<火星探査の際に、火星を地球の微生物で汚染しないようにと、NASAが細菌を成層圏に打ち上げてその変化を観察していた。ほとんどが死滅したが・・>

私たち人類は長年、宇宙のどこかに存在するかもしれない地球外生命(エイリアン)を追い求めて、宇宙探査に挑んできた。しかし、これは同時に、地球にしか存在しない生物を地球の外に持ち出し、他の惑星の環境を汚染したり、その生態系を破壊してしまうリスクをも秘めている。

NASAは『惑星保護局』を設置

このような"宇宙環境汚染"を未然に防ぐべく、米国、ロシア、日本ら105カ国が批准する『宇宙条約』では、宇宙や天体を有害に汚染しない旨を規定。NASA(アメリカ航空宇宙局)は、『惑星保護局』と呼ばれる専門部署を設置し、地球生物が太陽系を汚染しないよう、探査機の殺菌処理を徹底してきた。

しかし、微生物の中には、非常に耐性の強いものも存在する。とりわけ、「SAFR-032(バチルス・プミルス菌)」は、高温または極端な低温、乾燥などの過酷な生育環境でも芽胞をつくって生存し続ける"芽胞形成菌"のひとつだ。

成層圏に「SAFR-032」を打ち上げ観察

NASAのエイムズ研究センターは、2015年10月、ニューメキシコ州の上空12万5,000フィート(約38.1キロメートル)の成層圏に「SAFR-032」のサンプルが入った高高度気球を打ち上げた。気圧が低く、低温で乾燥し、紫外線が直接照射する成層圏は、生命体の存在が期待される火星と似た環境といわれている。そこで、成層圏に「SAFR-032」を送り込み、その変化を観察すれば、火星探査に伴う微生物汚染の予測に役立つのではないかと考えたのだ。

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NASA/Christina Khodadad


学術誌『Astrobiology』によると、この実験において、気球の打ち上げから8時間後も生存していた「SAFR-032」の割合は0.001%未満。この結果によれば、探査機に「SAFR-032」が付着したままで火星に上陸したとしても、直射日光を浴びることで、そのほとんどが1日以内に死滅すると推測できる。

その一方で、火星のような過酷な環境下でも、わずかながら「SAFR-032」が生存しうることにも目を向ける必要がある。近い将来、より過酷な生育環境でも生き延びられるよう、この生物が進化していく可能性も否定できない。

また「SAFR-032」以外の微生物が同様の環境でどのような反応を示すかについては、まだ明らかになっていない。地球外生命の追究と"宇宙環境汚染"をもたらしうる地球生命の解明は表裏一体ともいえるだろう。

松岡由希子