by Chuck Olsen

トリップを起こさない程度のごく少量のLSDを定期的に摂取することでクリエイティビティを向上させる「LSDのマイクロドーズ」がアメリカで注目されており、LSDは法律で認められていないものの、多くの人が自分の身で実験してうつ症状の改善・認知能力の向上などを経験しています。LSDのマイクロドーズを経験した人の声や、近年の研究の動向について、ニュースメディアのThe Vergeがつづっています。

LSD microdoses make people feel sharper, and scientists want to know how - The Verge

http://www.theverge.com/2017/4/24/15403644/microdosing-lsd-acid-productivity-benefits-brain-studies

「4日に1度、10マイクログラムのLSDを摂取する」という治療法は心理学者のジェームズ・ファディマン氏が提唱したもので、2016年にアイェレット・ウォルドマン氏が「A Really Good Day」という本を出版したことで有名になりました。

Amazon.co.jp: A Really Good Day: How Microdosing Made a Mega Difference in My Mood, My Marriage, and My Life: Ayelet Waldman: 洋書



その後、「LSDをマイクロドーズする方法」というガイドが登場したり、記事作成時点では削除されていますが、Reddit上に7500人ものメンバーを抱えるフォーラムが現れたりと、LSDマイクロドーズの注目度は高くなっています。

LSDなどの薬物を使用した研究は法律で規制されているところが多く、なかなか研究が進まないのが実情です。しかし、何人かのボランティアがLSDのマイクロドーズ体験について語っており、彼らによると、LSDの量が少なすぎると何も起こらないのですが、多すぎても変性意識状態ではあるもののマイクロドーズ体験とは異なる状態になってしまうとのこと。

例えば、64歳の心理療法士であるメイさんも、ファディマン氏が提唱するプロトコルに従ってLSDをマイクロドーズする一人。メイさんは、過去40年にわたってLSDを服用しており、マイクロドーズと呼ばれる容量以上のLSDを摂取したこともある人物。そのメイさんによると、LSDのマイクロドーズは生産性を上げ、精神を安定させる効果があるとのこと。「私にとっては、ただ明瞭さを与えてくれるものです。深く質のよい眠りをへて目覚め、物事がくっきりして見え集中できるような感じです」とメイさんは語りました。



by Vladimer Shioshvili

ファディマン氏は2017年4月21日に、418人の「ボランティア」を対象としたマイクロドーズの調査結果を発表しました。なぜこの調査の対象者が「被験者」ではなく「ボランティア」と表現されているのかというと、ファディマン氏の行った調査が一般的な研究・調査方法ではなかったため。ボランティアはオンライン上で、数カ月にわたってLSDのマイクロドーズを行うための「セルフスタディ・プロトコル」と説明書を受け取りますが、使用するLSDは「各自で調達すること」とされました。この時、ウェブサイトの注意書きには「どこで、どうやって物質を手に入れるかを我々に尋ねないでください」と書かれていたそうです。

今回の調査では、マイクロドーズする薬物の中にはシロシビンやイボガインも含まれていました。LSDの場合、ファディマン氏は「10マイクログラムから始めること」を推奨していましたが、ボランティアの中には8〜15マイクログラムを定期的に摂取した人も。そしてLSD摂取によって気分・生産性・エネルギーなどがどのような状態になったのかをレポートで提出してもらったとのこと。2017年2月の時点で、レポートは1000人以上から提出されました。

レポートには、「うつ病に苦しんでいたが、会社を代表するプロジェクトを成し遂げる自信をつけることができた」と語る男性や、「機械の一面ではなく複数の面を同時に見て作業できるようになった」と語るエンジニアの男性がいたり、シンプルに「いいバージョンの自分になれた」とだけ報告してくる人も。また、長い年月の間、月経不順に悩んでいた女性が、1カ月のLSDマイクロドーズによって、月経不順が治ったという報告も届いているとのこと。ファディマン氏によると、月経の状態が改善されたという報告は12件届いているそうです。

LSDは1960年代に広がりを見せ、その後、法律によって規制されるようになりましたが、実際のところ「LSDによるオーバードーズで死亡することはほとんどない」と言われています。LSDと死が関連するのは、LSDの幻覚作用によって別の事故に巻き込まれたり、LSD以外の薬物も服用していたり、自殺のために大量のLSDを服用したりという事柄が関係しているとのこと。Erowidによると、休養や治療のために500マイクログラム以下のLSDを服用するのであれば人が死ぬことはなく、マイクロドーズではその50分の1の量を服用するため、死の危険はないわけです。



by new 1lluminati

LSDの服用による感受性の高まりは、ほかのどの薬物とも比べものにならないとのこと。しかし、マイクロドーズの場合は、服用量が「ごく少量」であることがポイント。認知能力が増し、よりクリエイティブになれるものの、いわゆる「トリップ」した状態ではないので車の運転さえできる、と幻覚作用を研究する非営利団体「MAPS」のRick Doblin氏は語ります。

とは言っても、記事作成時点ではマイクロドーズの研究はほぼゼロに等しく、その効果はまだ未知数です。一方で、スペインにあるポンペウ・ファブラ大学の神経科学研究所は、マイクロドーズよりも多い量のLSDを服用した時の効果について研究しており、近いうちに論文が発表される見込みです。研究者らは、2016年にインペリアル・カレッジ・ロンドンでfMRI撮影したLSDを服用した12人の神経画像からデータを集めて分析。計算論的神経科学者のSelen Atasoy氏らはより多くの情報を分析することで、LSD服用によって、通常時の脳とどのような違いが出るのかを調査しています。

なお、2016年にインペリアル・カレッジ・ロンドンが行った研究については以下の記事から確認できます。

「LSDが人の脳へ与える影響」が世界で初めて脳スキャンで判明 - GIGAZINE



このほか、スイス・チューリッヒ大学もLSDを用いた研究で、音楽が脳にどのような影響を与えているかを調査しています。

脳が音楽から「意味」を感じ取っている様子がLSDを使った検証で明らかに - GIGAZINE



そして、ごく少量のLSDを用いたマイクロドーズの研究については、2017年末から「The Beckley/Imperial Research Programme」としてベックリー財団が開始する予定。このプログラムでは、さまざまな量のLSDを20人の被験者が摂取し、その後、ゲームを行いながらfMRIで脳をスキャンして血流の量などがモニタリングされるとのこと。

近年行われている研究の最終目標はLSDを病気の治療で用いることであり、マイクロドーズの研究が進むことで、早かれ遅かれこの目標は実現されると、アメリカの非営利団体「Drug Policy Alliance」のEthan Nadelmann氏は見ています。LSDは合成されて作られるため、植物を原料とする薬物よりも正確な服用量を測れるのもよいところで、現在、多くの研究者らがマイクロドーズに必要なLSDの服用量および安全な服用量について調査を行っています。そして研究が進むにつれて、人々のLSDに対する見方も変化するだろうとNadelmann氏は語りました。

ただし、LSDのマイクロドーズを1カ月行ったメイさんは、その後、マイクロドーズをやめています。これは「勢いを得ることが微妙に難しくなったため」とのことで、マイクロドーズはメイさんが「毎日経験したい」というものではなかったそうですが、一方で「ADDやADHDの人には価値があるのでは」とメイさんは見ています。



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そして、マイクロドーズの効果は日々瞑想を訓練することでも得られるとのことで、しかも瞑想で得た時の方が効果が安定しているとも語られています。同様にマイクロドーズを経験したPelgerさんも効果について、「LSDよりも難しいが、ヨガでも得られる」としています。この点について、ニュースメディアのThe Vergeは「LSDは他の処方薬と同じく、効果がある人、効果がない人がいて、おそらくは一時的な治療として処方されるのがベストだろう。そして他の薬と同じく、一切使うべきでない人も存在する」とつづりました。実際にファディマン氏も、ごく少量であってもLSDによって不安になる人がいることを確認しており、そのような人には服用を推奨していないとのことです。