クリープハイプ『イト』通常盤

写真拡大

 移動中、スマートフォンで動画のひとつとして音楽を“観る”という行為が定着して数年。ユーザーに興味を持たせ、飽きさせないMVは、ここにきてさらに重要になっている。そこで今回は、優れた映像表現を備えた(つまり、MVがおもしろい)アーティストの新曲を紹介。楽曲のテーマ、世界観と強くリンクした映像芸術を楽しんでほしい。

動画はこちら

 「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」「鬼」など、映画監督の松居大悟(映画『アフロ田中』『アズミ・ハルコは行方不明』など)とのコラボレーションによる優れたMVを制作してきたクリープハイプ。菅田将暉主演の映画『帝一の國』主題歌として書き下ろされた新曲「イト」のMVは、劇団「ヨーロッパ企画」の映像部門を手がける山口淳太を起用、紙人形と実写を融合して撮影された“ハイブリッド・ペープサート”作品だ。紙人形のメンバーが本物のメンバーによって操られながらバンド活動を行う(ライブをやったり、プロモーションしたり、グラビアアイドルといい関係になって写真週刊誌に撮られたり)というシニカルなストーリーは、“糸”と“意図”のダブルミーニングを込めた「イト」のテーマ性とも上手く重なっている。尾崎世界観(V/Gt)の紙人形の顔が微妙に違っていたり、清水ミチコ、ほいけんた、都丸紗也華といったゲスト陣が出演するなど、無数の仕掛けが施された濃密なMVだと思う。

 「SHIKIBU feat.阿波の踊り子(チャットモンチー)」に続くレキシの2ndシングル曲「KATOKU」(アーティスト写真のテーマは徳川家の幼名“竹千代”)は、80年代のメジャーな洋楽(ダリル・ホール&ジョン・オーツ、Foreigner、Journeyなど)を想起させるバンドサウンドを取り入れたナンバー。MVのコンセプトも当然80年代ロックなのだが、バックメンバーの衣装、髪型、振り付け、映像のアングル、カット割り、編集に到るまで、驚くほどのこだわりを発揮。しかも撮影には80年代にプロユースの真空管式ビデオカメラとして重用された「HL-95」を使用し、当時のMVの映像をリアルに再現しているのだ。オマージュとかパロディという枠を超えた、あまりにも“そのまんま”な仕上がりはまさに驚愕。「ここまでやる?」とツッコミたくなるほどの徹底ぶり、おもしろいと感じたことをどこまでも追求する姿勢こそがレキシの本質なのだと、再確認させられる作品である。

 ブレイク必至という呼び声も高いポルカドットスティングレイの1stミニアルバム『大正義』。代表曲「テレキャスター・ストライプ」のMVがYouTube再生回数440万回を突破するなど、もともと映像表現に優れたバンドなのだが、本作のリード曲「エレクトリック・パブリック」のMVもきわめて秀逸。普段はOLやカフェ店員、弁当工場などで働いているメンバーが“正義の味方 ポルカドットスティングレイ”に変身、事件を次々と解決していくストーリーは、バンドの中心である雫(Vo/G)のペンによるもの。バンドの演奏シーンと特撮ヒーローものが交互に繰り返される映像からは2.5次元的なイメージも感じられ、邦楽ロックファンだけではなく、アニメファン、アイドルファンなどにもアピールするはず。ゲーム、アプリのディレクターとしても活動している雫のクリエイティビティ、そして、ユーザーを惹きつける仕掛けの上手さが存分に発揮された作品と言えるだろう。

 アニメ『GRANBLUE FANTASY The Animation』(TOKYO MX)エンディングテーマとして制作されたHARUHIの「ソラのパレード」は、エキゾチックな響きを持ったメロディ、オーガニックな手触りと壮大なスケールを共存させたサウンドメイクを軸にした楽曲。「空に向かって旅を続けていく前向きなイメージと同時に、表と裏を意味するような、2つの世界を表現した楽曲」(HARUHI)というアンビバレンツな魅力は、MVの世界観にも直結している。監督はBUMP OF CHICKEN、Superfly、エレファントカシマシなど数多くのMVを手がけてきた映像作家・番場秀一。光と影、現実と架空、開放と抑圧といった対になるファクターを効果的に取り入れながら、「ソラのパラード」の世界観を美しく描き出すことに成功している。これまでにもアートディレクターの森本千絵、映画監督の深田晃司などとコラボレーションを繰り広げてきたHARUHI。アート志向の強い彼女は、音楽を映像的に表現することにおいても、際立ったセンスを持っているようだ。

 ニューウェーブ、オルタナ、ヒップホップ、ファンクなどをザックリと取り入れながら独自のバンドサウンドを作り上げ、<就活 婚活 どう勝つ?>(「クールクールビジョン」)、とガールズトークのような歌を楽しそうに奏でる4人組女子バンド・CHAI。「NEO(ニュー・エキサイト・オンナバンド)」を掲げる彼女たちの2ndEP『ほめごろシリーズ』のリード曲「ボーイズ・セコ・メン」のMVでも、その自由すぎる創造性を思い切り発揮している。MVの監督、制作を担当したのは、女子クリエイター集団・チーム未完成。ハウスキーピングサービスから派遣されたCHAIのメンバーが、料理、掃除、ベビーシッターをやりながら、家を散らかしまくっていくMVは、このバンドが持っている“天然のアナーキー”“ナチュラルな過激っぷり”を浮き彫りにしている。ローファイにしてハイセンス。やっぱり女子はすごい。(森朋之)