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東芝メモリの第2入札を目指す4陣営

 5月中旬に実施される東芝メモリの2次入札を巡って、応札しようとする企業やファンドなどの動きがあわただしくなっている。何がどうなっているのか、もつれにもつれていて、実態を把握するのが正直言って困難なほどである。

 筆者が認識している限りでは、下の表のように4つの陣営が形成されつつあると思われる(表1)。

 第1陣営は、東芝メモリとNANDフラッシュを共同開発し、製造している米ウエスタンデジタル(WD)を中心としたグループである。WDの問題は独占禁止法に触れることと資金不足の2点である。そこで、WDは、投資資金が豊富な米ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)と連携しようとしている。さらに、KKRは、日本の官民ファンドの産業革新機構と共同応札を行う動きを見せている。その革新機構に、日本政策投資銀行と、経済産業省が主導して結成しようとしている日本企業連合が加わろうとしている。

 第2陣営は、東芝と新メモリMRAMの共同開発を行っている韓国SKハイニックス(SK Hynix)のグループである。SKハイニックスの問題はWDと同じで、独禁法に触れることと資金不足にある。SKハイニックスは、いっとき政策銀や革新機構との連携を模索していたが、それは断念し、現在は米投資ファンドのベインキャピタルと連携しようとしている。

東芝メモリの2次入札を検討している4陣営


(* 配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで本記事の図表をご覧いただけます。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49828)

 第3陣営は、1次応札で3兆円の高値をつけた辣腕の郭台銘会長率いるホンハイ(鴻海)のグループである。ホンハイの問題点は、日本政府が持ち出した外為法に違反することである。ホンハイは、この問題を解決すべく、シャープと連携し、米アップルに協力を要請、さらにソフトバンクにも支援を求めている。そして、トランプ大統領に好印象を与える目的のためか、米国にNAND工場を建設する意向をちらつかせている。

 第4陣営は、通信半導体の設計を主力事業とするファブレスの米ブロードコムのグループである。ブロードコムには、東芝メモリ買収の障害は特にないが、その目的が不明である。というのは、通信用半導体とNANDの関係がほとんど見当たらないからである。ブロードコムには、米投資ファンドのシルバーレイク・パートナーズが連携する。

 この4陣営による東芝メモリの買収を、よりややこしくしているのが、4月9日に突如、WDが東芝とのNAND事業の合弁契約を盾に、「東芝メモリの分社化は違法」であり、そして「他社への売却は認めない」と言い出したことである。

 東芝メモリの分社化と売却は、1月中旬あたりから既定路線になっており、3月29日には、1次入札が行われ、4月1には東芝メモリ株式会社が設立された。にもかかわらず、この期に及んで、なぜ今さら「分社化は違法」だの「売却は認めない」などと言いだしたのか? 本稿では、WDの意図がどこにあるのか分析を試みる。

事態を混乱させているWDの行動

 WDは、HDDの売上高1位の企業である。ところが、HDDがSSD(Solid State Drive:ソリッドステートドライブ )に駆逐され始めたことに危機感を持ち、SSDの基幹部品であるNANDを製造していた米サンディスクを2016年に約190億ドルで買収した。

 WD傘下になったサンディスクは、2000年から東芝とNANDを共同で開発し、製造してきたメモリメーカーである。サンディスクと東芝は、設備投資を折半し、開発や製造の技術者もほぼ同数在籍させて、共存共栄の関係を築いてきた。それゆえ、WD(サンディスク)と東芝が「もはや離婚できない関係」であるということは理解できる。

 しかしそれならば、東芝メモリが分社化し、売却されることが避けられない事態となった1月中旬に、それは違反であり認められないということを通告すべきであろう。それなのに、3月29日に1次入札が行われ、4月1日に東芝メモリが設立されるまで、何も言わなかったというのは理解しがたい態度である。いたずらに事態を混乱させているとしか思えないではないか。

 そして、そのような行動をとった背後には、何らかの策略があると考えざるを得ない。その策略とは、どんなものか?

WDの決定的な弱点

 冒頭で説明したように、WDの問題は、独占禁止法に抵触することと、資金不足であることである。

 2016年第4四半期のNANDの売上高シェアでは、WDは3位(17.7%)、東芝は2位(18.3%)で、合計すると36.0%となり、1位のサムスン電子(37.1%)とほぼ並ぶ。したがって、WDが東芝メモリを買収する場合は、各国司法省の審査を受ける必要がある。すると、例えば韓国あたりが「No」を突きつけるかもしれない。

 そして、これよりも深刻なのが、資金不足の問題である。何しろ、2016年に約190億ドルでサンディスクを買収して、キャッシュをあらかた使い果たしてしまったからだ。

 WDが東芝の取締役に送った意見書によれば、「2〜3兆円の入札額は公正で支持可能な価格を大きく超えている」と主張している。それに加えて、東芝が「最低2兆円」とした事業価値も、「高い人件費や継続投資の必要性などを考えると公正な価格を大きく上回る」と言っている(日経新聞4月21日)。

 この主張はまったく理解し難い。というのは、WD自身が、2016年に約190億円出してサンディスクを買収しているのである。サンディスクと東芝は、設備を折半し、人員もほぼ同数いる。それなのに、サンディスクには約190億ドル(約2兆円)を出したにもかかわらず、東芝メモリの2兆円は公正でないというのである。これは明らかに矛盾している。

 その上、昨年来、本格的なビッグデータ時代を迎え、記憶装置にはHDDではなくSSDを使うオールフラッシストレージが予想を上回る速度で普及し始め、SSDの基幹部品であるNANDの需要が途轍もない勢いで急拡大している。このようなことを考えると、東芝メモリの買収価格は、1年前のサンディスクのそれよりも高くなければならないはずだ。

 それなのに、「東芝メモリの2兆円は高すぎる」と主張するWDは、よほどカネがないのだろうと思わざるを得ない。だが、WDはどうしても東芝メモリを他社に取られたくない。そこで、ある策略を思いついたのではないか。

WDと米政府の策略

 カネがないWDが頼ることができるのは、米政府しかない。そこで、WDは米政府に、「このままだと高値で応札する中国や台湾に、NANDの技術が漏洩してしまいます。NANDはSSDの基幹部品であり、そのSSDが(政府などにも導入される)サーバーに使われるため、安全保障上の問題が生じます」というように屁理屈をでっちあげ、「何とかしてくれ」と泣きついたのだろう。

 米政府は日本政府に貸しが1つある。それは、東芝が米原子力会社のウエスチングハウス(WH)について、米連邦破産法11条(日本の民事再生法)を申請したことである。ところが、米国はWHが建設中の4基の原発に83億ドルの債務保証を付けていたのだ。このことは3月9日に発覚した。つまり、東芝はWHを倒産させることにしたが、その尻拭いは米国がやることになったわけである。日本政府は、米政府に借りを作ってしまったのだ。

 そして、3月17日に世耕経産相が渡米して、米商務省長官およびエネルギー省長官と会談した直後から、事態は急変する。

 同日、東芝メモリの買収に当初は否定的だった産業革新機構が政策銀とともに急遽浮上してくる。これは、米政府に圧力をかけられた日本政府の指示により、買収を検討することになったと思われる。

 3月24日には、日本政府が、外為法を持ち出してきた。これは、高値で応札することが予想される中国と台湾を排除するために、日本政府が考え出した奇策であろう(愚策とも言う)。

 4月1日に東芝メモリが設立されると、台湾マクロニクスが「東芝メモリのNANDが特許侵害をしている」と訴えてきた。これは明らかに不自然である。というのは、東芝メモリとWDは、共同でNANDを開発し、製造しており、そのNANDの構造はまったく同じであり、製造プロセスも同一のものだからだ。それなのに、マクロニクスはWDを訴えずに、東芝メモリだけを訴えたのだ。これは明らかに、「東芝メモリのNAND技術には問題がありますよ」と言うことを喧伝し、それによって東芝メモリの買収額の引き下げを狙ったものと思われる。

 なお、マクロニクスは台湾企業であるが、経営陣には米スタンフォード大学、米コロンビア大学、米カリフォルニア大学バークレー校、米ミシガン大学などの出身者がずらりと並び、米国との繋がりが極めて深い。つまり、東芝メモリへの特許訴訟は、米政府からの要請で行った可能性が高い。

 そして、このように外堀が埋まった段階で、4月9日にWDが契約を盾にして「他社への売却を認めない」と言い出したわけだ。

 結局、3月17日に行われた世耕弘成経産相と米商務省長官およびエネルギー省長官との会談で、米政府に弱みを握られている日本が圧力をかけられ、WDが東芝メモリを買収しやすいように、便宜をはかったと推測される。

政府も革新機構も大嘘つきだ

 元々、経済産業省も産業革新機構も、東芝を支援する動きはまったく見せていなかった。

 1月20日に、米WHの損失額が最大7000億円となる可能性が大きくなり、2017年3月期に東芝が債務超過に陥ることは避けられない事態になったが、世耕経産相は、閣議後の会見で「経産省として支援策など対応を検討していない」と述べた(ロイター)。

 3月8日に、世耕経産相は衆院経済産業委員会で、民進党の近藤洋介衆院議員に、東芝に対する産業革新機構の関与を問われ、「一般論だが革新機構は『企業救済機構』ではない」と述べて否定的な考えを示した(日経新聞)。

 3月13日に、革新機構の志賀会長が東洋経済のインタビューで、「産業革新機構は産業競争力強化法という法律に基づき設置されており、成長事業にしか投資できない」「少なくとも私が会長兼CEOをやっている限りは、そんな都合のいいお財布にはならない」と東芝メモリの買収を完全否定した(東洋経済)。

 3月14日に、菅義偉官房長官は、東芝の経営再建について「支援策を政府として検討している事実はない」と語った(日経新聞)。

 ところが、3月17日に世耕経産相が渡米して米商務省長官およびエネルギー省長官と会談した直後、革新機構が東芝メモリの買収に急浮上し、日本政府が外為法違反で中国と台湾の買収は認めないと発表し、米国とつながりの深いマクロニクスが東芝メモリだけを特許侵害で訴え、そして満を持したようにWDが契約を盾に「他社への売却は認めない」と言い出したわけだ。

 世耕経産相も、革新機構の志賀会長も、菅官房長官も、大嘘つきである。

頑張れ!ホンハイ

 米政府の圧力に屈した日本政府の便宜により、WD陣営が東芝メモリを買収した場合、どんなことになるのか? もう一度、表1をよく見てほしい。東芝メモリのボードメンバーには、WD、KKR、革新機構、政策銀、経産省が掻き集めた日本企業連合のお歴々が鎮座するわけだ。

 3月28日の本コラム(「東芝メモリ買収、政策銀や革新機構は出てくるな!」)で述べたことをもう一度繰り返す。「メモリビジネスで最も重要なことは、巨額な設備投資を、いつ、どこで行うか、という果断な決断をすることにかかっている。つまり、メモリビジネスとは、一種のバクチなのだ」。

 そのバクチ的メモリビジネスを、上記の烏合の衆の合議によって行うわけだ。これほど悲惨なことがあるだろうか? 目の前が真っ暗になる。頼むからやめてくれ。ホンハイの郭台銘会長殿、何とか頑張って東芝メモリを買ってくれ!

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筆者:湯之上 隆