2017年の全日本スーパーフォーミュラ選手権が4月22日〜23日に鈴鹿サーキットで開幕した。今年も激戦が予想された開幕戦で、レースを制したのは中嶋一貴(VANTELIN TEAM TOM’S)。同カテゴリーでは2015年の第5戦・オートポリス大会以来、実に約1年半ぶりの国内での勝利となった。


普段はクールな中嶋一貴が感情を爆発させた レース後、パルクフェルメ(車両保管所)でマシンを降りた中嶋は、いつも以上に拳に力が入ったガッツポーズを披露。また、胸をなでおろすような仕草も見せ、大きなプレッシャーから解放されたかのような喜びをにじませていた。

 先週に行なわれたWEC(世界耐久選手権)第1戦・シルバーストーンを勝利したばかりの中嶋にとっては、2週連続での優勝と幸先のいいシーズンスタートとなった。だがそれだけではなく、今回の1勝は先週の勝利とはひと味違う”大きな意味”もあったようだ。

 国内トップフォーミュラで2012年と2014年にチャンピオンを獲得した中嶋は、その他のシーズンでもほぼ毎年チャンピオン争いに関わり、最低でもシーズン1勝は挙げる活躍を見せていた。ところが、昨年はオフィシャルタイヤサプライヤーがブリヂストンからヨコハマタイヤに変わったこともあり、シーズン序盤から大苦戦。予選では開幕2戦続けて、トップ8で争われるQ3ラウンド進出を逃してしまった。

 さらに、岡山国際サーキットで行なわれた第5戦。第1レースで中嶋はポールポジションを獲得するが、フォーメーションラップを終えた際に停車しなければいけないグリッドを通り過ぎてしまい、痛恨のペナルティを受けて優勝のチャンスを逃してしまう。その後も不運なトラブルなどが重なり、2011年の参戦以来、自身初めて未勝利に終わる不本意なシーズンとなってしまった。

 そして2017年。2週間前に開幕したスーパーGTに2014年以来となる復帰を果たすも、予選Q2では雨に足もとをすくわれてコースアウト。決勝でも一時はトップに立つが、ライバルとのバトルの際にミスしてコースアウトを喫し、レクサス勢同士の表彰台争いから脱落して5位でレースを終えた。

 中嶋からすれば、WEC第1戦で勝利を飾ったものの、「日本国内のレースでしばらく勝てていない」という事実が自然とプレッシャーになり、それが精神面で大きな負担となっていたのかもしれない。

 そんななかで迎えた、スーパーフォーミュラ開幕戦。予選日の前日に行なわれた練習走行で、中嶋はトップタイムを記録する。そして決勝グリッドを決める公式予選では、1分35秒907を記録してポールポジションを獲得。昨年チャンピオンの国本雄資(P.MU/CERUMO・INGING)をわずか0.090秒差の僅差で抑え、チームの期待に応える見事な走りを披露した。

 実は予選当日、中嶋は前日の好調さとは裏腹に険しい表情を見せ、取材に対してもあまり多くを語らず、どちらかというとナーバスになっているように見受けられた。それが、予選後の記者会見では「ホッとしました」と心の底から安堵した表情に。ポールポジション獲得までの心境を、中嶋はこのように語った。

「冬の間からクルマの調子が非常によくて、昨年よりもレベルアップした状態でシーズンに臨めるだろうなと思っていました。でも、金曜日から妙にタイムが速かったので、逆にそれが少し重荷になっていました。

 予選までにライバルたちも絶対に(マシンバランスを)合わせてくるだろうなと思っていましたが、クルマが贅沢なくらい速かったので、チームには感謝しています。Q2でも国本選手のタイムが非常に速かったですが、自分としては満足のいくアタックができました。満足していますが、ホッとしているほうが大きいですね」

 近年のスーパーフォーミュラは、レース中の追い抜きが非常に難しい。その分、スターティンググリッドが重要となり、それを決める予選はレースを勝利するうえで重要なパートとなっている。勝つために欠かせないひとつ目のミッションをこなすことができたことが、「ホッとした」というコメントにつながったのだろう。

 そして迎えた23日の決勝レース。スタートではいつも抜群のダッシュで1コーナーまでに順位を必ず上げている中嶋だったが、今回はうまくダッシュできなかった。しかし、うまくリカバーしてトップのまま1コーナーへ。レースをリードしていく展開となる。

 2番手で追ってくるのは、鈴鹿のコースを得意とする山本尚貴(TEAM無限)。チャンピオン経験者同士の、ひとつのミスも許されないハイレベルなマッチレースとなった。だが、中嶋はそんな状況でも集中力を切らすことなく、1周あたり0.1〜0.2秒ずつ山本を引き離し、最後まで誰にもトップを譲ることがないままチェッカーフラッグ。見事、1年半ぶりの優勝を手にした。

 レース後の記者会見でも、中嶋は予選後と同じような心境を口にした。

「ホッとしたというのが、正直な感想です。昨年も勝てるチャンスがあったのですが、自分のミスで逃していたので、久しぶりの優勝になりました。『最後まで本当に勝てるのかな?』みたいな気持ちもありましたが、クルマの調子がよかったので、贅沢な悩みではありましたが、逆にそれがプレッシャーにもなっていたので……。

 でも、いいペースで走れましたし、内容としても100点のレースができました。GTの開幕戦・岡山では(チームに)ご迷惑をかけてしまったので、今日の優勝で少しは貢献できたかなと思います」

 中嶋が所属するTEAM TOM’Sは、昨年、スーパーフォーミュラだけでなく、スーパーGTでも未勝利でシーズンを終えた。それだけに、昨年のスーパーフォーミュラ第5戦・岡山での失敗や、先々週のスーパーGTでのミスに、少なからず責任を感じていたに違いない。だからこそ、「勝たなければいけない」という重圧と、この週末はずっと戦っていたのだろう。

 普段は何に対してもクールに振舞う中嶋が、この週末にはさまざまな表情を見せた。そして最後は安堵と歓喜の笑顔に満ちていたのが、なにより印象的だった。

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