新専門医制度をめぐる議論が迷走している。この議論をリードしている日本専門医機構が、一部の大学教授たちの利権と化し、地域医療を崩壊させる可能性が高いことを、私は繰り返し主張してきた(参照1、2)。

 最近になって、医療界以外にも、この問題の深刻さを認識する人が増えてきた。

 例えば、4月14日、松浦正人・全国市長会会長代理(山口県防府市長)は「国民不在の新専門医制度を危惧し、拙速に進めることに反対する緊急要望」を塩崎恭久厚労大臣に提出している。

 朝日新聞は4月13日の「私の視点」で、南相馬市立総合病院の後期研修医である山本佳奈医師の「専門医の育て方 地域医療に研修の場を」という文章を掲載した。

[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]

不足している産科医の育成を医局が妨害

 山本医師は関西出身。大学卒業後、南相馬市立総合病院で初期研修を行い、今春からは同院で産科を研修することを希望した。しかしながら、福島医大の産科医局出身の男性医師やその仲間が、新専門医制度などを理由に拒み続けた。

 南相馬市長も「福島医大と対立したくない」と言って、彼女を雇用しようとしなかった。最終的に、彼女は産科医を諦め、神経内科医として南相馬市に残った。

 南相馬の産科医不足は深刻だ。ところが、新専門医制度は、医局が部外者を排除する参入障壁として機能した。医局に任せると、こういう結果になる。これでは、何のための専門医制度か分からない。

 日本専門医機構(以下、機構)は、いったん白紙に戻し、ゼロから議論すべきだ。ところが、そう簡単にことは動きそうにない。

 最近、知人から、気になるコメントを聞いた。高久史麿・日本医学会会長が、2016年6月18日に公開されたエムスリーのインタビューで「立ち止まっていたら、きりがなく、財政的にももたなくなる」と語っていたというのだ。

 私は機構の財務資料を探し、友人の税理士である上田和朗氏に分析してもらった。その結果は衝撃的だった。

 平成28年3月末日現在、機構の総資産は3722万円で、総負債は1億498万円。つまり、6776万円の債務超過だ。

 機構は運転資金を得るため、日本政策金融公庫から短期で5000万円、長期で3000万円を借り入れていた。

 なぜ、こんなことになるのだろう。まだ事業が始まる前だ。機構の事業は、そんなに初期投資を要するものではない。

オフィス賃料が大手町の6倍!

 支出を見て驚いた。交通費3699万円。賃料1555万円、会議費463万円もかかっていたのだ。

 ホームページに掲載された機構の理事会の議事録を見ると、参加者の多くは東京在住だ。普通にやっていれば、こんなに交通費がかかるはずがない。

 交通費については、事業開始初年度の平成26年度にも1829万円を使っている。この年度の交通費の当初予算は1万円だった。いったい機構のガバナンスはどうなっているのだろうか。

 賃料も桁違いだ。毎月120万円も支払っている。

 私は事務所の場所を調べた。なんと有楽町駅前の東京フォーラムにあった。超一等地で、ホームページで調べると、賃料は1坪あたり12万6421円となっていた。

 オフィスビルの平均賃料は、1坪あたり丸の内・大手町で2万1500円、浜松町・高輪で1万2864円だ。機構が東京フォーラムではなく、浜松町にオフィスを借りていたら、毎月100万円程度節約できたはずだ。

 一方で、収入に関しては、当初1億2500万円の認定料を受け取る予定だったが、実際に受け取ったのは1688万円だった。入会金も70万円の予定が5万円だった。最大の収入は4600万円の補助金だ。

 収入がないのに、贅沢三昧をやっていれば、お金がいくららあっても足りない。機構は、どう考えていたのだろう。

 平成27年の臨時理事会議事録によれば、「施設認定料10万円(一施設)、専門医認定更新料(従来の学会専門医にさらに上乗せ徴収)、1人1万円で、5年後に黒字化する」と書かれている。

 つまり、新専門医制度を始めれば、認定料で安定した収入が見込め、その収入をあてにして、最初から浪費していたようだ。

専門医研修義務化なければ破綻へ

 彼らが、専門医研修の義務化にこだわったのも、高久先生が「財政的にもたない」と発言したのも宜なるかなだ。このまま新専門医制度が始まらなければ、機構は破綻するしかない。背に腹は代えられない状況に陥っているようだ。

 高久先生は、昨年6月の段階で問題を認識していたのだろう。だから、前出の発言に繋がった。税理士の上田氏は「(2009年に事件化した)漢字能力検定協会の事件を思い出しました」と言う。

 私は高久先生の意見と反対だ。機構の幹部の尻ぬぐいをするため、その乱脈経営をうやむやにして、若手医師や地方の医療機関にツケを回すべきではない。将来の我が国の医療が犠牲になる。

 専門医制度が予定通り進んでいないのは、機構が準備している制度が悪いからだ。「とにかく新専門制度をやることに決めたのだから、やるしかない」という理屈は通じない。

 まずやるべきは、機構の責任者が、これまでの経緯を説明して、責任をとるべきだ。その過程で機構が破綻しても仕方ない。自己責任である。

 それとは別に、専門医育成はいかにあるべきか、広くオープンに議論すべきだ。

筆者:上 昌広