「Thinkstock」より

写真拡大

「日本企業には優れた技術があるが、マーケティングのノウハウがないために海外企業に負けてしまう」という解説がよく聞かれ、書店にはマーケティングに関する書籍があふれている。

 本連載ではここまでマーケティングにおける「4Ps」や「製品ライフサイクル」などについて説明してきたが、今回は製品価格に関する「プライシング」について立教大学経営学部教授の有馬賢治氏に解説してもらった。

●安く見せたい「端数価格」と上等に見せたい「威光価格」

――製品と価格の関係の基本はなんでしょうか。

有馬賢治氏(以下、有馬) 売り手は買い手に対して製品やサービスを提供し、買い手は売り手に対価を支払います。このような「金銭による対価」を“価格”と呼びます。ちなみに、価格が生じないケースとしては、物々交換ができる無料掲示板の『ジモティー』などが挙げられます。

――企業はどのように価格を決定するのでしょうか。

有馬 企業目線の価格決定においては、大別して2種類のマーケティング目標があります。ひとつはフェラーリやマクラーレンなど価格が何千万円もする高級車のように、製造までに必要とされたコストの回収を主目的とするものです。これらは利益の最大化を目標としていますので、商品の単価は高くなります。一方で、コストの回収よりも市場でのシェアを重視する価格設定もあります。ソフトバンクの料金プランが他のキャリアより先んじて安くするのは、こういった狙いがあるわけです。

――シェアを広げておけば、消費者が次に購入するときも自分の会社を選んでもらいやすくなるという側面があるわけですね。

有馬 そうですね。これらは企業側の事情で決められる価格ですが、その他にも消費者心理を考えた価格設定もあります。98円や9800円といった「端数価格」は、切りのいい価格にするのと比べて会社の利益的にはほとんど変わりませんが、桁を減らすことで安く感じさせる効果があります。反対に、腕時計などは安いとむしろマイナスな印象を持たせてしまう場合があるので、高品質なものをつくっているというアピールも含めてプレステージな価格をつけます。これを「威光価格」といいます。

●価格設定で媚びを売るのではなく、安心させる

――なんでもかんでも安く見せればいいわけではないという点で、価格設定の難しさを感じます。他にも特徴的な価格設定はあるのでしょうか。

有馬 この他には、買いやすさを印象づけてまとめ買いを促せる100円ショップなどに見られる「均一価格」、自動販売機の缶ジュースなどの価格を変えることで消費者の手が伸びにくくなることを避けるために据え置きになりやすい「慣習価格」、マクドナルドのセットメニューやファミレスのランチセットのように単品よりもお得に感じさせる「抱き合わせ価格」、電動歯ブラシのヘッド部分やプリンタの交換インクなど、本体を安くする代わりに交換品で強気な価格設定をする「キャプティブ(捕虜)価格」といったものもあります。

――一口に「価格設定」といっても、さまざまな狙いがあるということがわかりました。

有馬 市場や競争の状況によって価格設定の方針は変化します。現代は、買い手はスマートフォン(スマホ)でいつでも価格比較ができる時代です。だからといって短期的な安売りは、売上が一瞬上がるかもしれませんが、それは長続きするものではありません。消費者から安売りを見透かされると、安くなった時しか買ってもらえなくなるからです。買い手が安いものを求めるのはある程度仕方がありませんが、売り手に安易な安売り姿勢がついてしまうと、企業も自転車操業となりがちです。消費者に媚びを売るかのように価格帯をブレさせるのではなく、顧客がいつでも安心して買うことができる「フェアな価格」設定がマーケティング目標としては理想でしょうね。

――ありがとうございました。
(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=A4studio)