ボルシア ドルトムント Official Websiteより

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 ドイツのドルトムントで4月11日にチームバスを狙った爆破事件が発生しました。10日後に逮捕された容疑者は、ドイツとロシアの二重国籍を持つセルゲイ・V(28歳)でした。ドイツ当局の発表では、セルゲイ・V容疑者は、ドルトムント株暴落を狙っていたとしています。

 具体的には、ドルトムント株式に関わるプットオプションを購入していたという話です。プットオプションというのは、ある特定の値段で「売ることができる権利」です。

 例えば、1万円の商品があり、これを1万円で「売る権利」を得たとします。

 その後、何らかの理由でこの商品の値段が8千円になったとします。商品の値段が8千円になったとしても、1万円で「売る権利」を持っていれば、実際の値段が8千円であったとしても、1万円で売ることができるわけです。よって、差額で儲けることができるという仕組みです。

◆容疑者の目論見通りにはいかず

 容疑者は具体的にどのようなプットオプションを購入していたのでしょうか。

 ドイツの現地報道では、容疑者は15000株のプットオプションを購入したとされています。この値段が78000ユーロとされていますから、1株あたり5.2ユーロの計算になります。

 容疑者は「売る権利」を買ったわけです。つまり、5.2ユーロから株が下がれば下がるほど容疑者は儲かる「はず」でした。

 単純な足し算の計算では、5.2ユーロから0.1ユーロの下げで、1500ユーロ儲かる計算となります(注:現実世界ではプレミアムの考慮などが必要なので、儲けはもっと低くなります。)

 さて、容疑者はプットオプションを購入し、爆破事件を起こしました。ここでの株価の動きはどうだったでしょうか。

◆主力選手複数名が長期離脱すれば、容疑者は儲かっていた

 ドルトムント株は11日の終値で5.61ユーロ。

 事件が発生し、翌日は「一時的に」数%下がりましたが、その後再び値を上げ、12日の終値は5.71ユーロでした。終値としては下がるどころか、前日より1.8%の上昇をした形となります。その後下がる日もあり、20日は5.42ユーロとなりましたが、容疑者が下がってほしいといえる地点までは、まったくもって下がらなかったといえます。

 株の値上がり、値下がりを予測するのが、いかに難しいかを改めて考えさせられる事例であるともいえます。

 なお、今回の爆破事件によるけが人は、マルク・バルトラ選手と警官の2名となります。両名とも幸いなことに命に別状はなく、今回の爆破事件による死亡者はゼロ。

 しかし、被害がもっと大きかったらと仮定してみましょう。死亡者がいた、または主力選手複数名が長期離脱を余儀なくされた場合はどうでしょうか?

 そうなると、ドルトムントはチームとしては危機的状況となり、強いサッカーチームとしては機能しなくなっていた可能性がありました。チャンピオンズリーグどころの話でもなかったでしょうし、今後のチーム運営にも多大な影響があったことでしょう。

 このとき初めて、チームの株価は暴落へと向かう可能性があったわけです。その意味で、より多数の被害者がでるであろうと考えていた容疑者の計画は失敗に終わったといえます。

◆当初から複数の専門家がイスラム過激派犯行説に懐疑的

 なお、容疑者にとってもう一つの誤算がありました。それは犯行声明です。

 容疑者は犯行声明を記した手紙を残し、あたかも今回の爆破事件が、イスラム国(IS)関連のテロのように仕向けました。

 しかしながら、ドイツの複数の専門家はこの犯行声明は少し怪しいと捜査の早い段階で分析したわけです。ISのやり方とはまったく異なり、実際のところはISとは関係ないのではないだろうかと考えました。

 まさに容疑者にとっては、誤算続きの爆破事件となったわけです。

<文/岡本泰輔>

【岡本泰輔】
マルチリンガル国際評論家、Lingo Style S.R.L.代表取締役、個人投資家。米国南カリフォルニア大学(USC)経済/数学学部卒業。ドイツ語を短期間で習得後、ドイツ大手ソフトウェア会社であるDATEVに入社。副CEOのアシスタント業務などを通じ、毎日、トップ営業としての努力など、経営者としての働き方を学ぶ。その後、アーンスト&ヤングにてファイナンシャルデューデリジェンス、M&A、企業価値評価等の業務に従事。日系企業のドイツ企業買収に主に関わる。短期間でルーマニア語を習得し、独立。語学コーチング、ルーマニアビジネスコンサルティング、海外向けブランディング、財務、デジタルマーケティング、ITアドバイスなど多方面で活動中。