連続テレビ小説「ひよっこ」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第4週「旅立ちのとき」第19回 4月24日(月)放送より。 
脚本:岡田惠和 演出:黒崎博


19話はこんな話


大晦日、実お父さん(沢村一樹)は帰ってこなかった。

いまは楽しいのしか見たくないの。


桑田さんがムーディーに歌う「愛のことばをリル」の「リル」ってなんだろうと毎朝気になっています。
おそらく戦前戦後の歌「上海帰りのリル」とか「上海リル」という歌と関連があるのではないかと想像するのですが・・・。

さて、1964年の暮れ。オリンピックのあった年だというのに、奥茨城村は淡々と冬支度。
とりわけ、谷田部家は、いつもの冬よりも寒く感じられるという。それはお父さんが帰ってくるかわからないから。国立競技場ほか、東京開発のために尽力したお父さん、いったい、どこ行っちゃったのか・・・。

みね子(有村架純)は、評判の吉永小百合主演映画「愛と死をみつめて」を観に行く予定だったが、行かないで家の仕事をする。
「楽しい映画は好きだけど、悲しい映画は苦手なの」
「愛と死をみつめて」はいわゆる難病悲恋もの。公開された9月からお父さんが消息不明だから、よけいに観たくないかもしれない。

これは我が家からのお歳暮です


お父さんがいないので、送金が停まってしまっていることを心配した時子(羽田美智子)がお金を渡そうとすると、美代子(木村佳乃)は「お金借りて一生の引け目を感じたくない」と断る。
当たり前だよねー。お金は借りられないよねー。でも、時子は諦めず、代わって、お肉や鮭など物資を大量にもってくる。
その友情を受ける美代子。
こういうやりとりができるということは、信頼関係が強いってことだ。なかなかできないですよ。どうしてもぎくしゃくしてしまいますよ。すてきな関係です。

お父ちゃんね、東京で迷子にまっちまったしまったみたいなんだ


1964年、最後のバスに、お父さんは乗っていなかった。
そして1965年のお正月。お父ちゃんはいないけど、送金もストップしているけど、家族そろって着物着て、けっこう豪勢なおせちを並べて、お年玉もふるまわれた。
みね子(有村架純)までが妹と弟にお年玉を。谷田部家の大人と認められたから、お年玉をあげないとって思ったのだろうか。立派だ。みね子を見ていると、自分が恥ずかしくなる。

「東京に行くことに決めました」と宣言するみね子。
とうとう進にもほんとうのことを言う。でも、言い方に相当気を使っている。

「お父ちゃんね、東京で迷子になっちまったみたいなんだ。
だからお姉ちゃん、見つけてくるしかなかっぺ」

名台詞の蔵にうやうやしく収めたいセリフ。

あとで、美代子が「お母ちゃんから言うべきだった」と詫びると、
「お母ちゃんに言わせたくねえよ。
だから自分から言ったんだよ。

だから言わないで。
言わないでお願い。
言わないで」

これもすごいセリフ。
お母さんが言ったら、家のために働きに行かされたことになるから、あくまで自分の意思だってことにしたかったのだろう。
こんなに親思い、家族思いの子供が、1964年時にはまだいたってことなのか。いつの時点でいなくなったのか。「リル」ってなんだろう? ってこと以上に気になってならない。

「ひよっこ」を見ていると、言葉について考えさせられる。
谷田部家のひとはみな、口下手な感じがする。最近のドラマの登場人物には口下手が少ない。みんなやたら饒舌だ。そんななかで、「べっぴんさん」が、口下手ヒロインにして「なんか、なんかな・・・」というセリフを使って表現していたのが注目に値するのだが、「なんか、なんかな」に頼って、肝心の口下手な子の人間性とそこから生まれるドラマが徐々に少なくなっていった。
今回は、もともと、頼れる決めセリフがなく、言葉にできないこと、言葉にしないことにきちっと意味(ドラマ)をもたせている。
有村架純はまだデビューまもない2010年、「SPEC」(TBS)で、うんと年上のおじさんと不倫しているかわいい警官(のちに司法修習生)役をやっていたが、明らかに毒があるのに可愛くてにくめない感じをうまく演じていた。笑顔の下に、言葉にしない気持ちがあることを的確に表現できる才能の持ち主だからこそ、脚本家も安心して、こういう難易度の高いセリフが書けるのだろう。
(木俣冬)