パイオニアが5月下旬に新しい密閉型ヘッドホンのフラグシップモデル「SE-MONITOR5」を発売します。価格はオープンですが、実売10万円前後が想定される高級モデル。パイオニア伝統の“MONITOR”シリーズの名前を冠した本機はどんなヘッドホンなのか。サウンドのファーストインプレッションとともにレポートします。

↑パイオニア“MONITOR”シリーズのDNAを受け継いだ最新の密閉型フラグシップヘッドホン「SE-MONITOR5」

 

日本を代表するオーディオブランドであるパイオニアが、ヘッドホンの第1号モデルである“ステレオミミー”の愛称で親しまれた「SE-1」を発売したのは今から57年前の1960年でした。その後1975年には放送局で働くプロフェッショナルの仕事を支えてきた密閉型のスタジオモニターヘッドホン「MONITOR 10」が登場。これが新製品「SE-MONITOR5」の原型になります。

 

そして1980年には開放型ハウジングのオーディオ用ヘッドホン「MASTER-1G」が発売され、パイオニアの高級ヘッドホンの歴史が始まりました。そして本機の血を継ぐ開放型の現フラグシップモデルが「SE-MASTER1」になります。

↑1960年に最初のヘッドホンSE-1を発売して以来、パイオニアのヘッドホンはオーディオファン、スタジオエンジニアの定番として親しまれてきました

 

パイオニアの現行ハイレゾ対応ヘッドホンにはこのSE-MASTER1と、密閉型の入門機「SE-MHR5」があります。特にSE-MASTER1のサウンドに惚れ込んで、密閉型の高級ヘッドホンを待ち望む声が高まるなか、SE-MONITOR5の開発が立ち上がったといいます。いまはポータブルタイプのハイレゾDAPやスマホとハイレゾ対応のポタアンを組み合わせて、アウトドア環境でも上質な音楽再生が楽しめる時代。アウトドアでパイオニアのリファレンスサウンドを楽しめるヘッドホンが、ついに満を持して登場したというわけです。

↑今後「MASTER」は「開放型」、「MONITOR」は「密閉型」のハイレゾ対応上級モデルのシリーズ名として展開されます

 

ここからは、SE-MONITOR5の特徴を知るうえで大事な3つのポイントを整理しておきましょう。

 

1つめのポイントは、特殊な素材を使った振動板をベースに、新規に開発された50mm口径のドライバーです。オンキヨーが開発した有機物由来のセルロースを原料とする「セルロースナノファイバー」は、これまでオンキヨーのスピーカーに採用された実績はあったものの、ヘッドホンの振動板に使われるのはこれが初めて。軽量で剛性の高い素材なので、強力なマグネットと組み合わせてパワフルなサウンドを引き出せるのが特徴です。振動板と分離されたエッジ部分にはエラストマー樹脂を使ったフリーエッジ構造を用いたことで、5Hz〜85kHzまでの広い帯域に渡って緻密なサウンドを再現。ワイドな音場感も描き出せるドライバーです。

↑特殊なセルロースナノファイバー素材を振動板に使用。エッジはエラストマー樹脂を使い、分離された構造としたことで広帯域に渡ってクリアで緻密なサウンドを再現します

 

本体のハウジングと内側のベース部分には剛性の高いマグネシウム合金が使われています。これが2つめのポイント。不要な共振を抑える効果の高い素材を使うことで、透明感のある中高域、引き締まった低音と深い奥行き描写を可能にします。さらにハウジングの表側には共振を抑えつつ、デザインのワンポイント的な効果も持たせたアルミ素材のリングを配置しています。

↑ベースとハウジングには剛性の高いマグネシウム合金を採用。広々とした音場空間の再現力と引き締まった解像感の高い音を生み出します

 

↑ハウジングの外側にはアルミのリング(カッパーの部分)を貼り付けて共振をさらに抑え込んでいます

 

ボディの材料として、これほどふんだんにマグネシウム合金を使ってしまうと相当重くなるのではと思われるかもしれません。しかし、実際に本体を装着してみると、ソフトで肌触りのよいイヤーパッドとヘッドバンドのクッションが頭と快適にフィットするので、あまりヘッドホンの重さを感じることはありません。長時間のリスニングもあまり負担になることはなさそうです。

 

3つめが密閉型ヘッドホン特有の音の“こもり”と歪みを解消するために練り上げられた本体構造です。ハウジングの内側には独自の「ダブルチャンバー構造」を採用。メインとサブ、2つの空間を設けて、間に音の通り道となるアコースティックポートと呼ばれる小さな穴を配置しています。穴があるからといっても遮音性は犠牲にせず、スピード感あふれる低域のディティールを際立たせるような音づくりを巧みに実現。さらに、ドライバーの背圧を逃がすディフューザーを付けて、密閉タイプのヘッドホンながら開放的なサウンドを再現できるのが本機の特徴です。

↑ハウジング内側は独自の「ダブルチャンバー構造」。アコースティックポートにより空気の流れをコントロールして、スピード感のある音を引き出します

 

さらにSE-MASTER1を開発した際に生まれたノウハウも継承されています。音に悪影響を与える振動を効果的に抑制するため、ドライバーの背面に4つ脚のマグネシウム合金製の固定金具を付けて、同じマグネシウム合金製のベースにしっかりと固定する「フルバスケット方式」がその1つ。さらにハウジングとアームを連結する部分にゴム部品を挟みこんで、緩やかにパーツをつなぎ合わせるフローティング構造により、左右チャンネルの音の干渉を防ぎ、分離感と立体感の高い音を再現できるようチューニングしています。

↑ドライバーの背面に4つ脚のマグネシウム合金製の固定金具を付けて、ベースにしっかりと固定する「フルバスケット方式」を採用

 

↑ハウジングとアームを連結する部分にゴム部品を挟みこみ緩やかにパーツをつなぎ合わせる「フローティング構造」も、SE-MASTER1の開発から得られたノウハウです

 

SE-MONITOR5のサウンドは、オンキヨーのハイレゾスマホ「GRANBEAT DP-CMX1」をリファレンスとして組み合わせながら試聴しました。SE-MONITOR5は、本体に添付される素材が異なる2種類のイヤーパッドをユーザーが簡単に交換できるヘッドホンです。新開発のベロアタイプと、SE-MASTER1と系統の近いレザータイプ(SE-MASTER1は着脱不可)の2種類です。

↑ベロアタイプのイヤーパッド(上写真)とレザータイプのイヤーパッド(下写真)が付属。ユーザー自身で簡単に交換でき、音や装着感の違いが味わえます

 

最初にベロアタイプのイヤーパッドから聴いてみます。中高域のさわやかな抜け味、ボーカルの緻密なニュアンスの再現力はハイクラスな開放型ヘッドホンに近い鳴り方です。ディティールの再現力も高く、低域は量感こそ少し控えめながら、彫りが深くシャープでクールな印象。EDMやJ-POPの音源によく合いそうです。

 

続いてイヤーパッドをレザータイプに交換して聴いてみました。こちらは密閉型ヘッドホンらしい、厚みとインパクト感のある低音がガツンと響いてきます。ロックやジャズのビートの効いた力強いサウンドと好相性でした。中高域との分離感も明瞭で、どちらのイヤーパッドを付けて聴いても音場をとてもワイドに広げられるところがこのヘッドホンが持っている魅力であると感じました。ジャズのピアノトリオはそれぞれの楽器の音色が鮮やかに再現され、音の立ち上がりが鋭く音像も明瞭。とてもスリリングな演奏を聴かせてくれます。なおベロアタイプのイヤーパッドを付けて聴いた場合でも、外への音漏れの心配はなさそうです。聴きたい楽曲、組み合わせるプレーヤー機器に合わせて好みで音を着替えるような使い方が正解だと思います。

 

また、本機はヘッドホンケーブルも着脱交換に対応しています。ヘッドホン側は3.5mmのミニプラグ。ソース機器側の端子が2.5mm/4極のバランスケーブルのほか、3.5mmのアンバランスケーブルが、長さが違う1.6mと3.0mの2種類付属します。ポータブルからホームリスニングまで活躍できる場面の広いヘッドホンといえるでしょう。ぜひ思い思いの音楽リスニングを、復活を遂げたパイオニア「MONITORシリーズ」で味わってみてはいかがでしょうか?