sébuhiroko(写真=山川哲矢)

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 ある時は映画・ドラマ・CMなどの作品を彩る映像音楽家、またある時は歌手などに楽曲提供を行う作曲家、さらにはチャットモンチー、くるり、plentyなどのライブにコーラスや鍵盤・アレンジで参加、自らシンガーとして作品を生み出すミュージシャン……あらゆるアプローチで音楽と密接に関わりあうマルチアーティスト、世武裕子。シンガー・作曲家としては2015年よりsébuhiroko名義で活動する彼女が4月19日、LIVE HOUSE FEVERにて自主企画『Her Majesty’s Secret Night : Part 機戮魍催した。

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 シンガーの活動と並行しながら、企業CMやドラマなどの映像に欠かせない音楽家としてキャリアを重ねてきた世武裕子。近年でも、弾む鍵盤のサウンドが印象的な「UNIQLOヒートテック 『2つの進化』篇」の音楽や、普遍的で温もりあるNHK連続テレビドラマ小説『べっぴんさん』の劇中歌、山口一郎(サカナクション)が歌唱する「オロナミンC ハツラツタワーのある街 『帰郷篇』」CMソングの編曲を担当するなど、日常で耳にする数々の音楽を手がけている。

 そして、そういった活動とは一味違った才能を覗かせるのが、sébuhirokoとしての姿だ。特に2016年11月に発表された『L/GB』では、耽美な世界観による独自のニューウェーブを展開し、ダンスミュージックに接近。作詞作曲編曲のすべてを手がけた同作で、アーティスティックな一面を大胆に開花させていた。今回初開催の自主企画では、そのsébuhirokoのアーティスト性と表現力の高さを体感することとなった。

 この日、まずゲストとして登場したのは向井秀徳のソロ名義である向井秀徳アコースティック&エレクトリック。向井もNUMBER GIRLを経て、ZAZEN BOYSとKIMONOSの活動、数々のミュージシャンや映画への楽曲提供など、sébuhirokoと同じくあらゆるアプローチで音楽活動を行うミュージシャンの一人だ。

 向井は缶ビール片手にステージに現れると、おもむろに「ZEGEN VS UNDERCOVER」を歌いはじめた。アコースティックギターでアルペジオを奏で、叫び、語るように歌う向井は、フロアを一瞬ではりつめた空気に変えた。「ディス・イズ・向井秀徳」とお決まりの挨拶をはさみ、続けて歌われた「6本の狂ったハガネの振動」「Water Front」や新代田バージョンの語り部から始まった「TRAMPOLINE GIRL」では、バンドのオリジナルよりも思春期の一コマや都会の喧騒といった風景が目の前に浮かぶ。それらを朗々と歌い上げる向井の姿はまるで吟遊詩人のようでもあった。向井は「前髪」「SAKANA」や童謡「赤とんぼ」、映画『ディストラクション・ベイビーズ』主題歌の「約束」や映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』に提供した「天国」を披露し、最後は「はあとぶれいく」を歌い、ステージを去った。

 ほどなくして、いよいよsébuhirokoが村田シゲ(Ba/Syn/□□□)、岡本啓佑(Dr/黒猫チェルシー)とステージに登場。最新作『L/GB』より「April 11」「Too Far」「John Doe」を立て続けに披露した。ダンサブルなビートと浮遊するシンセサイザーの音色、sébuhirokoの深く響く低音と吐息のようなハミングを操る妖艶な歌声がとても心地よい。カバー曲のパートでは、急遽出演できなくなった常田大希(Gt/PERIMETRON/Srv.Vinci)のピンチヒッターとして澤竜次(Gt/黒猫チェルシー)も演奏に参加。安藤裕子に提供した「溢れているよ」、Rammstein「Mein Land」を披露すると、ZAZEN BOYS「Honnoji」では、サングラスをかけたZAZEN仕様の向井秀徳が飛び入り参加。オリジナルを歌う向井とフランス語で歌うsébuhirokoの掛け合いから、sébuhirokoモードにリアレンジされた展開へ。そしてラストにむかって激しさを増す演奏で最高潮を迎え、スペシャルセッションを終えた。

 その後の『WONDERLAND』(2015年)の「美しいあなた」は鍵盤弾き語り、「Wonderland」は村田シゲとともに砂原良徳が手がけたリミックスバージョンで披露。sébuhirokoが弾く鍵盤と儚くも力強い歌声には、聴く者のイマジネーションを掻き立てる広がりがある。「November」で再びバンドを呼び込むと、本編最後には、やわらかくリズミカルなビートが響くポップなダンスナンバー「YOU」。さらに、アンコールではエレキギター片手に新代田FEVERと縁深いCrypt Cityとの共作「Night Walk」を独奏し、この日のステージの幕を下ろした。

 向井秀徳とsébuhiroko。両者に共通するのは、言葉や歌を音楽にのせて情景を映し出すストーリーテラーとしての表現力だ。ライブで視覚的な表現が重要視されることも多い昨今、音楽にじっくりと耳を傾け、自らの中で情景を思い浮かべることができた充実したひとときでもあった。この自主企画は、早くも8月30日に同じくLIVE HOUSE FEVERにて次の開催が予定されているという。次回も新たなゲストとともに、音楽が持つ本質的な素晴らしさを届けてくれることだろう。(久蔵千恵)