いつまでも健康でいられるための秘訣とは?(写真はイメージ)


 医療の発達が目覚ましい。「人生120歳」と言われる日も、決してそう遠い将来ではなさそうだ。だが、同じ年代の高齢者でもいつも溌剌として元気そうな人と、そうでない人がいる。その違いは一体何なのか。

 この3月に『あなたの健康寿命はもっとのばせる!』(日本文芸社)を上梓した慶應義塾大学大学院の渡辺光博教授に、“老いのメカニズム”の秘密について聞いてみた。

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何事もプラス思考で考える

『』(渡辺光博著、日本文芸社)


──年をとっても健康でいられるためには何が必要でしょうか。

渡辺光博氏(以下、敬称略) まず、充実した老後を過ごし最期まで元気に過ごすために必要なのが「ポジティブシンキング」です。自分の健康を幸せと感じ、積極的な生活を送るポジティブな人は、健康で長生きしやすいと考えられています。実際に何か目的を持っていたり、いろいろなことに興味を持ちながら日々を生きている人は老けにくいようです。

 慶應義塾大学の坪田一男教授は、「ごきげんな人は10年長生きできる」として、明るく「ごきげんに生きる」ことを提唱しています。世界的にも“気分の持ちよう”と健康の関係についてさまざまな研究が行われています。

 会社に勤めている現役の人でも、通勤に1時間半かかる場合、嫌だなと思うか、それとも本を読めてラッキーだなと思って生きるのかでは、ぜんぜん生活の充実度が違いますよね。何事もプラス思考で考えることが、いつまでも若くいられる要因の1つだということです。

食事はお腹が減っている状態で

──老けやすい人と老けにくい人がいるのは、精神面の影響が大きいのですね。身体的にはどのような要因が影響していますか。

渡辺 まず、遺伝的な要因があります。加えて睡眠や食事、運動といった生活習慣ですね。不規則な生活や運動不足などの悪習慣が老化を早めることは間違いのない事実とされています。

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授
ヘルスサイエンス・ラボ代表
博士 渡辺光博氏


──どんな生活習慣が望ましいのでしょうか。

渡辺 食事は腹八分目を心掛けることです。お腹が減っていないのに食べるのは避けたほうがいい。お腹がペコペコの状態で食事ができるようにするのが望ましいですね。1日だけ、もしくは週末だけの「プチ断食」をしてみるのも有効です。

──空腹の状態をつくることがなぜ大切なのですか。

渡辺 細胞内のメカニズムを説明しましょう。栄養が入ってこないと体は脂肪を燃やします。実はそのとき、同時に筋肉も溶かしています。筋肉のタンパクを分解してアミノ酸に戻し、血中に放出し、肝臓でアミノ酸から糖を作り、最後にブドウ糖を脳に送ります。生物は脳が最も重要なので、筋肉を捨ててでも脳を守るというわけです。

 筋肉を溶かすときにまず壊されるのが「ミトコンドリア」です。ミトコンドリアとは細胞内の非常に小さな器官ですが、エネルギー工場の役割を果たしています。

 私たちが摂取した糖質や脂質などの栄養素は「ATP」(アデノシン三リン酸)という物質に変換され、体内でエネルギーとして利用されます。この「代謝」が行われる場となるのがミトコンドリアです。一定期間働いたミトコンドリアは劣化します。ミトコンドリアが劣化すると効率よく代謝を行うことができず、酸化物質が産生されてしまい体に悪影響を及ぼし、疲労回復が遅れてしまいます。代謝を活発に行うためには、ミトコンドリアが元気な状態であることが必要です。

ミトコンドリアは体内エネルギーの生産工場(『あなたの健康寿命はもっとのばせる!』より、以下同)


 空腹になると劣化したミトコンドリアが壊され、アミノ酸に代えられます。その後食事を摂ることで、新しいピカピカのミトコンドリアがつくられます。ミトコンドリアが活性化して新しいものに換わっている人のほうが若々しくいられるのです。

──ミトコンドリアをいい状態で活性化させれば、健康寿命(健康な状態で日常生活を送ることができる期間)の延長につながるのですか。

渡辺 そのとおりです。「実年齢よりも若く見える」「いつも元気で疲れにくい」ような人は、ミトコンドリアが活発に働いているとみられています。

──運動もミトコンドリアの活性化につながりますか。

渡辺 老化を遅らせ、からだを若返らせるために運動は欠かせません。運動をして、体にもっとエネルギーが必要だというメッセージを送れば、ミトコンドリアがそれに応えてくれます。実際に、1日2時間の運動を1週間続けるだけで、ミトコンドリアの量が30%近く増えたという実験結果があります。

 ただし、ふだん運動していない人が急に激しい運動をするのは逆効果です。ずっと乗らないで放置している自動車で急に高速道路を走り、スピードを出したら壊れてしまいますよね。まずはウォーキングなどの軽い運動から始めて、徐々に体を慣らしていくのがいいと思います。

アンチエイジングのカギを握る「ALA」

──ミトコンドリアの活性化のために、ほかに有効なことはありますか。

渡辺 アンチエイジングの最新研究でいま最も注目されているものに、「ALA」(5-アミノレブリン酸)という物質があります。ALAとは人体のほぼすべての細胞に存在する天然のアミノ酸で、ミトコンドリアの働きを活性化させる成分です。生活習慣病や癌にも効果があることが期待されています。

 ALAが不足するとミトコンドリアが十分なエネルギーを作ることができません。一方、ALAの量が多いほどたくさんの糖と脂肪を燃焼してエネルギーに変換していくことが明らかになっています。高脂肪食を食べさせて「老化」状態にしたマウスにALAを投与すると、老化に伴う病態が抑制されるという実験データもあります。

アンチエイジングのカギはALAを増やすこと(『あなたの健康寿命はもっとのばせる!』より)


──ALAは体内でつくられるのですか。

渡辺 はい。ただし、ALAの産生量は年齢とともに加齢やストレスでどんどん減少していきます。そのため、元気なからだを維持するには、体内のALAをできるだけ増やすよう心掛けることが大切です。

──ALAの量を減らさないために心がけるべきことは何でしょうか?

渡辺 食事に気をつけ、サプリメントなどで補うことも考えられます。

──どのような食事がいいのですか。

渡辺 納豆や黒酢などの発酵食品や、ホウレンソウなどの緑黄色野菜を食べるのが有効です。納豆は比較的含有量が多い方で、100グラムあたり20マイクログラムのALAを摂取できます。また、鉄(Fe)と一緒に摂ると、効率良くALAが働くことも分かっています。

──いつまでも元気でいるためには、ポジティブな気持ちを忘れず、最適な食事と運動を心掛けることが大切なのですね。本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。