北朝鮮情勢が緊迫の度合いを増してきた。次の大きな曲がり角は新たな核実験だろう。金正恩・労働党委員長はICBM(大陸間弾道ミサイル)への装備を目指して核弾頭の小型化、軽量化の実験を繰り返してきた。

 2016年の1月と9月に続く次の核実験はいつなのか。もし北朝鮮が新たな実験に踏み切った場合、米国のトランプ政権はどう対応するのか。国連を主体とする国際社会はどう動くのか。

 北朝鮮は2006年10月以来、2016年9月までの間に合計5回にわたり核兵器開発のための核爆発実験を断行してきた。特に金正恩政権となってからは、2013年2月と2016年の2回を合わせて計3回核の実験を実施しており、開発が加速している。

 米国は1990年代から一貫して北朝鮮の核武装を阻止しようとしてきた。その米国にとって現在の最大の懸念の対象は次の6回目の実験である。

 特にトランプ政権はオバマ前政権の「戦略的忍耐」策を完全に排除し、北朝鮮の核武装を阻むために軍事的攻撃を含めたあらゆる選択肢を備えていると明言してきた。そのため、北朝鮮が6回目の核実験を断行すれば、朝鮮半島情勢は武力衝突の可能性を含む重大な危機に突入することも予測される。

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軍事的手段以外の北朝鮮への制裁

 こうした背景を踏まえて、米国の2人の専門家が、北朝鮮の次の核実験が実行された場合、米国をはじめ国際社会がどう対応するかについて具体的な予測を明らかにした。

 その専門家とは、ワシントンの大手研究機関の戦略国際問題研究所(CSIS)の朝鮮研究部長ビクター・チャ氏と、同部研究員のリサ・コリンズ氏である。チャ氏はブッシュ元政権の国家安全保障会議のアジア部長などを歴任した朝鮮問題の専門家だ。コリンズ氏も米韓両国の研究機関などで朝鮮情勢を専門に研究してきた学者である。2人は「もし北朝鮮が6回目の核実験を実行したらどうなるか」と題する小論文の形で予測を発表した。

 同論文によると、北朝鮮が新たな核実験を実行した場合、米国と国際社会は北朝鮮に対して、軍事的な対応以外に様々な制裁を強化することを余儀なくされるという。2人は同論文で、さらに強化されるであろう制裁を列記している。それらの概要は以下の通りである。

[特定分野の制裁強化]

 北朝鮮への石油(原油)の供給停止と、北朝鮮との石炭の輸出入の完全な中断。現行の国連の制裁では、北朝鮮との石炭取り引きについて年間の輸出入量の上限を設けて制限している。

[運送・海運への制裁]

 北朝鮮の国営航空である高麗航空に対して、全世界の空港での発着を禁止する。高麗航空の旅客機は長年にわたり、現金、贅沢品、北朝鮮当局の違法活動の関連物資などの輸送に利用されてきた。

[海上検査制度の新設]

 北朝鮮の船舶を、各国の港湾だけでなく公海上で停止させ、船内を捜索できるような制度を国際的に設ける。

[特定産品の貿易への制裁]

 北朝鮮政権が外貨獲得のために輸出している朝鮮人参などの農産物や海産物を、国連加盟国の間で全面的に輸入禁止とする。

[奴隷労働の利用禁止]

 北朝鮮政権は外貨獲得のために北朝鮮国民を海外で強制的に労働させている。そうした労働力の利用を、国連加盟国の間で全面的に禁止する。

[金融制裁、特に2次的制裁の実施強化]

 北朝鮮が第三国で行っている、核兵器開発計画を支えるための資金洗浄、再輸出あるいは違法活動に対し、米国が単独で制裁を課す。北朝鮮の違法活動を支える中国の国民や銀行を米国の司法省と財務省がリストアップし、罰金や訴追の対象とする。

[テロ国家に再指定]

 米国政府が、朝鮮民主主義人民共和国を「テロを実施する国家」として再指定する。

[北朝鮮の外交資格を停止]

 北朝鮮の国連加盟国としての外交資格を停止する制度を設ける。

[外交公館の違法活動への懲罰強化]

 東南アジアと欧州の諸国に、自国内にある北朝鮮の外交公館による違法活動への取り締まりや懲罰を強化することを促す。

大きな役割を果たす中国

 以上が、チャ氏らが提示する北朝鮮への制裁の数々である。軍事攻撃以外にも、北朝鮮の核兵器や長距離弾道ミサイルの開発を防ぐ方法はまだあるということだ。

 具体的な個別の制裁措置としては、なんといっても北朝鮮への石油供給停止が最大の効果を発揮すると言えよう。北朝鮮への石油の供給は、中国がほぼ独占的な立場にある。ここでも中国が果たす役割の大きさが改めて認識される。

筆者:古森 義久