2018年春入社の新卒採用が本格化する中、大手広告会社の博報堂/博報堂DYメディアパートナーズは「絶対に本音で話さざるを得ない説明会」という、一風変わった自社説明会を催している。

この説明会は、同社の赤坂本社にて開催される「激論トークバトル博FES」という自社説明会内で限定的に実施しているもの。今回、キャリコネニュースは4月10日の回を取材した。

学生の表情を「Face Tracking」で分析し「モヤモヤ度」を測定

まず、会場に入って驚かされたのは、何台ものカメラが就活生の表情を常に捉えていること。これは学生が質疑応答で眉を顰めたり、首をかしげたりする瞬間を捉えるために置かれているのだという。「Face Tracking」という技術で学生の表情を読み取り、表情の変化から「モヤモヤ度」を測定していく。

前半部分では、通常の質疑応答が繰り広げられる。後半では、数多くの質問の中で学生のモヤモヤ度が高く算出されたテーマを紹介する。その際、その質問に関連する同僚や家族といった身近な人物が「TEAM HONESTY」として登場、改めて登壇者に質問を投げかける。自分の事情を知る人の前で、人は中々建前では回答することはできないもの。結果として、「絶対に本音で話さざるを得ない」というわけだ。

今回は、メディアプロデュース職の鎌倉さん(入社10年目)、アカウントプロデュース職の関根さん(9年目)、ストラテジックプラニング職の仙石さん(5年目)の3人が登壇。会場に集まった就活生130人の疑問に答えた。

まずは前半部分。仕事、社会人生活、学生時代の就職活動、会社についてなど、フォーマルなものから、ざっくばらんなプライベートに関することまで、学生から様々な質問が出る。

「変化の激しい広告業界をどう思うか?」

会の後半では、これまでの質問を学生のモヤモヤ度という観点で検証し、「本音にもっと迫りたい」質問が発表される。

まず、取り上げられたのは「変化が激しい業界だが今後どうして行きたいですか?」という質問だ。これについては、関根さんが過去に担当していた案件を引き出しに広告業界の変化を語っていた。関根さんは自身の回答を振り返る。

「CMだけではなく、さまざまな情報発信を組み合わせることが必要。担当しているクライアントでは、新しいコンセプトで店舗をつくり、体験イベントを行った」
「静から動。人を動かすことでCM以上に売上が上がることもある」

一見すると完璧にも思われた質疑応答を計測すると、学生の反応が今ひとつだったとのこと。

ここで、関根さんの上司と同僚が真実を検証する「TEAM HONESTY」として登場。「なんでここにいるんですか?」驚きを隠しきれない関根さん。上司と後輩が改めて同じ質問をすると

「いやーあの、変化が激しい業界なんで、中々うまくいかないことが多い、ね? というね?」

と、しどろもどろ。上司の前だから中々話しづらいのかと思いきや、

「実はこの仕事、2年関わったって言ったけど本当は1年だけです。イベント提案には同席してなくて、企画書を見ただけでした。『イベントで売上あがった』という報告を受けて、僕がしたかのように言いました!」

と暴露。上司からは「裏で聞いてたけど『静から動』とか、これまで1ミリも言ってなかった」と明かされ、関根さんは白旗をあげた。

学生にわかりやすく説明したいという思いやりから、回りくどい表現を省く、ポイントを改めて言い換えて話した側面もあったようだ。しかし、この説明会ではそのような「建前」は不要、企業と学生は「本音」で向き合うべき、という趣旨が改めて伝えられる。

「この質問は、しっかり考えないで答えちゃったかも。みなさんよく見抜きましたね!」

と驚く関根さんであった。

「会社に入って良かったことは?」同僚の登場に思わず本音が

次に取り上げられたのは「博報堂に入ってよかったこと」。これについて仙石さんが「社員同士の仲がいい。土日にパーティーしたり、趣味を教えてもらったり。人間関係の幅が広くなりました」と回答していた。

しかし、学生はモヤモヤしていたようだ。司会のアナウンスと共に、休日も一緒に遊ぶという同期の女性2人が登場。「会社に入って良かったことは?」同じ質問を改めてされると、

「社会人になると、経済的にもやりたいことが自由にできることかもしれません……!」

という本音がこぼれた。

同期社員が「この間も、アウトレットに行った時にね……?」と水を向けると、楽しそうに仙石さんは話し始める。

「この2人(同期)と買い物行くとすごくお金を使ってしまう。好みドンピシャなものを勧めてくるんですよ。ボーナスに期待して『1年頑張るぞ!』って思って仕事しています」

仙石さんは「『知り合いが増えて趣味も広くなる』っていう、いい話をしていたのにどうでもよくなっちゃったね」と照れくさそうにコメント。

結果として、仙石さんの受け答えに建前や矛盾があったわけではなく、「真実を知る人」がそばにいることで、オンとオフの両方で人付き合いを楽しむ仙石さんの姿がより「本音」に近い形で引き出せたようだ。

家族も登場「パパはいつも遊んでくれる?」

最後は「仕事とプライベート」について話題が及んだ。世間では「働き方改革」が叫ばれる中、同社に入社するとどんな生活が待っているのか、今年の就活生の多くが関心を抱く話題だともいえる。2児の父親である関根さんの回答は次のように語った。

「ワークライフバランスの流れを自分で作ってしまえば、(両立は)大変ではない。毎朝1時間は子どもと遊んで出社しています」

仕事については「文化祭の前に残って準備するみたいな、ワクワクしてやる感じ」だという。

ここで真実を知る「TEAM HONESTY」が登場。関根さんの奥さんとまだ幼い2人の娘さんが登場すると、関根さんは「ちょっと待って、どういうこと!?」とパニック状態に。会場は大きな拍手と笑いに溢れる。

「1日1時間、子供との時間を持つという話は誰が決めたんでしたっけ?」

奥さんが問いかけると、関根さんは「奥さんに、やれって言われて……笑」と白状。「朝無理やり起こされて、子供と遊ぶ……」と、タジタジの様子だ。

関根さんは、すかさず「パパいつも遊んでくれるよね?」と子供に問いかける。

「うん、遊んでくれるよ〜!!」

2人の子供の無邪気な受け答えに、救われたような表情を浮かべる。毎朝娘さんと遊ぶ時間を設けているのは本当のようだ。

奥さんからは娘の入園式のために午前休暇を取ったという、子煩悩なエピソードも披露される。しかし、「基本的には家にはいません」と手厳しい受け答え。司会が娘さんに「パパ、いつもそばにいる?」と聞くと、

「いらなーい」

そのあと「いるー」と訂正したが、会場は大笑い。家族想いの関根さんは少し悲しそうな表情を浮かべる。

そんな関根さんに司会は「最後に、僕が見たいだけなんですけど、奥さんに『愛してる』って言ってください」と無茶振りをする。「私のこと、愛してる?」と聞く奥さんに、

「……愛してる。何の会だこれ」

と困惑する関根さん。これに司会が「本音を引き出す会でした!」と被せていく。

最後、登壇者に今日の感想を聞くと、唯一追求されなかった鎌倉さんは「最高ですね」とニッコリ。就活生に対して、「就活の時期が自分の事を一番考える時間。合わせる必要はないので、自分の言葉で語れば魅力的に伝わるのでは」とアドバイスした。

仙石さんは「仕掛けられる前に、自分から仕掛けなきゃと改めて思いました。就活もそうですよ」と熱弁。関根さんは「本当にびっくりした。なんですかこれ」と未だに放心状態だ。建前ではなく本音を伝えたいという趣旨には賛同し、「びっくりしたけど僕自身も博報堂のことがより好きになりました」とコメントしていた。

会場にいた就活生も「リアルな感じがいい。すごく身近に感じた」「こんな説明会は初めてだったし、すごく記憶に残る。さらに入社したくなった」と満足したようだ。

この「絶対に本音で話さざるをえない説明会」はどんな狙いで開催されたのか。同社の採用担当者である人事部の西本氏は次のように語っていた。

「学生と企業の心理的な距離が離れていると、お互いに様子を探りあい、結果として建前的な話に終始してしまいかねません。それは普段の友達付き合いでも一緒ですよね。だから、私たちは学生と『本音』で話せる関係を築きたいと思っています。打ちとけあい、本音でお互いを理解しあった方が、学生も会社も『こんなはずじゃなかった』という、両方のミスマッチやギャップが少なくなるのではと思います。『絶対に本音で話さざるを得ない説明会』は、私たち企業の側が先に『本音』をさらけ出すことがテーマです。就職活動において、企業と学生が本音で話せるような関係をつくっていく、その最初の一歩を作りたいと思いました」