーバード大学の教材にもなるほどの最高の「おもてなし集団」を作り上げてしまった。その行動力がすごい。この本は業種・業界に限らず、すべてのビジネスマンに役に立つと思います。



また、『新聞の正しい読み方:情報のプロはこう読んでいる!』もオススメです。ネットでは読めない情報が新聞には載っていて、読み方が分かるとそれをしっかり吸収できるようになるということがわかります。

さっき書店を歩いて自分の世界を広げるという話をしましたが、書店を歩くのと新聞を読むのは同じことだと思います。自分が興味のないページを読むことで、予期せぬ情報を得られることがある。

── いわゆる「セレンディピティ」ですね。

印南:そうですね。だからそういう意味でも新聞の読み方を覚えておくと自分自身が高まっていくので、読み方の指南書としてこの本はすごくいいと思います。




次に『在日中国人33人の それでも私たちが日本を好きな理由』、これもすごくいい本です。今、日中関係があまりよくありませんが、要らぬ偏見をなくすという意味でこの本はオススメ。

僕がよく行く、歌舞伎町の「湖南菜館」という中華料理店の店主も登場するんですが、彼を含めたすべての人たちが、在日中国人の立場から客観的な目で日本を見ていることがわかります。ビジネスパーソンはそうした価値観をフラットにしておく必要があると思うので、その意味でこの本は読んだほうがいいと思います。




『あなたが世界のためにできるたったひとつのこと <効果的な利他主義>のすすめ』もオススメしたい。 自分について振り返ると、僕はこれまで、利他主義という価値観を意識することがあまりなかったように思うんです。毎日生きていくのが精いっぱいで(笑)。でもこの本を読んでみた結果、利他主義、つまり人のためになにかをするということは今後、多くの人にとっての新しいライフスタイルになりうるのかもしれないなと感じました。

たとえば「寄付」にはお金持ちがやるようなイメージがありますけど、ここに出てくる人たちは必ずしもお金持ちではなく、若い世代が多いんですよね。彼らはライフスタイルの一環として、自分の生活費を削りながら寄付をしているんです。しかもそのことについて、「自分のやってることは正しいんだろうか?」と悩んだりしていて、それがすごく新鮮でしたね。



『天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々』は、すごく楽しんで読める本。ただでさえ人の日常って気になるものじゃないですか。ましてや天才と言われてる人たちが普段何してるのかは、興味がありますよね。

この本のいいところは、著者の意見を入れていないところ。淡々と調べた結果の、ファクトだけを書いている。1つ1つの章は短いので、空いた時間に読みやすい本です。



『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』には、読書習慣を身につけるヒントはもちろん、読書への偏見を取り払ってくれるような言葉があふれています。読書に苦手意識を持っている人には、ぜひ読んでほしい1冊です。


(聞き手/米田智彦、文、写真/開發祐介)